- パワーICのデータシートに「放熱パッドの下にサーマルビアを配置」と書いてあるが、何本必要かわからない
- とりあえずビアを9本並べてみたが、本当に足りているか不安
- ビア径やピッチをどう決めればいいか、誰も教えてくれない
- 試作したらICが熱保護でシャットダウンした。サーマルビアが原因か判断できない
- サーマルビアの本当の役割(電気じゃなくて「熱の通り道」)
- 本数・ビア径・ピッチの決め方の目安
- 内層GNDプレーンとの正しい接続方法
- 「ビアを増やせばOK」が通用しない理由
前回の記事では「大電流基板で避けるべき設計ミス5選」を扱いました。その中で「ビアの本数不足で焼損」という話が出てきましたね。
今回扱う サーマルビア は、それと似ているようで、目的がまったく違います。
普通のビアは「電気を流す」のが仕事ですが、サーマルビアの仕事は「熱を逃がす」こと。同じ「ビア」でも、設計の考え方が変わります。
この記事では、ICの放熱パッドからの熱をどう内層GNDへ逃がすか、その設計のコツを「家の換気口」のたとえで完全図解していきます。
目次
そもそもサーマルビアって何?=「熱の通り道」
サーマルビアとは、文字通り 「熱(thermal)を逃がすためのビア」 です。ICの裏側にある放熱パッド(=ICの中で発生した熱を基板に逃がすための金属露出面)と、内層や裏面のGNDプレーンを銅で繋ぎ、熱の通り道を作るのが役割です。
普通のビア
目的:電気を流す
設計指標:電流容量[A]
本数:電流に応じて
サーマルビア
目的:熱を逃がす
設計指標:熱抵抗[℃/W]
本数:発熱量に応じて
「家の換気口」をイメージしてください
夏場、エアコンのない部屋で料理をすると、室温がどんどん上がりますよね。窓を開けて換気口を作れば、熱が外へ逃げて快適になります。
サーマルビアも同じです。
ICの中で発生した熱は、放熱パッドという「熱源」に集まります。そのままでは熱は基板上層に閉じ込められて、IC自身の温度を上げてしまう。
そこで、サーマルビアという「下層への換気口」を開けて、内層GNDや裏面銅箔という「広い放熱の海」へ熱を逃がしてあげるのです。
サーマルビアは「電気のため」ではなく「熱のため」のビア。だから設計の指標も「熱抵抗(℃/W)」で考えます。電流計算で考えると、判断を間違えます。

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サーマルビア1本がどれくらい熱を逃がせるか?
設計の前に、まず「ビア1本の実力」を知っておきましょう。
標準的なサーマルビア(ビア径φ0.3mm、ビア長1.6mm、銅メッキ厚25μm)の熱抵抗は約60〜100℃/Wです。「ビア1本で1Wの熱を流すと、約60〜100℃の温度差が生まれる」という意味になります。
熱抵抗:約60〜100 ℃/W(1本あたり)
並列で増やすと、本数に反比例して熱抵抗が下がる
つまり、ビア9本並列にすると熱抵抗は 約7〜11℃/W まで下がる、という計算になります。
| ビア本数 | 合成熱抵抗(目安) | 用途の例 |
|---|---|---|
| 1本 | 約60〜100℃/W | 小信号IC・低発熱(〜0.3W) |
| 9本(3×3) | 約7〜11℃/W | レギュレータ・小型LDO(〜2W) |
| 25本(5×5) | 約2.4〜4℃/W | DC-DCコンバータ(〜5W) |
| 49本(7×7) | 約1.2〜2℃/W | パワーMOSFET・大型IC(5W以上) |
これはあくまで「ビアそのものの熱抵抗」です。実際には放熱パッドや内層GND、外気との熱抵抗も加算されるので、これだけで安心せず、必ず全体の熱回路で評価してください。

ビア径とピッチはどう決める?
本数と並んで悩むのが、ビア径とピッチ(ビア間隔)です。それぞれの基本ルールを押さえましょう。
ビア径=φ0.3mmが標準。大きすぎても問題
「径を大きくすれば熱抵抗が下がるはず」と考えがちですが、ここに落とし穴があります。
φ0.3mm(標準)
熱抵抗とコストのバランス◎
はんだも吸われにくい
φ0.5mm以上
穴からはんだが裏に抜ける
放熱パッドのはんだ不足
大きいビアは、はんだリフロー時に 溶けたはんだが穴を伝って裏面へ抜けて行ってしまう 現象(ソルダーボイド・ソルダースルー)を起こします。結果、放熱パッドのはんだが足りなくなり、肝心の「IC↔パッドの熱伝達」が悪化する。本末転倒です。
業界の鉄板ルールは 「サーマルビアはφ0.2〜0.3mm、ピッチ1.0〜1.2mm」。多くのIC(TI・ADI・STなど)のデータシートでも同じような推奨値が示されています。
ピッチ=1.0〜1.2mmが目安
ピッチ(ビアとビアの中心間距離)は、密にしすぎても効果が頭打ちになります。
| ピッチ | 特徴 |
|---|---|
| 0.6〜0.8mm | 密。効果は若干上がるが製造難度UP・コスト増 |
| 1.0〜1.2mm | 標準。熱性能・製造性のバランス◎ |
| 1.5mm以上 | 疎すぎ。本数が増えても効果が分散する |
ピッチが広すぎると、放熱パッド内に「熱が逃げない場所」ができて、その下のICの一部だけが集中的に熱くなることもあります。「均等に並べる」のが鉄則です。

