- 回路図通りに入力フィルタを配置したのに、EMC試験でノイズレベルが規格を超えて落ちた
- 「コモンモードチョーク」と「Xコンデンサ」「Yコンデンサ」の役割が混乱する
- 先輩から「フィルタの順番が逆だ」と指摘されたが、何が正しい順番なのかわからない
- 同じ部品・同じ回路図で作ったのに、基板によってノイズ性能が全然違う
- コモンモード・ノーマルモードノイズの違いと、それぞれの対策部品
- 入力フィルタの「正しい配置順序」(電源入口から順に何を置くか)
- チョークとコンデンサの「引き回しテクニック」
- EMC試験で一発合格するためのレイアウトのコツ
これまでの記事で、パターン幅・ビア・シールド・ガードパターンの基本を解説しました。基板設計の「電流」と「信号保護」の基礎は身についたはずです。
しかし、製品として世に出すにはEMC試験を通さなければなりません。ここで多くの設計者がつまずくのが入力フィルタの設計です。
入力フィルタは「同じ部品を使っても、配置と引き回しで性能が10倍変わる」と言われるほどシビアな世界です。回路図通りに置くだけでは、まず通りません。
この記事を読み終えたとき、あなたは「電源入口からX→チョーク→Y→ICの順で、入力と出力を絶対に交差させない」と即答できるようになります。EMC試験で苦労する確率を大きく下げる設計ノウハウを身につけましょう。
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目次
まず復習:コモンモードとノーマルモード
入力フィルタの設計では、「どの種類のノイズを止めるか」を意識することが何より重要です。フィルタ部品ごとに得意なノイズが違うからです。
2種類のノイズの違い
ノーマルモード
- L側とN側で逆向きに流れる
- 「行きと帰り」の正常な電流に重なる
- 低周波(数kHz〜MHz)が多い
- 対策:Xコンデンサ・チョーク
コモンモード
- L側もN側も同じ向きに流れる
- FG(筐体)を通って戻ってくる
- 高周波(MHz以上)が多い
- 対策:コモンモードチョーク・Yコンデンサ
道路で例えると
2車線の道路で例えるとわかりやすいです。
🚗 ノーマルモード
行きの車線と帰りの車線で逆向きに走る通常の交通。これは正しい流れだが、ここに混じった「乱暴な運転(ノイズ)」がノーマルモードノイズ。
🚙 コモンモード
両方の車線が同じ向きに走り出す異常事態。地面(FG)を通って戻ってくる「逆走集団」のようなもの。これがコモンモードノイズ。
「L+N の差を見るのがノーマルモード、L+N の合計を見るのがコモンモード」と覚えてください。フィルタ部品も、この2種類のノイズに対してそれぞれ別の対策があります。
コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い →

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入力フィルタの登場部品4種類
入力フィルタを構成する部品は、基本的に以下の4種類です。それぞれ得意な仕事が違うので、まず役割を整理しておきましょう。
| 部品 | 役割 | 得意なノイズ | 配線方向 |
|---|---|---|---|
| Xコンデンサ | L-N間に並列 | ノーマルモード | L↔N |
| Yコンデンサ | L-FG / N-FG間に並列 | コモンモード | L,N→FG |
| コモンモードチョーク | L,Nに直列(共通コア) | コモンモード | 直列 |
| ノーマルモードチョーク | L または N に直列 | ノーマルモード | 直列 |
XコンデンサとYコンデンサの違い
名前は似ていますが、設置場所と役割が全く違います。
Xコンデンサ
- L線とN線の間に並列接続
- 容量大きめ(0.1〜1μF程度)
- 故障してもショートで止まる程度
- ノーマルモードノイズをL-N間でショートさせて消す
Yコンデンサ
- L線・N線とFG(筐体)の間に接続
- 容量小さめ(数nF〜数千pF)
- 故障時に感電リスクあり→特殊な認証品が必須
- コモンモードノイズをFGに逃がす
Yコンデンサは「1次側と2次側を絶縁する重要な部品」です。普通のセラミックコンデンサで代用すると感電事故の原因になります。必ず安全規格認証品(クラスY1・Y2)を使ってください。

