- 「サーマルリリーフをOFFにしろ」と言われたが、何のことかピンとこない
- 大電流のパッドを十字接続にしていたら、レビューで指摘された
- 逆にベタ接続にしたら、製造から「はんだ不良が出る」とクレームが来た
- 結局どっちが正解なのか、判断基準がわからない
- サーマルリリーフとベタ接続の本当の意味
- 「放熱性」と「はんだ付け性」のトレードオフの正体
- パワー部品・信号部品ごとの使い分け基準
- 製造部門と揉めないための合意の取り方
前回までの記事で サーマルビアの設計 を扱いました。「サーマルリリーフはOFFにしろ」というアドバイスが何度も出てきましたが、そもそも サーマルリリーフって何? なぜ存在するの? という疑問を持った方も多いはずです。
結論を先に言います。
サーマルリリーフは 「はんだ付けしやすくするための仕組み」 です。でも、その代償として 「放熱性が悪化する」。だから大電流のパッドではOFFにすべきだし、信号系の小さなパッドではONのままがいい。使い分けが命なのです。
この記事では、そのトレードオフを「家のドア」のたとえで完全図解していきます。
目次
サーマルリリーフって何?=「狭いドア」の正体
サーマルリリーフ(Thermal Relief)とは、パッドをベタGNDに接続するときに、「十字(または斜め4本)の細いリブだけで繋ぐ」パターンのことです。
サーマルリリーフ
形状:十字の細いリブで接続
例えると:狭いドア
特徴:熱が逃げにくい
ベタ接続
形状:パッドの全周がベタと直結
例えると:全開のガレージ扉
特徴:熱がスムーズに逃げる
なぜ「狭いドア」をわざわざ作るのか?
「ベタ接続の方が熱が逃げて良いなら、全部ベタでいいのでは?」と思いますよね。でも、それでは はんだ付けの工程 で問題が起きます。
パッドをベタGNDに直結すると、はんだ付け時に 熱がベタGND全体に逃げてしまい、肝心のパッドの温度が上がりません。結果、はんだが溶けきらず 「いもはんだ」「未接合(オープン)」「片浮き」 といった不良が発生する。
そこで考案されたのが 「あえて熱の通り道を狭くする」=サーマルリリーフ。十字のリブだけで接続することで、はんだ付け時の熱がパッドに留まり、確実にはんだが溶けて良好な接合ができるわけです。
サーマルリリーフは 「製造(はんだ付け)の都合」 で生まれた仕組み。設計者の都合ではありません。だから設計者は「使いどころ」を判断する責任があります。

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トレードオフ=「放熱」と「はんだ付け性」のシーソー
サーマルリリーフとベタ接続の関係は、シーソーで考えるとわかりやすいです。
| 項目 | サーマルリリーフ | ベタ接続 |
|---|---|---|
| 放熱性能 | ❌ 悪い | ✅ 良い |
| 通電(電流容量) | ❌ ボトルネック | ✅ 大電流OK |
| はんだ付け性 | ✅ 良好 | ❌ 不良リスク |
| 手はんだ(リペア) | ✅ 簡単 | ❌ コテが負ける |
見ての通り、放熱・通電を取れば製造性が下がり、製造性を取れば放熱・通電が下がる。完全な二律背反です。
この事実を知らずに設計すると、「設計部門は放熱を最優先したいが、製造部門ははんだ不良を懸念して反対する」という対立が起きます。トレードオフの存在を最初に共有しておくことが大切です。

使い分けの判断基準=「電流」と「発熱」で決める
では実際にどう使い分けるか。基準はシンプルで 「そのパッドに大電流が流れるか/発熱するか」 です。
大電流が流れるパッド → ベタ接続
パワーコネクタ、ヒューズ、シャント抵抗、パワー素子のソース/ドレイン端子など。電流のボトルネックを作ってはいけない。
放熱が必要なパッド → ベタ接続
パワーICの放熱パッド、レギュレータのGNDタブ、LEDの放熱パッドなど。熱の逃げ道を確保する。
小信号・低電流のパッド → サーマルリリーフ
マイコン、抵抗、コンデンサ、コネクタの信号ピン、LEDのアノードなど。製造性を優先。
具体例で見る使い分け
| 部品例 | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| 電源コネクタ(10A以上) | ベタ接続 | 電流ボトルネック回避 |
| パワーIC放熱パッド | ベタ接続 | 放熱経路の確保 |
| パワーMOSFETのソース | ベタ接続 | 電流+放熱の両方 |
| マイコンのGND | サーマルリリーフ | 小信号・はんだ性優先 |
| パスコン(0603・0805) | サーマルリリーフ | 片浮き防止 |
| スルーホールのGND端子 | サーマルリリーフ | 手はんだ性確保 |
「迷ったら、その部品が 1A以上流れるか で判断しなさい」とよく言われます。1A以上ならベタ接続を検討、未満ならサーマルリリーフでOK、というざっくりした目安です。

