設計レビューで、若手の電気設計者が「ここは昇圧コンバータでDC12VからDC24Vに上げます」とサラッと言った。会議の全員が頷いている。でも心の中で「待って…そもそも電池1個の電圧より高い電圧って、どこから出てくるの?魔法じゃないの?」と思っていませんか?
学校で習ったオームの法則だと、電圧は電源で決まるはず。なのに「入力5Vから出力12V」みたいな回路が現実に動いている。エネルギー保存則は破ってないよね…?と気になって調べ始めたあなたへ。
😣 こんな悩みはありませんか?- 「昇圧」と言われても、入力より高い電圧が出る仕組みがピンとこない
- インダクタ(コイル)が回路の中で何をしているのか分からない
- 「電流を流し続けたい性質」って、結局どういうこと?
- ブースト・バック・バックブースト…用語が多すぎて混乱する
- 昇圧コンバータが「入力より高い電圧」を作る原理(中学物理の知識でOK)
- インダクタの「電流を流し続けたい」性質の意味
- 4つの主要部品(コイル・MOSFET・ダイオード・コンデンサ)の役割
- 出力電圧の計算式 Vout = Vin / (1−D) の意味
- 身の回りで昇圧コンバータが使われている場所
目次
結論:コイルの「電流を流し続けたい性質」を利用して、瞬間的に高電圧を作っている
先に結論から言います。昇圧コンバータが入力より高い電圧を出せるのは、コイル(インダクタ)が「電流を流し続けようとする性質」を持っているからです。
コイルに電流を流して「勢い」をつけておく → 急に電流の通り道を断つ → コイルは流し続けたいから、自力で高電圧を発生させて電流を流し続ける → その高電圧を取り出して使う
これは「水道のホースを使った遊び」とよく似ています。蛇口から水を勢いよく流して、その途中で急にホースを折り曲げると、水圧が一瞬「ボン!」と上がりますよね。あれと同じことを電気でやっているのが昇圧コンバータです。
エネルギー保存則は破っていません。「高い電圧」を取り出す代わりに、「電流」は減ります。電力 P = V × I は入力と出力でほぼ同じ(実際には損失があるので出力の方が少し小さい)です。

前提:コイル(インダクタ)の「ガンコな」性質
昇圧の原理を理解するには、コイルが持つ「ガンコさ」を知る必要があります。一言で表すと、コイルは「今流れている電流を、急には変えたくない」という性質を持っています。
水車のたとえ:いったん回り出した水車は止められない
コイルは、回転する水車だと思ってください。
水車(コイル)
最初は止まっている。水を流し続けると、ゆっくり回り出す。一度勢いがついたら、簡単には止められない。水を止めても、慣性で回り続けようとする。
電気の世界では
最初は電流ゼロ。電圧をかけると、ゆっくり電流が増える。一度流れ出したら、簡単には止められない。電源を切っても、自力で高電圧を発生させてでも電流を流し続けようとする。
V = L × (di/dt)
「電流が急に変わろうとすると(di/dtが大きいと)、コイルは大きな電圧を発生させる」という意味です。
この「電流が急に変わると大きな電圧が出る」性質こそが、昇圧コンバータの心臓部です。
コイル(インダクタ)って何?|「電流の変化を嫌がる部品」の正体を中学生でもわかるように解説 →
自己インダクタンスL|コイルが「自分自身」に電圧を誘導する不思議な現象 →
昇圧コンバータは「たった4つの部品」でできている
難しそうに聞こえる昇圧コンバータですが、回路の主役はわずか4つの部品です。まずは「誰がどこにいるのか」を覚えてください。
| 部品 | 役割 | たとえると |
|---|---|---|
| L(インダクタ) | 電気エネルギーを溜める/高電圧を発生させる | 水車(勢いを溜める) |
| Q(MOSFET) | 電流の通り道を高速でON/OFFするスイッチ | 蛇口の開閉ハンドル |
| D(ダイオード) | 電流を一方通行にして、出力側に逆流を防ぐ | 逆流防止の弁 |
| C(出力コンデンサ) | 出力電圧を平滑化して、安定した直流を作る | 水を溜めるタンク |
回路の配置:直列にL、地面にQ、出力にDとC
入力(Vin) → L(コイル) → ノードA →(ダイオードD)→ C(コンデンサ)と負荷 → GND
ノードAから地面に向かって Q(MOSFET)が接続されている
ポイントは MOSFETがコイルとダイオードの間(ノードA)から「地面(GND)」に向かって配置されていること。このMOSFETをON/OFFすることで、コイルに「勢いを溜める」と「勢いを解放する」を切り替えています。