入力フィルタの基本構成(典型的な配置順)
入力フィルタには「正しい配置順」があります。これを間違えると、フィルタ性能が大幅に落ちます。
電源入口からの基本順序
商用電源(AC100V)入力の典型例で、電源コネクタ側から負荷側に向かって、以下の順番で配置します。
基板の一番端に配置。L、N、FGの3線が入ってくる。
L-N間に置いて、最初にノーマルモードノイズをカット。
L、N両方に直列に挿入。コモンモードノイズの主役。
L-FG、N-FG間に置いて、コモンモードノイズをFGに逃がす。
仕上げにもう一度L-N間に配置。残ったノーマルモードノイズを除去。
綺麗になった電源を負荷(整流回路、DC-DCなど)へ供給。
なぜこの順番なのか?
この順番には明確な理由があります。「外から来るノイズ」と「内から出るノイズ」の両方をブロックするためです。
外→内(イミュニティ)
外部から侵入するノイズを、Xコンデンサで「ショート」、チョークで「ブロック」、Yコンデンサで「アースに逃がす」。
内→外(エミッション)
負荷側(DC-DC等)が出すノイズが、外部に漏れないように、同じ部品が逆方向にも働く。
フィルタは双方向に効きます。「ノイズが入ってこない」=「ノイズが出ていかない」と表裏一体です。EMC試験ではエミッション(放射)試験とイミュニティ(耐性)試験の両方があるため、入力フィルタはこの両方に効くよう設計されています。

最重要:入出力を絶対に交差させない
入力フィルタのレイアウトで、絶対に守るべき鉄則があります。それは「フィルタの入力配線と出力配線を交差させない・近づけない」です。
なぜ交差させてはいけないのか?
フィルタの「入力(汚れた電源)」と「出力(綺麗になった電源)」が近くを通ると、せっかくフィルタで取ったノイズが、空間結合で出力側に飛び移ってしまいます。「フィルタを置いた意味がなくなる」のです。
レストランの厨房に例えると
レストランの厨房を想像してください。生肉(汚れた電源)を扱う場所と、調理済みの料理(綺麗な電源)を扱う場所が同じだったら、衛生的に大問題ですよね。同じテーブルの上で、汚れた肉と完成した料理を並べてはいけない。
入力フィルタも同じです。「汚いゾーン」と「綺麗なゾーン」を物理的に分け、配線も決して交差させてはいけません。
悪い例:交差・近接
- 入力配線と出力配線が並走
- U字型に折り返してフィルタ前後が隣接
- 同じ層で交差している
- → フィルタ効果が80%低下
良い例:直線レイアウト
- 入口から出口まで一直線
- フィルタの前後で配線が交差しない
- 必要なら層を変えて立体的に分離
- → カタログ通りの性能
具体的なレイアウト指針
- 入力フィルタは基板の端に直線配置:コネクタ→フィルタ→負荷の流れを「I字型」に
- U字・L字レイアウトは避ける:折り返し配線は入出力が近づくのでNG
- フィルタ部品の上に配線を通さない:別層であってもクロストークが発生
- フィルタゾーンのGNDは別エリアに:ノイジーなGNDが綺麗なエリアに広がらないように
私が品質保証部時代に見た「EMC試験NG」の不具合の多くは、回路図は正しいのに「入力フィルタの前後配線が近接していた」ことが原因でした。設計者は「同じ部品を使っているから大丈夫」と思いがちですが、レイアウトで性能が10倍変わるのがフィルタの世界です。CADで配置した瞬間に「I字型になっているか」を必ず確認してください。

