- 先輩から「このラインに10A流すから、パターン幅決めといて」と言われたが、何mmにすればいいかわからない
- とりあえず適当に1mm幅にしたら、客先レビューで「根拠は?IPC-2221に準拠してる?」と聞かれて固まった
- 「電流が多いと太く」までは知っているが、何アンペアで何mmなのかピンとこない
- ネットで「パターン幅 計算」と検索したら数式だらけで、結局何をすればいいかわからなかった
- IPC-2221の計算式を「なぜそうなるか」も含めて完全理解
- 外層と内層でパターン幅が変わる理由
- 温度上昇10℃・20℃・30℃で許容電流がどう変わるか
- すぐに使える計算ツール(無料)の紹介
- 実務で「これ何mm?」と聞かれたら3分で答えられる早見表
基板設計で必ず最初にぶつかる壁が「パターン幅をいくつにすればいいか」です。
細すぎれば発熱・断線、太すぎれば基板サイズが大きくなりコストアップ。この絶妙なバランスを決めるのが、世界中の基板設計者が使っている国際規格IPC-2221です。
この記事を読み終えたとき、あなたは「2A流すなら外層0.5mmでOK」と即答できるようになります。客先レビューで根拠を聞かれても、自信を持って答えられる知識が身につきます。
目次
まず結論:パターン幅の早見表
細かい計算式の前に、結論を見せます。これは銅箔厚35μm(1oz)、温度上昇10℃を前提とした、IPC-2221に基づくパターン幅の早見表です。
基板設計の現場で「2A流すなら何mm?」と聞かれたら、まずこの表を頭に浮かべてください。
| 電流 | 外層パターン幅 | 内層パターン幅 |
|---|---|---|
| 1A | 約 0.3 mm | 約 0.7 mm |
| 2A | 約 0.5 mm | 約 1.4 mm |
| 3A | 約 0.9 mm | 約 2.4 mm |
| 5A | 約 1.9 mm | 約 5.0 mm |
| 10A | 約 6.0 mm | 約 16 mm |
ぱっと見て気づくのは、内層は外層の2〜3倍の幅が必要ということです。これは「内層は熱が逃げにくい」ためです。詳しい理由は後ほど解説します。
この表は「温度上昇10℃」の比較的安全な条件です。実際の設計では、周囲温度・他の部品の発熱・基板の冷却条件を考慮して、必ず2倍程度のマージンを取ることが推奨されます。

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そもそもなぜパターン幅が重要なのか?
基板上の銅箔(パターン)には、当然ながら抵抗があります。電流が流れると、抵抗によってジュール熱が発生します。
パターンは「水道管」と同じ
パターンを水道管に例えるとわかりやすいです。
細すぎるパターン
- 電流(水量)が流れにくい
- 抵抗が大きく発熱する
- 最悪、銅箔が焼き切れる(断線)
適切なパターン
- 電流が無理なく流れる
- 発熱が許容範囲内
- 基板サイズも最小限
細すぎると何が起きる?
パターン幅が不足していると、以下のような問題が発生します。
- 温度上昇による樹脂劣化:基板の絶縁樹脂(FR-4など)はガラス転移温度Tgを超えると軟化します。長期使用で剥離や反りの原因に
- ハンダ接合部の劣化:熱応力でハンダクラックが発生
- 電圧降下:細いと抵抗が大きく、IC手前で電圧が落ちて誤動作
- 最悪、断線・発火:許容電流を大きく超えると、銅箔が溶断(ヒューズと同じ原理)
私が新人の頃、適当に決めたパターン幅で試作品を作ったら、通電30分で焦げ臭くなりました。テスターで測ると、パターンの両端で1V以上電圧降下していた…という苦い経験があります。「電流が多いライン」は最初に幅を計算する癖をつけましょう。

