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報告書に標準偏差を書こうとして Excel の関数を探すと、STDEV.S、STDEV.P、STDEV、STDEVA と似た名前が並んでいます。どれを選んでも数字は出るので、かえって手が止まる。
このブログの「標準偏差とは」の記事は、意味と手計算が中心です。関数の選び方まで知りたい人が多いので、Excel の操作だけを1本に分けました。早見表から読めます。
標準偏差の意味と、電卓で5ステップの求め方はこちら

エクセルの標準偏差の関数の早見表
標準偏差の関数は6つありますが、ふだん使うのは STDEV.S と STDEV.P の2つだけです。STDEV と STDEVP は古い名前で、STDEVA と STDEVPA は文字や TRUE・FALSE も数に入れたいときの関数です。
| 関数 | 割る数 | 使う場面 | メモ |
|---|---|---|---|
| STDEV.S | n−1 | 抜き取った標本から全体のばらつきを推定する(ふつうはこれ) | 今の名前(推奨) |
| STDEV.P | n | 手元のデータが全体そのもの(クラス全員の点数など) | 今の名前(推奨) |
| STDEV | n−1 | STDEV.S と同じ計算 | 古い名前。互換性のために残る |
| STDEVP | n | STDEV.P と同じ計算 | 古い名前。互換性のために残る |
| STDEVA | n−1 | TRUE を1、文字・FALSE を0として計算に入れたいとき | 測定データではまず使わない |
| STDEVPA | n | STDEVA の母集団版 | 測定データではまず使わない |
出典:Microsoft サポート「STDEV.S 関数」「STDEV.P 関数」「STDEV 関数」「STDEVA 関数」。STDEV は「下位互換性のために引き続き利用可能」で、新しい STDEV.S に置き換えられた関数です。
STDEV.S の S は Sample(標本)、STDEV.P の P は Population(母集団)の頭文字です。名前を覚えるより、この2語で覚える方が早い。迷う関数は実質この2つです。
エクセルで標準偏差を求める手順(例のデータで確かめる)
データを1列に入れ、空いたセルに =STDEV.S(B2:B11) と入れると標準偏差が出ます。例の10本の軸の外径なら、STDEV.S は 0.0189mm、STDEV.P は 0.0179mm です。
| セル | 外径(mm) | 平均との差 | 差の2乗 |
|---|---|---|---|
| B2 | 10.02 | +0.017 | 0.000289 |
| B3 | 9.98 | -0.023 | 0.000529 |
| B4 | 10.01 | +0.007 | 0.000049 |
| B5 | 10.03 | +0.027 | 0.000729 |
| B6 | 9.99 | -0.013 | 0.000169 |
| B7 | 10.00 | -0.003 | 0.000009 |
| B8 | 10.02 | +0.017 | 0.000289 |
| B9 | 9.97 | -0.033 | 0.001089 |
| B10 | 10.01 | +0.007 | 0.000049 |
| B11 | 10.00 | -0.003 | 0.000009 |
例のデータは、この記事で用意した値です。差の2乗の合計(偏差平方和)は 0.00321。
関数が正しく動いているかは、手で一度だけ確かめておくと安心です。差の2乗の合計 0.00321 を、n−1=9で割ると 0.000357。その平方根が 0.0189。STDEV.S と同じです。
n=10で割れば 0.000321、平方根は 0.0179。こちらは STDEV.P と一致します。割る数だけが違う、というのが数字で見えます。

STDEV.S と STDEV.P はどれだけ違う?データ数ごとの早見表
STDEV.S は STDEV.P の √(n÷(n−1))倍です。データが5個なら約12%、10個で約5%、30個で約2%大きくなり、数が増えるほど差は小さくなります。
| データの数 n | STDEV.S ÷ STDEV.P | STDEV.S の方が大きい割合 |
|---|---|---|
| 2個 | 1.414倍 | 約41.4% |
| 3個 | 1.225倍 | 約22.5% |
| 5個 | 1.118倍 | 約11.8% |
| 10個 | 1.054倍 | 約5.4% |
| 20個 | 1.026倍 | 約2.6% |
| 30個 | 1.017倍 | 約1.7% |
| 50個 | 1.010倍 | 約1.0% |
| 100個 | 1.005倍 | 約0.5% |