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コモンモードチョークの引き回しテクニック
入力フィルタの主役コモンモードチョークは、引き回しが特にシビアです。これだけで1セクション割く価値があります。
コモンモードチョークの仕組み(ざっくり)
コモンモードチョークは、1つのコアにL線とN線の2本のコイルが巻かれた部品です。
- ノーマルモード電流:L側とN側で逆向きに流れる→磁束が打ち消し合う→素通り
- コモンモード電流:L側とN側が同じ向きに流れる→磁束が強め合う→大きなインダクタンスでブロック
この「同じ向きの電流だけ阻止する」性質が、引き回しによって台無しになることがあります。
引き回しの3つの鉄則
チョークの入力ピン(左側)と出力ピン(右側)が、レイアウト上でも左右に分かれるようにします。
悪い例:チョークの真上で配線がU字に折り返している
チョーク前後のL線とN線は、常に並走させ、同じ長さで配線します。
理由:差動信号と同じ考え方。長さが違うとコモンモード変換が起きてしまう。
コモンモードチョークの直下や周辺に、GNDプレーンや銅箔の大きな面を置きません。
理由:コアの磁束が金属面で乱れ、インダクタンスが低下する。
「GNDをベタで埋めると安心」と思いがちですが、コモンモードチョークの周辺は例外です。データシートに「Keep Out Area」が記載されているチョークもあるので、必ず確認してください。
コモンモードチョークは「磁気部品」なので、周辺の金属(特にGND)の影響を受けます。基板内で磁石を扱っているような感覚で、距離を取ることが大切です。

Xコンデンサ・Yコンデンサの引き回し
コンデンサ系のフィルタ部品は、「リード線(足)の長さ」が性能を大きく左右します。
配線インダクタンスが性能を殺す
コンデンサにつながる配線は、それ自体が寄生インダクタンスを持っています。配線が長いほど寄生インダクタンスが大きくなり、コンデンサの「ノイズをショートする」性能が落ちます。
特に高周波では、わずか数mmの配線が大きなインピーダンスとなり、コンデンサが効かなくなります。
幅0.5mmの配線は約 1nH/mmのインダクタンスを持ちます。10mm配線すると10nH。100MHzでは約6Ωのインピーダンスになり、コンデンサが台無しに。
コンデンサ配置の鉄則
XコンデンサのL-N間配線、YコンデンサのL-FGとN-FG配線は、可能な限り短く太く。これにより寄生インダクタンスを最小化。
YコンデンサのGND側端子のすぐ横に、複数のビアでFGプレーンへ落とす。これは「シングルポイントFG」の鉄則。
2個1組のYコンデンサ(L-FG用とN-FG用)は、L線とN線に対して対称的に配置する。配線長を揃えることで、コモンモード→ノーマルモード変換を防ぐ。
よくある悪いレイアウト
パターン例:細い長い配線
XコンデンサからL線まで、細くて長い「ヒゲのような配線」で接続。寄生インダクタンスが大きく、フィルタ効果が10MHz以上で消滅。
パターン例:太く短く接続
コンデンサのパッドから直接、太いパターンでL線・N線へ。配線長3mm以下、幅1mm以上を死守。

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GNDの考え方:FGとSGの分離
入力フィルタ周辺のGNDは、メイン回路のGNDと分離するのが鉄則です。
FG(Frame Ground)と SG(Signal Ground)
FG(Frame Ground)
- 筐体・大地と接続するGND
- YコンデンサのGND側
- ノイズの「逃げ道」
- ノイズが流れる「汚いGND」
SG(Signal Ground)
- 回路の信号基準のGND
- IC、センサ、ADCのGND
- 「綺麗なGND」が必要
- ここにノイズが入ると誤動作
分離する理由
YコンデンサがFGに流すコモンモードノイズは、SGに流れ込んではいけません。FGはノイズを「捨てる場所」で、SGは「信号の基準」です。
両者が直接つながっていると、FGに集まったノイズがSGを揺らし、結果として回路が誤動作します。
入力フィルタゾーン(FG含む)と、メイン回路ゾーン(SG含む)を物理的に離し、両者を接続するのは1点(または高インピーダンス素子経由)のみとする。
「FGとSGを基板内で繋ぐかどうか」は、製品の構造(金属筐体か樹脂筐体か)、安全規格、用途で変わります。原則としては「1点で接続するか、ビーズ・小容量コンデンサで接続」が基本。迷ったら、過去の量産実績がある回路を真似るのが安全です。

