回路設計

【完全図解】ハーフブリッジ・フルブリッジ駆動の基本|貫通電流を防ぐ設計

😣 こんな経験はありませんか?
  • 「ハーフブリッジ」「フルブリッジ」という言葉を先輩は当たり前のように使うが、何が違うのか説明できない
  • 試作機を電源ONした瞬間、「バチッ」と音がしてMOSFETが2個とも黒焦げになった
  • 「貫通電流」「デッドタイム」と聞くが、なぜ必要なのか具体的な理由がわからない
  • 客先レビューで「デッドタイムは何ns設定していますか?」と聞かれて答えられなかった
✅ この記事でわかること
  • ハーフブリッジとフルブリッジの違いが3秒でわかる図解
  • 「貫通電流」が起きる物理的メカニズム
  • デッドタイムの決め方と現実的な数値レンジ
  • 専用ゲートドライバICを使うべき理由

結論を先に言います。上下のMOSFETが「同時にON」した瞬間、電源とGNDが直結します。電流を制限するものが何もないので、数百Aの電流が流れて両方のMOSFETが瞬時に破壊されます。これが「貫通電流」の正体。

この事故を防ぐために必要なのが「デッドタイム」。上のMOSFETがOFFしてから、下のMOSFETがONするまでの「両方OFF」の時間を意図的に作ります。今回の記事では、その仕組みと設計の考え方を徹底的に図解します。

ハーフブリッジ・フルブリッジとは?構成の違い

名前は難しそうですが、構造はシンプル。ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFETを「縦に積んだ1セット」がハーフブリッジ、「2セット並べた」のがフルブリッジ。それだけです。

🔵

ハーフブリッジ

MOSFET 2個(ハイサイド1個 + ローサイド1個)。
出力は2個の中点(スイッチングノード)から1本。
DC-DCコンバータの基本構成

🟠

フルブリッジ(Hブリッジ)

MOSFET 4個(ハーフブリッジを2セット)。
出力は2つの中点から2本。
DCモータの正逆転、単相インバータに使用

💡 共通する重要ワード「アーム」

パワエレの世界では、ハイサイドMOSFETを「上アーム」、ローサイドMOSFETを「下アーム」と呼びます。腕(アーム)が上下に伸びているイメージ。

そして「レグ(脚)」という言葉もよく出てきます。これは「上アーム+下アームの1セット」のこと。ハーフブリッジ=1レグ、フルブリッジ=2レグ、3相インバータ=3レグ、と数えます。

🔧 現場の声
客先や上司との会話では「U相の上アームが…」「W相の下アームが…」のような言い方が頻出します。「上アーム = ハイサイド」「下アーム = ローサイド」と頭の中で即変換できるようにしておきましょう。

ハーフブリッジの動作原理|2つのMOSFETの「シーソー」

ハーフブリッジの動作は、上アームと下アームが交互にON/OFFする「シーソー」と覚えてください。出力点の電圧は、その都度「電源電圧」か「0V」のどちらかに切り替わります。

状態 上アーム 下アーム 出力電圧
状態1 ON 🟢 OFF 🔴 +V(電源電圧)
状態2 OFF 🔴 ON 🟢 0V(GND)
状態3 ❌ ON 🟢 ON 🟢 貫通電流発生 💥
状態4(デッドタイム) OFF 🔴 OFF 🔴 不定(負荷次第)
💡 ポイント
出力電圧を「+V」と「0V」で高速に切り替え、その時間比率(デューティ比)を変えることで「平均電圧」を自在に操るのがPWM制御の本質です。デューティ50%なら平均電圧は+V/2、デューティ80%なら平均0.8×V。

