- 基板メーカーから「この信号、インピーダンス制御しますか?50Ω?90Ω?」と聞かれて固まった
- USBやLANの配線図に「Differential Impedance 100Ω ±10%」と書かれているが、何のことかわからない
- 「配線の太さで信号品質が変わる」と聞いたけど、なぜそうなるのか説明できない
- ガーバー出図前に「インピーダンス計算しといて」と先輩に言われたが、何を計算すればいいのか不明
- インピーダンス制御の正体を「水道管の太さ」で直感的に理解できる
- なぜ高速信号では配線の太さを0.01mm単位で管理するのかがわかる
- 50Ω・90Ω・100Ωという代表的な値の使い分けがわかる
- 明日から基板メーカーとの打ち合わせで会話についていけるようになる
こんにちは、シラスです。
基板設計の世界に足を踏み入れると、ある日突然出てくる呪文のような言葉。それが「インピーダンス制御基板」です。
USBもLANもHDMIも、最近の基板はみんなこれが必要。でも初心者からすると「配線って、繋がってればいいんじゃないの?」「太さなんてどうでもよくない?」と思うはず。私も最初はそう思っていました。
この記事では、なぜ高速信号で配線の太さが「死ぬほど重要」になるのかを、水道管のたとえで完全図解します。読み終わるころには、基板メーカーとの打ち合わせで「ああ、それね」と頷けるようになっているはずです。
目次
インピーダンス制御基板とは?まず結論から
インピーダンス制御基板 = 配線の「特性インピーダンス」を狙った値(例:50Ω)にピッタリ合わせて作った基板
ポイントは2つだけです。
①特性インピーダンス
配線がもつ「電気の通りにくさ」のような値
(単位はΩ)
②狙った値にピッタリ
USB は90Ω、LAN は100Ω、
RFは50Ωが定番
普通の基板は「線がつながってればOK」。でもインピーダンス制御基板は、配線の太さ・厚さ・隣の絶縁体までの距離を全部計算して、特定の値を実現します。基板メーカーは0.01mm単位で寸法を管理して作ってくれます。
価格は普通の基板より2〜3割増し。でもUSB3.0やLANの配線で省略すると、製品が「動いたり動かなかったり」する不安定モードに突入します。コストをケチっていい場所ではありません。

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そもそも「特性インピーダンス」とは?
ここでつまずく人が多いのが、「抵抗のΩ」と「特性インピーダンスのΩ」が別物ということ。同じΩなのに、意味が違うんです。
普通の抵抗Ω
テスターで測れる「電気の通りにくさ」
線がただの電線として持つ抵抗値
低いほど良い
特性インピーダンスΩ
高速信号が「波」として進むときの
配線の「太さ感」のような値
狙った値ピッタリにする
特性インピーダンスは、波(=高速信号)が伝わる道の太さや断面形状によって決まる「波にとっての通りやすさ」です。テスターで測ろうとしても出てきません。配線の幅・銅箔の厚さ・絶縁層の厚さ・絶縁体の材質、これらの幾何学的な要素から計算で求まる値です。
①配線の幅 W(広いほど低くなる)
②銅箔の厚さ T
③絶縁層の厚さ H(厚いほど高くなる)
④絶縁体の比誘電率 εr(高いほど低くなる)

水道管のたとえで「特性インピーダンス」を理解する
高速信号は「電線の中を流れる電子」というよりも、「波として配線を伝わるエネルギー」として振る舞います。これを水の流れにたとえると、特性インピーダンスは「水道管の太さや形状」にあたります。
送信側のIC(=ポンプ)から信号(=水)が、配線(=水道管)に送り出されます。
水道管の太さが途中で変わると、その境目で水流が「跳ね返り」を起こします。狭くなれば押し戻される、広くなれば渦が巻く。
高速信号でも同じことが起きます。配線の特性インピーダンスが途中で変わると、信号の一部が「反射」して送信元に戻ってしまうのです。これが波形を汚す原因。
低速信号(数MHz以下)では、信号の波長が配線長よりずっと長いため、反射が起きても影響が見えにくい。一方、USB3.0(5Gbps)レベルになると、信号の立ち上がりが100ps以下。配線数cmでも反射が深刻な波形劣化を引き起こします。