√(n÷(n−1))を計算した値。どんなデータでも、数が同じならこの比は変わりません。
データが少ないほど差が開きます。5個で12%。報告書の数字としては、無視できない大きさです。
理由は、標本の平均がデータの真ん中に寄るぶん、平均からのずれを小さめに見積もってしまうからです。n−1で割ると、その小さめの分が直ります。くわしいわけは次の記事に。
なぜ n−1 で割るのかを、中学の数学で確かめる
品質管理ではどちらを使う?工程能力指数で答えが変わる例
品質の仕事で扱う測定データは、ほとんどが工程から抜き取った標本なので STDEV.S を使います。同じデータでも STDEV.P を使うと工程能力指数が大きく出て、判定が甘くなります。
筆者なら、迷ったら STDEV.S を選びます。理由は1つです。工場のデータはほぼ全部が、「工程の実力」を知るために抜き取った標本だから。ロットを全数検査した値でも、知りたいのが次に作るものの出来なら、標本として扱うのが筋です。
計算例:同じ10本で Cp が変わる
例の外径の規格を 10.00±0.06mm とします。工程能力指数 Cp は、規格の幅を6倍の標準偏差で割った値です。
| 使った関数 | 標準偏差 | Cp = 0.12 ÷(6×標準偏差) |
|---|---|---|
| STDEV.S | 0.0189mm | 1.06 |
| STDEV.P | 0.0179mm | 1.12 |
Cp の式と判定の目安は、工程能力指数の記事で確かめてください。例のデータは10本で、本来の工程能力の調査にはもっと多くのデータが要ります。
同じデータで、1.06と1.12。差は0.06です。判定の目安の1.33に近いデータだと、この差で「足りる」「足りない」が入れ替わることもあります。
品質の現場でよく起きるのは、報告書を作る人によって STDEV.S と STDEV.P が混ざり、同じ工程の Cp が報告ごとに合わないことです。部署で「標準偏差は STDEV.S」と決めて、シートのひな形に式を入れておくと、この食い違いは起きません。
Cp・Cpk の求め方と判定の目安
分散は VAR.S と VAR.P:「標本分散」という言葉に注意
分散の関数も同じ組で、VAR.S が n−1、VAR.P が n で割ります。標準偏差は分散の平方根なので、STDEV.S の2乗が VAR.S、STDEV.P の2乗が VAR.P です。
| 関数 | 割る数 | 例のデータ | 標準偏差との関係 |
|---|---|---|---|
| VAR.S | n−1 | 0.000357 | STDEV.S の2乗 |
| VAR.P | n | 0.000321 | STDEV.P の2乗 |
ここで筆者が迷ったのは、「標本分散」という言葉です。統計の教科書には、n で割った値を「標本分散」、n−1で割った値を「不偏分散」と呼ぶものがあります。一方 Excel は、n−1で割る VAR.S を「標本に基づいて分散を推定する」関数と説明しています。同じ「標本」でも、指す数字が逆になりうる。ここが混乱の元です。
この記事は Excel の言い方に合わせました。そのうえで、毎回「n−1で割る」「n で割る」を書き添えています。言葉より割る数。これで取り違えません。
よくあるエラーと、条件をつけて求める方法
STDEV.S はデータが1個だと #DIV/0! になります(n−1が0になるため)。品番や号機ごとに分けて求めたいときは、Microsoft 365 と Excel 2021 以降なら FILTER 関数と組み合わせます。
| 困りごと | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| #DIV/0! が出る | STDEV.S に数値が1個しかない(n−1=0) | 範囲を見直す。数値が2個以上あるか |
| 思ったより小さい | 0 を入れたセルが混ざっている(空白は無視、0 は数値) | 測っていないセルは 0 でなく空白に |
| 数字が文字になっている | CSV から貼った値が文字列で、無視されている | 「数値に変換」してから計算 |
| 品番ごとに出したい | 1つの範囲に複数の品番が混ざっている | =STDEV.S(FILTER(C2:C31,B2:B31="A")) |
FILTER は Microsoft 365・Excel 2021 以降の関数です。それより前の版では、品番で並べ替えて範囲を分けるか、別のシートに分けて求めます。
分析ツールの「基本統計量」でも標準偏差は出ます。ただ、その標準偏差が STDEV.S と同じ式かは、Microsoft の説明に書かれていません。この記事では確かめていない。使うなら、同じデータで STDEV.S の値と一度見比べてください。
平均の確からしさを示したいなら、標準偏差ではなく標準誤差です。グラフのエラーバーで取り違えやすい組み合わせ。
標準偏差と標準誤差の違いと、SE=σ÷√n の求め方