このシーソー動作のおかげで、降圧コンバータ・昇圧コンバータ・モータ駆動など、あらゆるパワエレ回路の基礎ブロックとして使われます。

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貫通電流(シュートスルー電流)のメカニズム

ここがこの記事で最も大事な部分です。上アームと下アームが同時にONした瞬間、何が起きるのかを物理的に理解しましょう。

💀 同時ONで起きること

上アームがONなら電源(+V)からスイッチングノードへ電流が流れる経路ができます。下アームがONならスイッチングノードからGNDへ電流が流れる経路ができます。

両方が同時にONすると、電源(+V)からMOSFET2個を通って、直接GNDまで一本道ができます。間にあるのは2個のMOSFETのオン抵抗(Rds(on))だけ。例えば10mΩ×2個=20mΩしかありません。

⚠️ オームの法則で計算してみる
電源48V ÷ 抵抗0.02Ω = 2400A。これが瞬間的に流れます。MOSFETの定格電流が30Aだったら、約80倍の電流。10ナノ秒も持たずに半導体が熱破壊します。
🔧 現場の声
試作機の電源を入れた瞬間に「パンッ」という破裂音とともにMOSFETが黒焦げになった経験がある方は、ほぼ間違いなくこの貫通電流が原因です。制御信号のタイミング、デッドタイム設定、ゲート抵抗のバランスのどこかにバグがあります。

🔄 「同時ONしないつもり」でも起きる理由

ここが厄介なところ。マイコンが「上アームOFF、下アームON」と命令しても、現実にはMOSFETのターンオフには時間がかかる。ナノ秒単位ですが、確実に時間がかかります。

だから「上アームを切った直後に下アームを入れる」とすると、上アームがまだ完全に切れていないうちに下アームがONして、一瞬だけ両方ONの状態ができてしまうのです。これが貫通電流の典型パターン。

デッドタイムの考え方|「両方OFF」の時間を意図的に作る

貫通電流を防ぐ唯一の方法、それがデッドタイム(dead time)です。「上アームをOFFにしてから、下アームをONにするまでに、わざと両方OFFの時間を設ける」設計手法。

STEP 1

上アームをOFFにする:マイコンがOFF信号を送る。MOSFETのゲート電荷が放電され、完全にOFFするまで数十〜数百ns待つ。

STEP 2

デッドタイム(両方OFF):両方のMOSFETを意図的にOFFのまま保持する時間。100ns〜数μs。この間、出力電圧は負荷に依存(モータなら還流ダイオード経由)。

STEP 3

下アームをONにする:上アームが完全にOFFしていることを確認してから、下アームをON。安全に切替完了。

📊 デッドタイムの現実的な数値

用途 デバイス デッドタイム目安
小型DC-DC(〜48V) Si MOSFET 50〜200ns
産業用インバータ(400V) IGBT 1〜3μs
EV用インバータ(800V) SiC MOSFET 100〜500ns
小型LED駆動 GaN HEMT 10〜50ns
⚠️ デッドタイムは長すぎてもダメ
「安全のために長めに」は半分正解。長すぎるデッドタイムは出力電圧の歪み・効率低下・モータの振動増加を招きます。短すぎず長すぎず、デバイス特性とゲート抵抗から計算で求める設計が必要です。
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ハーフブリッジ専用ゲートドライバICを使う理由

ハーフブリッジ・フルブリッジを設計するなら、専用のハーフブリッジゲートドライバICを使うのが定石です。なぜか。理由は3つあります。

① 上アーム・下アームを1つのICで駆動できる

専用IC1個で、上下2個のMOSFETを駆動できます。基板面積も部品点数も少なくて済む。代表例:IR2104、UCC27200、ADuM4145、L6491など。

② デッドタイムが内蔵されている

最大のメリットがこれ。マイコンから1本のPWM信号を入れるだけで、ICが自動で「上アームOFF→デッドタイム→下アームON」を生成してくれる。デッドタイム時間も外付け抵抗で調整可能な製品が多い。

③ シュートスルー保護機能が入っている

万が一マイコンが「両方ON」の信号を出してしまっても、IC側で「両方ON状態を強制的に禁止」するロジックが入っています。これだけで初心者の試作事故が激減します。

💡 ポイント
専用ICでも単体ドライバ2個でも、回路は組めます。でも初心者ほど専用ICを使うべきです。「自分で何とかしようとする設計」は事故の元。先輩エンジニアほど「枯れた専用IC」を選びます。