よくある失敗パターン5選
入力フィルタの設計で新人がやりがちな失敗を5つ紹介します。これを知っておけば、EMC試験で泣く確率が大きく下がります。
失敗①:入力配線と出力配線がU字で隣接
基板スペースの都合で、入力ラインを折り返してフィルタ後段の出力ラインと並走させてしまう。EMCで一発NGになるパターンの最有力候補です。フィルタは「I字レイアウト」が原則。
失敗②:Yコンデンサの安全規格を確認しない
「容量が同じだから」と普通のセラミックコンデンサをYコンデンサとして使う。これは安全規格違反で、感電事故・火災の原因になります。Yコンデンサは必ずクラスY1またはY2の認証品を使うこと。
失敗③:コモンモードチョーク下にGNDベタ
「GNDベタは万能の対策」と思い込んで、コモンモードチョークの直下にGND層を引いてしまう。チョークのインダクタンスが大幅に低下し、フィルタ性能が落ちます。データシートを必ず確認。
失敗④:FGとSGを大面積で繋ぐ
「同じGNDだから」とFGとSGを大きな銅箔で接続する。これでFGに流れたコモンモードノイズがSGに入り込み、回路全体が誤動作します。両者は1点接続か、ビーズ・小容量コンデンサ経由で接続。
失敗⑤:コンデンサに「ヒゲ配線」
XコンデンサやYコンデンサの足から、細長い配線(ヒゲのよう)でL線・N線・FGに接続する。寄生インダクタンスでフィルタ効果が消滅します。配線は3mm以下、幅1mm以上を死守。
EMC試験のNGトップ5は、ほぼこの5つで占められます。逆に言えば、これさえ防げばEMC試験の通過率は大きく上がります。設計レビューで「I字レイアウト・Y認証品・チョーク下クリア・FG/SG分離・短い配線」の5項目をチェックする習慣をつけてください。

設計レビュー前のチェックリスト
入力フィルタ設計のチェックポイントをまとめました。EMC試験前、設計レビュー前に必ず確認してください。
- I字レイアウトか?(入力と出力が交差・並走していない)
- 配置順序は正しいか?(X→チョーク→Y→Xの基本順)
- Yコンデンサは安全規格認証品か?(クラスY1/Y2)
- コモンモードチョーク直下にGNDベタはないか?(Keep Out確認)
- L線・N線はチョーク前後で対称か?(等長・等幅・並走)
- コンデンサの配線は3mm以下・幅1mm以上か?(寄生L最小化)
- FGとSGは1点接続か?(大面積での接続を避ける)
これら7項目をすべてクリアできれば、EMC試験で大きくつまずく確率は激減します。「入力フィルタはレイアウトで決まる」と肝に銘じて、配置の段階で必ずチェックしてください。

まとめ:レイアウトでEMC性能の8割が決まる
この記事では、入力フィルタの配置順序、コモンモードチョーク・X/Yコンデンサの引き回し、GNDの分離について解説しました。
入力フィルタの設計は、回路図ではなくレイアウトで性能の8割が決まります。同じ部品・同じ回路でも、配置と引き回しが正しくなければ、カタログ通りの性能は出ません。
最重要ポイントを3つに絞るなら:
- I字レイアウト(入力と出力を絶対に交差させない)
- コンデンサ配線は最短最太(寄生インダクタンスを最小化)
- FGとSGの分離(汚いGNDと綺麗なGNDを混ぜない)
これらは経験で身につくスキルでもあります。最初は「過剰かな?」と思うくらい厳格にやって、徐々に最適化していくのが正解です。
基板設計の電流容量・ノイズ対策・入力フィルタまで一通り押さえたら、いよいよ次はEMC試験の実際と個別の回路設計に進めます。お疲れ様でした。

📚 次に読むべき記事
基板設計の全体像を体系的に整理。入力フィルタを学んだ後の次のステップが明確になるロードマップ記事。
入力フィルタの「思想」を本質的に理解する記事。配置の理由がより深くわかります。
入力フィルタが対応すべきEMC規格の全体像。試験前に必読の入門記事。
フィルタ部品の使い分けに必須の基礎知識。本記事と合わせて読むと理解が深まります。
GNDの考え方をさらに深掘り。FGとSGの分離設計の根拠がわかります。
