測定技術

波形にリンギングが出る原因|配線とプローブGNDの共犯

📚 測定・計測の技術正しい波形を撮る実践技術
第4章 - 第1回 / 全8回 シリーズ全体: 28 / 69記事
進捗 41%
😣 こんなことで困っていませんか?
  • スイッチング波形に、立ち上がりのあとにビヨンビヨンと揺れる「リンギング」が出る
  • このリンギングが回路の本物の不具合なのか、測定のせいなのか判断できない
  • 対策しようにも、何が原因かわからず手が出せない
✅ この記事でわかること
  • 波形にリンギングが出る原因(2種類ある)
  • 配線インダクタンスとプローブGNDの「共犯関係」とは何か
  • 本物のリンギングと「見かけ上の偽物」を見分ける方法
✅ 結論(30秒で答え)

波形にリンギングが出る原因は2つあります。1つは回路本来のリンギングで、配線インダクタンスと寄生容量がLC共振して起こります。もう1つは「見かけ上のリンギング」で、プローブの長いグランドリード(ワニ口)のインダクタンスとプローブの入力容量が共振して生まれる、測定が作り出した偽物です。グランドリードを短くするだけで消えるリンギングは、後者の偽物です。

そもそもリンギングとは?「電気の揺れ戻し」

リンギングとは、信号が急に変化したあと、波形がビヨンビヨンと揺れて、だんだん落ち着いていく現象です。「減衰振動」とも呼ばれます。鐘(ベル)を叩くと「リーン」と鳴って徐々に消えていく、あの感じに似ているので「リンギング(rinGing=鳴り響く)」と呼ばれます。

電気の世界では、コイル成分(L)とコンデンサ成分(C)が組み合わさると、電気が行ったり来たり揺れる「LC共振」が起こります。これがリンギングの正体です。スイッチング電源やパワエレ回路は、電圧・電流が一瞬で大きく変化するため、リンギングが起きやすい環境です。

💡 イメージ
ブランコを一度強く押すと、しばらく揺れてから止まりますよね。電気もL(コイル)とC(コンデンサ)があると、エネルギーが両者を行き来して「揺れ」が生まれます。それがリンギングです。

原因①回路本来のリンギング|配線インダクタンスの仕業

1つ目は、回路そのものが持つ本物のリンギングです。犯人は、回路図には描かれていない「寄生成分」です。

どんな配線にも、ごくわずかにコイルのような性質(配線インダクタンス)があります。また部品や配線の間にはコンデンサのような性質(寄生容量)もあります。これらは設計図には現れませんが、確かに存在します。スイッチが高速でON/OFFすると、この配線インダクタンスと寄生容量がLC共振し、本物のリンギングが発生します(出典:ROHM「リンギングとは?」)。

📐 本物のリンギングの成り立ち
配線インダクタンス(L)+ 寄生容量(C)+ 高速スイッチング → LC共振 → リンギング

この本物のリンギングは、サージ電圧やノイズの原因になるため、スナバ回路などで対策します。配線インダクタンスとサージの関係は 配線インダクタンスとサージの関係|L×dI/dtがすべてを決める で詳しく解説しています。

原因②見かけ上のリンギング|プローブGNDが犯人

そして、初心者がもっともハマるのが2つ目、「測定が作り出した偽物のリンギング」です。これは回路には存在せず、プローブの当て方が原因で生まれるものです。

犯人はプローブの長いグランドリード(ワニ口クリップのコード)です。この細長いリードにも配線インダクタンスがあります。そしてプローブの先端には入力容量があります。つまり長いグランドリード(L)とプローブの入力容量(C)が、もう一つのLC共振回路を作ってしまうのです(出典:日経クロステック「オシロのリンギングを抑える裏ワザ」)。

これが「共犯関係」の正体

タイトルにある「配線インダクタンスとプローブGNDの共犯関係」とは、まさにこれです。回路側の配線インダクタンスだけでなく、プローブのグランドリードのインダクタンスまでもが共振に加担し、本来より派手なリンギングを画面に映し出すのです。グランドリードが長いほど、この偽リンギングは大きくなります。

⚠️ 実際に起きた失敗
スイッチング波形に派手なリンギングが出て、スナバ回路の不良を疑いました。ところが、グランドリードのワニ口をやめて、プローブ先端の短いスプリングクリップ(バネ)に替えた途端、リンギングがほぼ消えました。原因は回路ではなく、長いグランドリードだったのです。危うく問題ない回路を「不良」と判定するところでした。