動作①:MOSFETをON|コイルに「勢い」を溜める
まずMOSFETをONにすると、何が起きるかを見ていきましょう。
電流の流れ方
MOSFETがONになると、ノードAが「ほぼ地面と同じ電圧(=0V)」になります。すると電流はこんなふうに流れます。
Vin → L → MOSFET(ON)→ GND
つまり「コイルだけを通って地面に直行」する経路
このとき、コイルの両端には入力電圧 Vin がそのままかかります。コイルは電圧をかけられると、ゆっくりと電流を増やしていきます。ここでコイルに「勢い(=磁気エネルギー)」が溜まっていくわけです。
この間、出力側のダイオードDは逆バイアスになっていて電流が流れません。なぜなら、ノードAが0Vになっているのに、出力Voutはコンデンサのおかげで高い電圧(たとえば24V)に保たれているから。ダイオードから見ると「出口の方が電圧が高い」状態で、これは逆流方向です。
負荷(つないでいるLEDやモーター)には、この間、出力コンデンサ C に溜まっていた電気が供給されます。コンデンサが「電池の代わり」をしている瞬間です。

動作②:MOSFETをOFF|コイルが「自力で高電圧」を発生させる
ここからがこの記事のハイライトです。MOSFETを急にOFFにすると、何が起きるか?
コイルの「ガンコさ」が爆発する瞬間
MOSFETがOFFになった瞬間、コイルから地面への通り道が消えます。普通の感覚なら「電流が止まる」と思いますよね。でもコイルはガンコです。「今流れている電流を、絶対に止めたくない」と必死に抵抗します。
そこでコイルは何をするか?自分の両端に、必要な分だけ電圧を発生させるのです。「電流を流し続けるためなら、いくらでも電圧を作るぞ!」という勢いで。
コイルは V = L × (di/dt) の式に従って、電流が急減速しようとすると逆向きに大きな電圧を発生させます。この電圧と入力電圧 Vin が「直列に足し算」されて、ノードAは Vin より高い電圧まで跳ね上がります。
ダイオードが順方向になり、コンデンサに充電
ノードAの電圧が出力電圧 Vout より高くなった瞬間、ダイオードDが順方向になって電流が流れ始めます。コイルに溜まっていた勢い(電流)が、ダイオードを通って出力コンデンサと負荷に流れ込みます。
Vin → L → ダイオードD → 出力コンデンサC・負荷 → GND
入力電源 と コイルが発生させた電圧 が「直列に足し算」されて、Voutへ。
これが「入力より高い電圧が出る」正体です。入力電圧 Vin に、コイルが発生させた電圧が上乗せされるから、Vin より大きな Vout が作れるのです。
- コイル L:電流が減少中(エネルギーを放出)
- MOSFET Q:OFF(電流ゼロ)
- ダイオード D:ON(順方向電流)
- コンデンサ C:充電中(次のON期間に備える)

2つの動作モードを比較する
MOSFETのON/OFFで何が切り替わるか、対比でまとめます。
エネルギー充電フェーズ
- コイル:電流アップ(勢いを溜める)
- ダイオード:逆バイアスで遮断
- 負荷:コンデンサから供給
- 例えるなら:水車に水を流して回す
エネルギー放出フェーズ
- コイル:電流ダウン(勢いを使い切る)
- ダイオード:順方向で電流を通す
- 負荷:入力+コイルから供給
- 例えるなら:水車の慣性で高い場所まで水を上げる
この「ON → OFF → ON → OFF…」を、たとえば 1秒間に10万回(=100kHz)くらいの高速で繰り返しているのが、現代の昇圧コンバータです。人間の目には連続的に動いて見えますが、中身では超高速でスイッチがパチパチ動いているわけです。