IPC-2221とは?基板設計の世界共通ルール
IPC-2221は、アメリカの電子機器業界団体IPC(Association Connecting Electronics Industries)が発行する、プリント基板設計の一般要求事項を定めた国際規格です。
パターン幅と許容電流の関係は、この規格の中でグラフと計算式で示されており、世界中の基板設計者が共通の基準として使っています。
なぜIPC-2221に従うのか?
客先や上司から「設計根拠は?」と聞かれたとき、「自分の経験で決めました」では通りません。「IPC-2221に基づいて計算しました」と答えれば、それだけで設計の正当性が保証されます。
IPC-2221は1998年に制定された規格で、すでに30年近い実績があります。自動車、医療機器、産業機器などのほぼ全ての業界で「これに準拠していればOK」と認められている、いわば基板設計の業界標準です。
IPC-2221とIPC-2152の違い
「IPC-2152もある」という話をよく聞きますが、これは2009年に制定された新しい規格で、IPC-2221の計算式が「やや保守的すぎる(=安全側に振りすぎ)」という指摘を受けて改訂されたものです。
IPC-2221 (1998)
- 古典的・保守的
- 計算式がシンプル
- 多くの企業で標準採用
- 初心者はまずこちら
IPC-2152 (2009)
- より精密・実測ベース
- 条件パラメータが多い
- パターンを細くできる
- 高密度設計向け
本記事では、まずシンプルで使いやすいIPC-2221をメインに解説します。これがわかればIPC-2152も理解しやすくなります。

IPC-2221の計算式を完全解説
いよいよ計算式です。難しく見えますが、やっていることは「許容電流から、必要な銅箔の断面積を求める」だけです。順番に追っていきましょう。
IPC-2221の許容電流の式
k:定数(外層 = 0.048、内層 = 0.024)
ΔT:許容温度上昇 [℃]
A:パターンの断面積 [mil²](mil = 1/1000インチ)
式の意味を直感で理解する
数式は3つの「掛け算」でできています。それぞれの意味を見ていきましょう。
外層0.048・内層0.024。内層が外層の半分になっているのは「内層は熱が逃げにくいから」です。同じ電流を流すには、内層は外層より太い銅箔が必要になります。
許容温度上昇が大きいほど、流せる電流も増えます。「ちょっと熱くなってもいい」と妥協すれば、細いパターンで多くの電流が流せます。
パターン断面積(幅×厚み)が大きいほど、流せる電流も増えます。当たり前ですね。指数が0.725なので「2倍太くしても、許容電流は約1.65倍にしかならない」点に注意。
この式の単位はmil²(ミル平方)です。1 mil = 0.0254 mm。日本の現場ではmm単位で考えるので、最後に単位変換が必要です。実務では計算ツールを使うのが楽です(後述)。

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実際に計算してみよう:2A流す場合
公式だけでは何のことかわかりません。実際の数値を入れて計算してみます。
条件設定
- 流したい電流:2A
- 銅箔厚:35μm(1oz、標準)
- 許容温度上昇:10℃
- 位置:外層(k = 0.048)
計算ステップ
公式を「Aについて解く」形に変形します。
A = (I / (k × ΔT^0.44))^(1/0.725)
数値を代入:
A = (2 / (0.048 × 10^0.44))^(1/0.725)
A = (2 / (0.048 × 2.754))^1.379
A ≈ 27.4 mil²
必要な断面積は 27.4 mil²。35μm(=1.378 mil)で割って幅を求めます。
幅 = 27.4 / 1.378 ≈ 19.9 mil
milをmmに変換(1 mil = 0.0254 mm):
幅 ≈ 19.9 × 0.0254 ≈ 0.51 mm
2Aを外層・35μm・温度上昇10℃で流すには、パターン幅 約0.5mmが必要。早見表の値と一致しますね。
毎回この計算を電卓で叩くのは大変です。実務ではExcelに計算式を埋め込むか、後述の無料計算ツールを使います。重要なのは「式の意味」を理解しておくこと。これがわかっていれば、ツールが出した値が妥当かどうか判断できます。