ベタ接続にしたときのはんだ不良対策
「大電流だからベタ接続したい。でも、はんだ不良のリスクが心配…」というケースが必ず出てきます。安心してください、対策はあります。
リフロープロファイルを最適化する
大きなベタ接続のパッドは「予熱時間を長めに」「ピーク温度を少し高めに」して、パッド全体を確実に温める。
パッド形状を非対称にする
チップ部品(0603など)の片側だけベタ直結、もう片側はサーマルリリーフにすると 「片浮き(ツームストーン現象)」 を防げる。…と思いきや、これは逆効果。実は 両端の熱バランスを揃える 方がツームストーン対策に有効。
製造部門と「設計時に」相談する
後出しじゃんけんでは揉める。設計初期に 「このパッドはベタ接続にしたい。リフロー条件で対応可能ですか?」 と確認しておくのが鉄則。
小型チップ部品(0603・0402など)が、リフロー時に「片側だけ先にはんだが溶けて、部品が立ち上がってしまう」現象。墓石のように立つことから「ツームストーン」と呼ばれる。両端のはんだ溶融タイミングがズレることが原因。
小型チップ部品(0603以下)にはベタ接続は 基本NG です。ツームストーン対策のため、サーマルリリーフ+両端の熱対称性を保つのが鉄則。

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CADでの設定方法=「自動」を信じすぎない
多くの基板CADでは、ベタGNDのパッドは デフォルトでサーマルリリーフが自動付与 されます。便利ですが、これが落とし穴。
パワー部品でも自動でサーマルリリーフが付いてしまい、設計者が 気づかずに発注 →試作時に発熱トラブル、というのが典型的な失敗パターンです。
CADで必ず確認すべき項目
- パワー部品のパッドが 個別にベタ接続設定 になっているか
- 放熱パッドのサーマルリリーフが OFF になっているか
- 大電流コネクタの足が 十字接続のまま になっていないか
- ガーバー出力後に 目視で確認 したか(CAD表示と実際の差を防ぐ)
主要CADの設定箇所(参考)
| CAD | サーマルリリーフ設定箇所 |
|---|---|
| Altium Designer | Polygon設定 → Connect Style |
| KiCad | Zone Properties → Pad connections |
| CR-5000 / CR-8000 | プレーン設定 → 接続方法 |
| EAGLE | Polygon設定 → Thermals |
CADの自動設定は「全部サーマルリリーフ」になりがち。パワー部品だけ個別にベタ接続を指定するのが現場のスタンダードです。設計レビューでは、必ずガーバーやプレーン表示で目視確認を。
サーマルビアの設計|放熱パッドからどう熱を逃がすか →

製造部門と揉めないための合意の取り方
設計者は「放熱性能」を、製造部門は「歩留まり」を重視します。利害がぶつかるのは当然。だからこそ、事前のすり合わせ が肝心です。
設計初期に「ベタ接続にしたいパッド」をリストアップ
パワー部品・放熱パッド・大電流コネクタを洗い出す。
製造部門に共有して相談
「このパッドはベタ接続にしたい。リフロー条件で対応可能ですか?」と聞く。
合意をドキュメント化
「このパッドはベタ接続。リフロー予熱時間を◯秒延長で対応する」と図面・指示書に明記。
試作後は実機で熱画像 & はんだ品質を評価
サーモグラフィでパッド温度を確認。X線ではんだボイドもチェック。
「設計者の独断でベタ接続にして、量産で大量不良→リコール」というのが最悪のシナリオです。製造部門との合意こそ、ベタ接続を成功させる最大のカギです。

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まとめ=部品ごとに「ドアの広さ」を選ぶ
今日のまとめです。
✅ サーマルリリーフは 「はんだ付け性のための狭いドア」
✅ ベタ接続は 「放熱・通電のための全開ガレージ」
✅ 大電流・発熱パッドはベタ接続、小信号・チップ部品はサーマルリリーフ
✅ CADの自動設定を信じすぎず、パワー部品は個別に指定
✅ ベタ接続は 製造部門と事前合意 を必ず取る
設計の都合と製造の都合は、
「設計時に」すり合わせる
サーマルリリーフとベタ接続の使い分けは、設計者が 「放熱・通電・製造性の3つを天秤にかけて決める仕事」 です。CADの自動設定に任せず、自分の頭で「このパッドは何が大事か」を判断できるようになりましょう。
次回は、ベタGND自体の設計(GNDプレーンの引き方)に踏み込んでいきます。お楽しみに。

📚 次に読むべき記事
ベタGNDの上位概念であるGNDパターン全体の設計思想。サーマルリリーフ/ベタ接続の判断もこの考え方の延長線上にあります。
前回記事。「サーマルリリーフOFF」が何度も登場しますが、その理由を本記事で解説しています。セットで読むと理解が深まります。
「コネクタの足元の設計ミス」として、サーマルリリーフを残したまま大電流を流して焼損する事例も紹介。本記事の応用例。
配置で熱の集中・分散を決め、サーマルリリーフ/ベタで放熱の細部を決める。両方が揃って初めて熱設計が完成します。
「ベタ接続による放熱」の重要性をより深く理解したい人向け。半導体が熱で壊れるメカニズムから入門できます。
「広いベタGND」をどの層に置くべきかの判断材料。サーマルリリーフ・ベタ接続を考える上での前提知識。