インピーダンスがずれると「反射」が起きる
インピーダンス制御の本当の目的は、信号の反射を防ぐことです。配線のどこかで特性インピーダンスが変わると、信号は「壁にぶつかったボール」のように一部が跳ね返ります。
インピーダンス整合
配線全体が同じΩ
↓
反射ゼロ
キレイな波形
インピーダンス不整合
途中でΩが変わる
↓
反射発生
波形が歪む・誤動作
反射が起きると、波形にこんな悪さをします。
| 症状 | 影響 |
|---|---|
| リンギング | 波形にウネウネしたフリンジが発生する |
| オーバーシュート | 信号電圧が定格を超え、ICを破壊する恐れ |
| ジッター | 立ち上がりタイミングがバラつき、データエラー発生 |
| EMI悪化 | 反射波が放射ノイズ源となり、規制をクリアできなくなる |

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50Ω・90Ω・100Ω:代表的な値の使い分け
基板の世界で「インピーダンスを合わせて」と言われたら、ほとんどの場合は次のいずれかです。それぞれの規格で「業界標準値」が決まっているからです。
| 値 | タイプ | 使われる規格 |
|---|---|---|
| 50Ω | シングルエンド | RF信号、アンテナ、無線通信 |
| 75Ω | シングルエンド | 映像信号(同軸ケーブル)、テレビ |
| 90Ω | 差動 | USB 2.0/3.0/USB-C |
| 100Ω | 差動 | LAN、PCIe、HDMI、LVDS、CAN、Ethernet |
ここで出てきた「シングルエンド」と「差動」という言葉も解説しておきます。
シングルエンド
信号線1本+GNDで信号を送る方式。1本の配線とGNDの間のインピーダンスを管理する。
差動(ディファレンシャル)
2本の配線をペアにして信号を送る方式。2本の間のインピーダンスを管理する。USB・LANはコレ。
「USB 90Ω差動」と書かれていたら、「USB信号は2本ペアで送るので、その2本の間のインピーダンスを90Ωにしてくれ」という意味です。

「±10%」って何?許容差の話
インピーダンス制御の指示は、よくこう書かれています。
Differential Impedance: 100Ω ±10%
これは「100Ωをぴったり狙ってください、ただし90Ω〜110Ωの範囲なら合格とします」という意味です。なぜ許容差が必要かと言うと、基板製造には必ずバラつきが出るからです。
| バラつきの原因 | 影響 |
|---|---|
| 配線幅のエッチング誤差 | ±0.025mm程度のバラつきで、Ωが数%動く |
| 絶縁層厚さの製造バラつき | プリプレグの圧着でばらつく |
| 銅箔厚さのめっき差 | 電解めっきの均一性に依存 |
| 基材の比誘電率ばらつき | FR-4でも材質ロットで微妙に異なる |
許容差を厳しくすると(例:±5%)、基板メーカーは特別な検査と歩留まりロスが発生し、価格が跳ね上がります。USBやLANなら±10%で十分。逆にRF回路で精密な整合が必要なときは±5%以内を要求することもあります。

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基板メーカーへの依頼の流れ
実際にインピーダンス制御を依頼するときの流れをザックリ紹介します。設計者が全部の計算をする必要はなく、基板メーカーと相談して決めるのが現代の標準です。
必要な値を決める:規格を確認。USB3.0なら90Ω±10%、LANなら100Ω±10%など。
層構成を決める:何層基板にするか、どの層に高速信号を通すかを決定。基板メーカーから推奨の層構成(スタックアップ)が提示されることも多い。
配線幅を計算してもらう:基板メーカーの専用シミュレータで、目標Ωを実現する配線幅を算出してもらう。
その配線幅で設計:CADで配線するときは、メーカー指定の幅を厳守。差動の場合はペア間隔も指定通りに。
製造後にTDR測定:基板メーカーが完成基板でインピーダンスを実測し、規格内であることを保証してくれる(測定証明書付き)。
私が実際に発注するときは、見積依頼の段階で「Top層と内層に各100Ω差動・90Ω差動が必要」と伝えています。基板メーカーは初回打ち合わせで「層構成案」と「推奨配線幅」を提示してくれます。設計者はその指定値を守るのが仕事です。