外層と内層で計算が違う理由
早見表を見ると、内層は外層の2〜3倍の幅が必要でした。なぜでしょうか?
熱の逃げ道の違い
パターンが発熱したとき、その熱がどこに逃げるかを考えてみましょう。
外層(表面)
- 空気に直接触れる
- 対流で熱が逃げやすい
- 放射でも放熱できる
- → 細くてもOK
内層(基板の中)
- 絶縁樹脂に挟まれている
- 樹脂は熱を通しにくい
- 放熱経路が限られる
- → 太く必要
これは魔法瓶の中身と外側の温度を考えるとわかりやすいです。外側はすぐ冷めますが、中身は何時間も熱いまま。内層パターンも同じで、熱がこもりやすいのです。
IPC-2221の係数の違い
この熱の逃げ方の違いが、計算式の係数kに反映されています。
| 配置 | 係数 k | 同じ電流に必要な断面積 |
|---|---|---|
| 外層 | 0.048 | 基準(×1) |
| 内層 | 0.024 | 外層の約2.7倍 |
大電流ラインを内層に通すと、必要な幅が想像以上に大きくなります。電源系の太いラインは、可能な限り外層に配置するのが鉄則です。

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温度上昇ΔTの決め方
計算式の中に出てきた「許容温度上昇ΔT」。これを何℃に設定するかで、必要なパターン幅が大きく変わります。
ΔTの目安
| ΔT | 用途・推奨ケース | パターン幅の傾向 |
|---|---|---|
| 10℃ | 高信頼性が必要(医療・自動車・産業機器) | 太め(安全側) |
| 20℃ | 一般的な民生機器 | バランス型 |
| 30℃ | 小型化優先(短時間使用機器) | 細め(攻めの設計) |
なぜΔTが大きいと細くできるのか?
「温度上昇を許容する」とは、「パターンが多少熱くなってもOK」と妥協することです。
例えば周囲温度25℃で、ΔT=10℃なら最終温度35℃、ΔT=30℃なら最終温度55℃です。後者の方が熱いですが、その分細い銅箔でも電流が流せる、という考え方です。
ただし、周囲温度が既に高い環境(例:夏の車内 = 70℃)では、ΔT=30℃にすると基板温度が100℃を超えてしまいます。FR-4基板のガラス転移温度Tgは130℃程度なので、安全マージンが取れません。使用環境の最高温度から逆算してΔTを決めることが重要です。
迷ったらΔT=10℃で計算してください。これは業界で広く使われる「無難な値」です。基板スペースに余裕があるなら、これ以上攻めない方が長期信頼性で得をします。

銅箔厚との関係
パターンの「断面積」は、幅 × 厚みで決まります。つまり、銅箔を厚くすれば、同じ電流をより細い幅で流せるということです。
標準的な銅箔厚
| 表記 | 厚み | 用途 |
|---|---|---|
| 1oz(標準) | 35μm | 一般的な信号系・低電流回路 |
| 2oz | 70μm | 電源系・中電流(5〜10A) |
| 3oz | 105μm | 大電流・パワエレ・モーター制御 |
銅箔を厚くするメリット・デメリット
メリット
- パターンを細くできる
- 大電流を流せる
- 放熱性も向上
デメリット
- 基板コストが上がる
- 細いパターンが作りにくい(ファインピッチ不向き)
- エッチング時間が長くなる

無料で使えるパターン幅計算ツール
毎回電卓で計算するのは大変です。実務では以下のような無料ツールを使うのが一般的です。
代表的な計算ツール
基板設計者の定番フリーソフト。パターン幅だけでなく、ビア電流容量、特性インピーダンスなど多機能。Windows用。「Saturn PCB」で検索すれば公式サイトからダウンロード可。
ブラウザで使えるWebツール。電子部品商社DigiKeyが提供。電流値・温度上昇・銅箔厚を入れるだけで、外層・内層のパターン幅が瞬時に出ます。初心者にはこれが一番おすすめ。
IPC-2221の式をExcelに埋め込んで、自分専用ツールを作るのもおすすめ。式を入力する過程で理解が深まります。客先提出資料にもそのまま使えて便利。
ツールに頼るのは全く問題ありません。ただし、「ツールが何を計算しているか」は理解しておくべきです。これがわかっていれば、出てきた値が異常に大きい・小さいときに「あれ?」と気づけます。
私の職場では、設計レビューで「このパターン幅の根拠は?」と聞かれたら、計算ツールのスクリーンショットを資料に添付しています。「IPC-2221に基づいて、電流○A、温度上昇○℃、銅箔○μmで計算した結果です」と一言添えれば、ほぼ通ります。