グランドリードを短くすべき理由は グランドリードを短くする理由|ワニ口の罠 で詳しく解説しています。

本物のリンギング?見分ける簡単テスト

「このリンギングは回路の本物か、測定の偽物か」を見分けるのは、実はとても簡単です。次のテストをしてみてください。

STEP 1

グランドリードを短くしてみる:長いワニ口リードを外し、プローブ先端の短いスプリングクリップ(バネ)に替える。GND接点を測定点のすぐ近くにとる。

STEP 2

波形の変化を見る:リンギングが大きく減った/消えたら、それは「見かけ上の偽物」だった証拠。

STEP 3

残ったら本物:短くしても変わらず残るリンギングは、回路本来のもの。スナバ回路などで対策する。

💡 鉄則
リンギングを見たら、まず「回路を疑う前にプローブを疑う」。グランドリードを短くしてから判断するのが、無駄な回路改造を防ぐ近道です。

リンギングの対策|偽物と本物で分ける

見かけ上(測定側)の対策

  • グランドリードを短くする(スプリングクリップを使う)
  • GND接点を測定点のすぐ近くにとる
  • ループ面積を最小にする

本物(回路側)の対策

  • スナバ回路で振動を吸収する
  • 配線を短くしてインダクタンスを減らす
  • ゲート抵抗でスイッチング速度を調整する

まずは測定側を疑い、それでも残るなら回路側を対策する。この順番が大切です。本物のリンギングを吸収するスナバ回路は スナバ回路とは?サージ電圧を吸収する仕組み で解説しています。

もう一歩深く|ループ面積がカギ

なぜグランドリードが長いとリンギングが増えるのか、もう一歩だけ深掘りします。キーワードは「ループ面積」です。

プローブの先端と長いグランドリードは、信号が通る「行き」と「帰り」の道を作ります。グランドリードが長いと、この行き帰りが囲む輪っか(ループ)の面積が大きくなります。ループ面積が大きいほどインダクタンスが大きくなり、共振しやすくなる=リンギングが大きくなるのです(出典:OWON「波形が乱れる理由」)。

逆に、短いスプリングクリップでGNDをすぐ近くにとれば、ループ面積はぐっと小さくなり、インダクタンスも減って、偽リンギングが消えます。「グランドリードは短く」が鉄則なのは、このループ面積を小さくするためなのです。

ループ面積とノイズの関係は そもそもノイズとは何か? でも触れています。測定でも回路設計でも、ループ面積を小さくするのは共通の鉄則です。

よくある質問(FAQ)

Q. 波形 リンギング 原因は何ですか?

A. 配線インダクタンスと寄生容量のLC共振です。回路本来のものと、プローブが作る偽物があります。

Q. オシロのリンギングが本物か見分ける方法は?

A. グランドリードを短くしてみて、消えれば測定の偽物、残れば回路本来の本物です。

Q. なぜグランドリードが長いとリンギングが増える?

A. リードのインダクタンスとプローブ容量が共振し、ループ面積が広いほど大きくなるからです。

Q. 本物のリンギングはどう対策する?

A. スナバ回路で吸収する、配線を短くする、ゲート抵抗で速度を調整するなどが有効です。

まとめ

📌 この記事の要点
  • リンギングは、コイル成分(L)とコンデンサ成分(C)のLC共振で起きる「電気の揺れ」。
  • 原因①:回路本来のリンギング(配線インダクタンス+寄生容量)。
  • 原因②:見かけ上のリンギング(長いグランドリード+プローブ容量)。これが共犯。
  • 見分け方は簡単。グランドリードを短くして、消えれば偽物・残れば本物。
  • 鉄則は「回路を疑う前にプローブを疑う」。グランドリードは短く。

派手なリンギングを見ても、すぐ回路を改造してはいけません。まずグランドリードを短くする。それだけで、無駄な作業と誤判定を防げます。これが現場の罠を回避する第一歩です。

S
シラス
電験三種 / QC検定 / メーカーエンジニア(電気・パワエレ実務)

実機(DSO-X 3024A+受動プローブ)でスイッチング波形を測定してきた経験をもとに執筆しています。長いグランドリードが作る偽リンギングをスナバ不良と誤判定しかけた失敗など、現場で実際に効いた手順を書いています。

📚 次に読むべき記事

📘 測定・計測の技術 学習ロードマップ →

全69記事の全体像と学ぶ順番がわかる、シリーズの目次ページです。

📘 グランドリードを短くする理由|ワニ口の罠 →

見かけ上のリンギングを生む長いグランドリードの問題を、さらに深掘りします。

📘 スナバ回路とは?サージ電圧を吸収する仕組み →

本物のリンギングを回路側で抑える代表的な手段を、回路設計の視点から学べます。

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