出力電圧の式:Vout = Vin / (1 − D)
じゃあ実際に何ボルト出るのか?それを決める式がこれです。
デューティ比 D とは?
デューティ比 D は「1サイクルの中で、MOSFETがONになっている時間の割合」です。
- D = 0.5(50%):ONとOFFの時間が同じ
- D = 0.8(80%):ONの時間が長く、OFFが短い
- D = 0.2(20%):ONの時間が短く、OFFが長い
実際の数値で計算してみる
入力電圧 Vin = 12V の電源から、Vout = 24V を作りたい場合、デューティ比はいくつ?
24 = 12 / (1 − D)
1 − D = 12 / 24 = 0.5
D = 0.5(=50%)
つまり、MOSFETを50%の時間ONにすれば、12Vを24Vに昇圧できます。
| デューティ比 D | Vin = 12V のときの Vout | 昇圧比 |
|---|---|---|
| 0.2(20%) | 15V | 1.25倍 |
| 0.5(50%) | 24V | 2倍 |
| 0.75(75%) | 48V | 4倍 |
| 0.9(90%) | 120V | 10倍 |
式の上では D を 1 に近づければ無限大の電圧が出る計算ですが、現実には部品の損失や寄生抵抗のせいで、実用的な昇圧比は5〜10倍くらいが限界です。それ以上欲しい場合は、トランスを使った「フライバック方式」など別のトポロジーを使います。

「電圧が上がる代わりに、電流は減る」
「入力より高い電圧が出るって、エネルギー保存則を破ってない?」という疑問への答えです。結論:破っていません。
電力は入力=出力(理想的には)
理想的な昇圧コンバータ(損失ゼロ)では、入力電力と出力電力は等しくなります。
Pin = Pout
Vin × Iin = Vout × Iout
これを変形すると、入力電流と出力電流の関係はこうなります。
具体例で見る
Vin = 12V、Iin = 2A の電源から、Vout = 24V を作るとき、出力電流はいくつ?
入力電力 Pin = 12V × 2A = 24W
出力電力 Pout = 24V × Iout = 24W
→ Iout = 1A
電圧が2倍になった代わりに、電流は半分になりました。
これが「タダで電圧を上げる魔法」ではない理由です。電圧と電流はトレードオフの関係になっていて、電力(=エネルギー)は保存されています。
実際の回路には抵抗成分(コイルの巻線抵抗、MOSFETのRds(on)、ダイオードの順電圧Vf など)があるため、効率は90〜95%程度になります。残りは熱として放熱されます。だから昇圧コンバータICには小さなヒートシンクが付いていたりするんですね。

身の回りで「昇圧コンバータ」が使われている場所
原理がわかったところで、「で、これって実際どこで使われてるの?」を見てみましょう。意外と身近にたくさんあります。
| 使用機器 | 入力 → 出力 | なぜ昇圧が必要? |
|---|---|---|
| 100均のLEDライト(乾電池1本) | 1.5V → 3V | 白色LEDの点灯には約3V必要だが、電池は1.5V |
| モバイルバッテリー | 3.7V → 5V | リチウムイオン電池3.7Vから、USB規格の5Vを作る |
| 電気自動車(EV) | 400V → 800V | 急速充電や高効率モータ駆動のため高電圧化 |
| 太陽光発電のパワコン | 数十V → 数百V | パネルの出力電圧を、系統連系できる電圧まで上げる |
| PC・テレビの電源(PFC回路) | AC100V → DC380V | 力率改善(PFC)の心臓部は実は昇圧コンバータ |
| カメラのフラッシュ | 3V → 300V以上 | キセノン管を点灯させるため超高電圧が必要 |
あなたが今日使ったPCやスマホの電源には、ほぼ間違いなく昇圧コンバータが入っています。特にPFC回路(力率改善)の主役は、まさにこの昇圧コンバータなんです。

まとめ:昇圧の正体は「コイルのガンコさ」と「高速スイッチング」
- 昇圧コンバータは「コイル+MOSFET+ダイオード+コンデンサ」の4部品でできている
- MOSFETがON:コイルに電流の「勢い」を溜める
- MOSFETがOFF:コイルが自力で高電圧を発生させ、入力電圧と足し算されて出力される
- 出力電圧は Vout = Vin / (1−D) で決まる(Dはデューティ比)
- 電圧が上がる代わりに電流は減るので、エネルギー保存則は破っていない
- 身の回りのPC・スマホ・EV・LED照明など、ありとあらゆる機器で活躍している
設計レビューで「ここは昇圧コンバータです」と聞いても、もう怖くないはずです。「ああ、コイルに勢いを溜めて、それを解放して入力電圧と足し算してるんだな」とイメージできれば、もう中身は理解できたも同然です。
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