フルブリッジ(Hブリッジ)の動作と用途

フルブリッジは、ハーフブリッジを2セット並べ、その中間に負荷をはさむ構成です。アルファベットの「H」の形に似ているので「Hブリッジ」とも呼ばれます。

🔄 4つのMOSFETの組み合わせで「正転・逆転・停止」

動作 Q1(左上) Q2(右上) Q3(左下) Q4(右下) 負荷
正転 ON OFF OFF ON
逆転 OFF ON ON OFF
停止(フリー) OFF OFF OFF OFF 惰性回転
ブレーキ OFF OFF ON ON 急停止
禁止 ❌ ON ON 貫通電流💥

特に重要なのは「左の上下(Q1とQ3)が同時ON」「右の上下(Q2とQ4)が同時ON」が絶対NGということ。同じレグの上下アームで貫通電流が起きるからです。

🎯 フルブリッジの代表用途

  • DCモータの正逆転制御:ロボット、電動工具、リフトなど
  • 単相インバータ:DC→AC変換(家庭用太陽光発電のパワコンなど)
  • 絶縁型DC-DCコンバータの1次側:トランスに正負の電圧を交互にかける
  • 絶縁型ハイパワーアンプ(D級アンプ):オーディオ用
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設計時のチェックリスト|試作前に必ず確認

ハーフブリッジ・フルブリッジ回路を試作する前に、以下を必ず確認してください。1つでも見落としがあると、電源ONの瞬間にMOSFETが昇天します。

✅ 試作前チェックリスト
  • デッドタイムは十分か?(MOSFETのターンオフ時間 + マージン)
  • 専用ハーフブリッジドライバICを使っているか?(または同等のシュートスルー保護があるか)
  • ゲート抵抗は適切か?(小さすぎるとリンギング、大きすぎると遅延)
  • 電源ラインに大容量電解コンデンサを配置したか?(瞬間電流の供給源)
  • パターンのループ面積は最小化されているか?(寄生インダクタンスの最小化)
  • ハイサイド用のブートストラップ/絶縁電源は機能しているか?
  • 初回投入時、低電圧(5V程度)で動作確認をする予定か?(いきなり定格電圧はNG)
  • 過電流保護回路(OCP)は機能しているか?
🔧 現場の声
電源を初めて入れるとき、私は必ず「電流計測器を直列に入れて、定格の1/10程度の電圧から徐々に上げる」方法を取ります。何かおかしければ電流値が異常値を示すので、即座に電源を切れば被害ゼロ。「いきなりフル電圧」は経験10年以上のベテランでもやりません。

まとめ|「両方ONを絶対に避ける」がすべて

📌 この記事の結論
  • ハーフブリッジ = MOSFET 2個(1レグ)。フルブリッジ = MOSFET 4個(2レグ)
  • 上下アームが同時にONすると貫通電流(数百〜数千A)でMOSFETが瞬時に破壊される
  • これを防ぐため「デッドタイム」を意図的に挿入する設計が必須
  • デッドタイム時間はデバイス次第(Si MOSFETなら50〜200ns、IGBTなら1〜3μs)
  • 専用ハーフブリッジゲートドライバICを使えば、デッドタイム生成・シュートスルー保護が標準装備

ハーフブリッジ・フルブリッジは、DC-DCコンバータからEVのインバータまで、あらゆるパワエレ回路の基礎です。「上下アームの同時ONを絶対に避ける」という1点さえ徹底すれば、設計の8割は安全圏に入れます。

次は、3相インバータ(3レグ構成)に進む準備が整いました。3つのハーフブリッジが120°ずつ位相をずらして動作する仕組みは、ハーフブリッジを完全に理解した上でこそ腑に落ちる世界です。

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