実務での注意点とマージンの考え方
IPC-2221の計算結果は「最低限これだけは必要」という値です。実際の設計では、これにマージンを上乗せする必要があります。
考慮すべき4つのマージン要因
IPC-2221は周囲温度25℃を前提。実環境が50℃なら、許容温度上昇を減らすか、パターンを太くする必要があります。
レギュレータICやトランジスタなど発熱部品の近くは、パターン自体の発熱に加えて部品からの熱もかぶります。さらに太く設計すべき。
「平均電流2A」でも、突入電流で瞬間10A流れることがあります。モーター起動時、コンデンサ充電時など。ピーク値で設計するのが基本。
設計で1mmと指定しても、エッチング後は0.9mmになることもあります。±10%程度のマージンを見込んでおくと安心。
実務での推奨マージン
IPC-2221で計算した値の1.5〜2倍のパターン幅で設計する。例えば計算上0.5mmなら、実設計では0.8〜1.0mmにする。これで上記の4要因を概ねカバーできます。
逆に、基板スペースの制約で計算値ギリギリにしか取れない場合は、必ずサーモグラフィで実測してください。シミュレーションだけでは見えない発熱パターンが必ずあります。

よくある失敗パターン3選
最後に、新人の頃によくやりがちな失敗を3つ紹介します。これを知っておけば、同じ穴に落ちません。
失敗①:内層に大電流ラインを通す
「外層は信号で混んでるから、電源ラインは内層にしよう」とやると、必要なパターン幅が想像以上に大きくなります。10A流すために内層16mmなんて取れない、と気づいたときには手遅れ。大電流ラインは原則として外層です。
失敗②:ピーク電流ではなく平均電流で設計する
モーター負荷やコンデンサ充電回路では、平均電流の3〜5倍のピーク電流が流れます。「平均2Aだから0.5mmでOK」と設計すると、起動時の瞬間電流で発熱・劣化します。必ずピーク値で計算してください。
失敗③:ビアの電流容量を忘れる
パターン幅は十分でも、外層から内層への乗り換えで使う「ビア」が細いと、そこがボトルネックになります。一般的なΦ0.3mmビアの許容電流は約1Aです。10A流すなら、最低でもビアを10個並列で打つ必要があります。
私が品質保証部時代に見た不具合の中で、「パターンは太いのにビアで発熱」というケースが何件かありました。設計者は意外とビアを見落としがちです。「電流の通り道全部」を計算してください。

まとめ:3つのチェックリストで設計レビューを乗り切る
この記事の内容を、設計レビュー前のチェックリストとしてまとめました。
- 電流値はピークで計算したか?(突入電流・モーター起動電流を考慮)
- 外層・内層を区別したか?(内層は外層の2.7倍の断面積が必要)
- 計算値の1.5〜2倍のマージンを取ったか?(周囲温度・隣接部品発熱・製造ばらつき)
基板設計の現場では「IPC-2221に基づいて計算し、1.5倍のマージンで設計しました」と説明できれば、まず問題ありません。逆に、根拠なく「経験で決めました」だと、大手客先のレビューでは通りません。
最初は計算ツールを使ってOKです。少しずつ「式の意味」を理解していけば、ツールの結果を見て「これは妥当か?」と判断できる目が育ちます。
パターン幅の設計は、基板設計の最も基本的なスキルです。ここをしっかり押さえれば、自信を持って次のステップ(GND設計、ノイズ対策、熱設計)に進めます。

📚 次に読むべき記事
パワエレ基板設計の全体像を体系的に整理。パターン幅を学んだ後の次のステップが明確になるロードマップ記事です。
パターン幅と並んで重要な「銅箔厚」の選定方法。大電流回路で必須の知識です。
パターン幅を決めたら、次はGND設計。ノイズ対策の最初の一歩です。
外層・内層の使い分けに関わる、層構成の基本。本記事と合わせて読むと理解が深まります。
パターンの発熱問題を深く理解したい方へ。熱設計の基本となる熱抵抗の考え方を解説。