設計時に絶対やってはいけない5つのこと
インピーダンス制御は「指定された幅で配線するだけ」ではありません。配線の引き方によって、実効インピーダンスが大きくズレることがあります。以下の5つは特に注意してください。
NG例
- 配線途中で幅を変える(細い→太い→細い)
- 基準GND層の真下に「穴」を開ける(リファレンス断絶)
- 差動ペアの2本の長さがバラバラ(スキュー発生)
- 急な90度の折り曲げ(インピーダンス局所変動)
- ビアの数を増やしすぎる(各ビアで反射発生)
OK例
- 配線幅は指定値を一定に保つ
- 真下にベタGND層を必ず確保する
- 差動ペアは長さを揃える(スキューマッチ)
- 折り曲げは45度2回または曲線で
- ビアは必要最小限にする
「ベタGNDの確保」が一番のキモ。インピーダンス制御は「配線とGND基準層との関係」で決まります。基準GND層が途中で切れていると、その瞬間にインピーダンスが暴走します。

インピーダンス制御が必要な信号、不要な信号
すべての配線で必要なわけではありません。「速い信号」だけが対象です。判断基準はざっくり次の通り。
| 必要性 | 該当する信号 | 目安 |
|---|---|---|
| 必須 | USB2.0/3.0、LAN、PCIe、HDMI、SATA、DDR3/4/5、LVDS、無線(RF) | 立ち上がり1ns以下 or 周波数100MHz以上 |
| 推奨 | CAN(高速版)、SPI(高速)、画像信号、クロック信号 | 立ち上がり1〜10ns or 配線長10cm超 |
| 不要 | 電源、低速デジタル(I2C、UART低速)、アナログ低周波、リレー駆動 | 立ち上がり10ns以上 and 配線短い |
「信号の立ち上がり時間で進む距離が、配線長の1/6以下になる」とき、伝送線路として扱う必要があります。USB3.0(立ち上がり~50ps)なら数mmでも該当、I2C(数百ns)なら基板上では基本不要。

インピーダンス制御基板の値段はどのくらい上がる?
気になるコストの話です。普通の基板に比べて、インピーダンス制御指定をすると価格は上がります。
| 仕様 | 価格目安 |
|---|---|
| 通常の4層基板 | 基準価格 |
| インピーダンス制御指定 (±10%) |
+15〜30% |
| インピーダンス制御指定 (±5%) |
+30〜50% |
| 高周波対応材質 (低Df材, Rogers系) |
+100〜300% |
特殊材料を使わない範囲で、許容差±10%程度のインピーダンス制御なら、コスト増は1〜3割。USBやLANを使う製品なら、これは「払わなければならないコスト」と割り切るしかありません。
①許容差は無闇に厳しくしない(±10%で足りるならそれで)
②インピーダンス制御が必要な配線だけを指定する(全配線に指定はNG)
③標準的な層構成に合わせる(特殊な層構成は単価が上がる)

まとめ:高速信号は「波」だから配線の太さが命
- インピーダンス制御基板とは、配線の特性インピーダンスを狙った値(50Ω・90Ω・100Ωなど)に揃えて作った基板
- 特性インピーダンスは「配線の太さ・厚さ・絶縁層の厚さ」などの幾何学要素で決まる、波にとっての通りやすさの値
- これがズレると反射が起きて、リンギング・オーバーシュート・ジッター・EMI悪化を引き起こす
- USBなら90Ω、LAN・HDMIなら100Ω、RFなら50Ωが業界標準
- 許容差±10%が一般的。それより厳しくするとコストが跳ね上がる
- 設計時はGNDの基準層を絶対に途切れさせないこと
普通の電子回路の世界では、配線は「ただの電線」。でも高速信号の世界では、配線は「波が伝わる導波路」に変わります。だから、太さや厚さといった「物理的な形状」が、信号品質を決定する命綱になるわけです。
明日の設計ミーティングで「USBの配線、インピーダンス制御指定したよね?」と先輩に聞かれたら、堂々と「はい、90Ω差動±10%で出図しています」と答えられるようになっているはず。一歩、基板設計エンジニアらしくなりました。

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