内層GNDへの接続=「広い海」を用意する
サーマルビアで頑張って熱を内層に降ろしても、内層側のGNDが貧弱だとそこで熱が滞留します。下水管を太くしても、下水処理場が小さければ詰まるのと同じ。
サーマルビアの設計は「ビアそのもの」だけでなく、接続先のGNDプレーンの広さもセットで考えましょう。
内層GNDはベタ(広い面)で接続する
細い線ではなく、広いプレーンに「面」で接続するのがベスト。熱は面で広がる方が逃げやすい。
サーマルリリーフはOFFにする
製造ソフトの初期設定では「十字接続(サーマルリリーフ)」になっていることが多い。これでは熱の通り道が極端に狭くなる。
裏面にも放熱銅箔を敷く
4層基板なら、裏面(L4)にも広いGNDプレーンを設け、サーマルビアで貫通させる。これで「外気への放熱」もできる。
サーマルリリーフON
十字の細い線でしか繋がっていない
熱がここで詰まる
サーマルリリーフOFF
広いベタ面に直接接続
熱がスムーズに広がる
サーマルリリーフをOFFにすると、製造時のはんだ付けで熱が逃げやすくなり、はんだ不良を招く可能性があります。製造部門と必ず事前に相談してください。

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サーマルビア設計の落とし穴3選
「ビアの本数を増やせばOK」と思っていると、痛い目に遭います。実際の現場でよく見る3つの落とし穴を紹介します。
落とし穴①:ビア径が大きすぎてはんだが抜ける
前述の通り、φ0.5mm以上のビアを放熱パッドに置くと、リフロー時にはんだが裏面へ流れていきます。結果、放熱パッドのはんだ層が薄くなって 熱伝達が悪化。本末転倒の典型例です。
対策は、ビア径φ0.2〜0.3mmを守るか、ビア埋め(filled via / capped via)仕様にすることです。
落とし穴②:内層GNDがブツ切り
「内層にもサーマルビアを通したぞ!」と安心していたら、内層のGNDが他の配線で分断されていて、熱が広がらなかった――というケース。
必ず内層GNDの「ベタの広さ」を確認してください。サーマルビアの直下が細い島になっていたら、いくらビアを増やしても効果は出ません。
落とし穴③:パッドの外側にビアを打つ
「ビアをはんだの邪魔にしないように」と、放熱パッドの外側にビアを並べるケースをたまに見ます。これではせっかくの熱が、パッドからビアまで遠回りすることになります。
サーマルビアは 放熱パッドの「中」 に配置するのが大原則です。はんだの問題はビア径やビア埋めで対処すべきで、配置を犠牲にしてはいけません。
ICのデータシートには、ほぼ必ず「推奨フットプリント」が載っています。サーマルビアの本数・配置・ピッチも図示されているので、まずはそれに従うのが安全です。

サーマルビア設計の手順=4ステップで完成
ここまでの話を、設計の手順としてまとめます。
ICの発熱量[W]を確認する
データシートのPd(消費電力)を確認。実使用時の損失計算でもOK。
必要な熱抵抗[℃/W]を決める
「Tj(接合温度)−Ta(周囲温度)÷ Pd」で逆算。マージン込みで設計。
ビア本数を決める
「1本60〜100℃/W ÷ 必要本数 = 目標熱抵抗」で逆算。表(ブロック③)を参考に。
径φ0.3mm・ピッチ1.0〜1.2mmで均等配置
放熱パッド内に均等に配置。サーマルリリーフOFF・内層GNDはベタ。
迷ったら
「データシート推奨フットプリント+ピッチ1.0mm+サーマルリリーフOFF」

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まとめ=サーマルビアは「熱の換気口」
今日の話を整理します。
✅ サーマルビアは「熱を逃がす換気口」。電流じゃなくて熱で考える
✅ 1本あたりの熱抵抗は約60〜100℃/W。並列で本数を増やす
✅ ビア径はφ0.2〜0.3mm、ピッチは1.0〜1.2mmが標準
✅ 内層GNDはベタ&サーマルリリーフOFFで「広い海」を用意
✅ 迷ったらデータシートの推奨フットプリントに従う
サーマルビアの設計は、地味ですがパワーIC・MOSFET・LED系基板の寿命と信頼性に直結します。「ビアを9本並べておけばOK」という思い込みを今日で卒業して、熱抵抗ベースで設計できるようになりましょう。
次回は、サーマルビアと並んで重要な「放熱パッド・ヒートシンクの設計」について、より広い視点から解説していきます。お楽しみに。

📚 次に読むべき記事
サーマルビアは熱設計の一部分。全体像を掴むことで、サーマルビアがどの工程に属するか体系的に理解できる入門記事。
サーマルビア設計で必須の「熱抵抗」を、電気のオームの法則と対比してやさしく解説。本記事の理論的バックボーン。
サーマルビアの熱抵抗を「全体の熱回路」に組み込む方法。これができればICが何℃になるかが計算で予測できる。
前回の記事。「ビア1本で大電流を流すと焼損」というリアルな失敗事例を含む、設計のNG集。
「電流のためのビア」設計編。サーマルビアと対比して読むと、ビアの2つの目的の違いがクリアになります。
内層GNDで「広い海」を作る重要性の理論編。内層がなぜ熱に弱いか、放熱の物理から解説。