回路設計

EMCとは?対策しないと製品が売れない理由とVCCI・CE・FCC規格の基本

EMCとは何か。対策しないと製品が売れない理由とVCCI・CE・FCC規格の基本

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こんな悩みはありませんか?
  • 「EMC対策が必要って聞くけど、そもそもなぜ必要なの?」
  • 「VCCI、CE、FCC…アルファベットだらけで何が何だかわからない」
  • 「エミッション試験とイミュニティ試験の違いが説明できない」
  • 「EMC試験に落ちたら、具体的にどのくらいお金と時間がかかるの?」
○ この記事でわかること
  • EMC対策をしないと「物理的に製品が売れない」法的根拠
  • VCCI(日本)、CEマーキング(EU)、FCC(米国)の違いと位置づけ
  • エミッション(加害者)とイミュニティ(被害者)の2つの試験の違い
  • 試験不合格→基板再設計→再試験で「数百万円が吹き飛ぶ」リアルな金額感

回路設計や基板設計の仕事をしていると、「EMC対策」という言葉を必ず耳にしますよね。

でも、「なぜEMC対策が必要なのか?」と聞かれたとき、「法律で決まっているから」「規格があるから」以上の説明ができる人は、実は少ないのではないでしょうか。

結論を先に言います。EMC規格をクリアしないと、製品を市場に出すことができません。日本でもEUでも米国でも、です。「品質を上げるための努力目標」ではなく、「売るために絶対にクリアしなければならない関門」なのです。

この記事では、エンジニアとして最低限知っておくべきEMC規格の全体像を、「たとえ話」と「図解」で徹底的にわかりやすく解説します。

EMCを部屋にたとえた図。ラジカセが出すノイズがEMI(加害者側、エミッション)、隣の部屋で眠るスマホがノイズに耐える力がEMS(被害者側、イミュニティ)で、両方を合わせてEMC
EMCはノイズを出さないEMIと耐えるEMSの両方

そもそもEMCとは何か?|「電磁的に共存できること」

EMC=Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)

EMCとは「Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)」の略です。難しそうに聞こえますが、意味はシンプルです。

「自分はノイズで他人に迷惑をかけず、他人のノイズにも負けない」――この2つを同時に満たすことがEMCです。

たとえるなら、マンションの騒音問題を想像してください。

EMI(加害者側)

自分の部屋(製品)から出る騒音(電磁ノイズ)が、隣の部屋(他の機器)に迷惑をかけていないか?

→ エミッション(Emission)の問題

EMS(被害者側)

隣の部屋(他の機器)からの騒音(電磁ノイズ)を受けても、自分の部屋(製品)が正常に暮らせるか?

→ イミュニティ(Immunity)の問題

EMCの基本構造
EMC = EMI(ノイズを出さない) + EMS(ノイズに負けない)
EMI = Electromagnetic Interference(電磁妨害)
EMS = Electromagnetic Susceptibility(電磁感受性)

なぜ法規制が必要なのか?|放置すると社会インフラが止まる

「騒音」なら我慢すれば済むかもしれません。でも電磁ノイズの場合、最悪のケースでは命に関わります。

実際に過去には、電子機器のノイズが原因で航空機の計器が誤動作した事例、医療機器が突然停止した事例が報告されています。また身近なところでは、スイッチング電源のノイズがラジオ放送に干渉して聞こえなくなるといった問題が日常的に起きています。

こうした「電磁環境の汚染」を防ぐために、世界各国が「製品はこれ以上ノイズを出してはいけない」「このレベルのノイズには耐えなければならない」というルール(EMC規格)を定めているのです。

EMC対策は「任意」ではない
EMC規格をクリアしていない製品は、EU域内ではCEマーキングが貼れず販売禁止。米国ではFCC認証なしに販売すると罰金。日本のVCCIは自主規制ですが、大手量販店やメーカーはVCCI適合を取引条件にしているため、実質的に売れません。
エミッション試験とイミュニティ試験の比較図。エミッション試験は電波暗室で製品をターンテーブルに載せ、アンテナで放射ノイズを測る加害者チェック。イミュニティ試験は雷サージ・無線周波数・静電気を製品に加えて動作を確かめる被害者チェック
エミッション試験は加害者、イミュニティ試験は被害者のチェック
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エミッション試験とイミュニティ試験|「加害者チェック」と「被害者チェック」

エミッション試験=「あなたの製品、うるさくないですか?」

エミッション試験は、製品から出る電磁ノイズが規格の許容値以内に収まっているかを測定する試験です。「加害者チェック」と覚えてください。

測定方法は大きく2種類あります。

種類 何を測る? 測定環境 イメージ
放射エミッション 製品から空間に放射されるノイズ 電波暗室(3m法/10m法) 「声が外に漏れていないか」
伝導エミッション 電源ケーブルを伝わって出ていくノイズ シールドルーム+LISN 「水道管を通じて隣家に騒音が伝わっていないか」

イミュニティ試験=「あなたの製品、耐えられますか?」

イミュニティ試験は、外部からの電磁ノイズを受けても製品が正常に動作し続けるかを確認する試験です。「被害者チェック」です。

試験名 何をシミュレート? 現実世界のイメージ
静電気放電(ESD) 人体からの放電 冬にドアノブを触った「バチッ」
放射イミュニティ(RS) 近くの無線機器からの電波 工場でトランシーバを使ったら隣の機械が暴走
電気的ファストトランジェント(EFT) リレーやスイッチが出す高速ノイズ 工場の大型スイッチをON/OFFした瞬間
雷サージ 近隣への落雷による過電圧 雷が近くに落ちた瞬間の電源変動
覚え方のコツ
エミッション=「Emission=放出=加害者」→ 自分のノイズが外に出ていないか
イミュニティ=「Immunity=免疫=被害者」→ 外からのノイズに耐えられるか
EMCに合格するには、加害者チェックも被害者チェックも両方パスする必要があるのです。
どこで売るかで変わるEMC規格の図。日本はVCCI(自主規制だが実質必須)、EUはCE(EMC指令による法的義務)、米国はFCC(Part 15による法的義務)で、共通の基盤は国際規格CISPR
日本はVCCI、EUはCE、米国はFCC:基盤はCISPR

VCCI・CEマーキング・FCCの違い|3大EMC規格を完全比較

「どこで売るか」で適用される規格が変わる

EMC規格は「世界共通」ではありません。製品を販売する国・地域によって、クリアすべき規格が異なります。日本、EU、米国の3大規格を比較しましょう。

比較項目 VCCI(日本) CEマーキング(EU) FCC(米国)
正式名称 VCCI協会
(一般財団法人)
EMC指令
(2014/30/EU)
FCC Part 15
(連邦通信委員会)
法的拘束力 自主規制
(法律ではないが実質必須)
法的義務
(違反は販売禁止・罰金)
法的義務
(違反は罰金・製品没収)
ベースとなる国際規格 CISPR 32 EN 55032 / EN 55035 等 ANSI C63.4
クラス分け クラスA(産業用)
クラスB(家庭用)
クラスA / クラスB クラスA / クラスB
エミッション ○ 必須 ○ 必須 ○ 必須
イミュニティ 対象外(VCCIは妨害波規制のみ) ○ 必須(ESD、RS、EFT、サージ等) 対象外(一部産業機器を除く)
認証方法 自主適合確認
(VCCI会員制)
自己宣言
(技術文書+適合宣言書を作成)
自己適合宣言 or
第三者認証(製品による)

クラスAとクラスBの違い|「家庭用」の方が圧倒的に厳しい

VCCI、CE、FCCのいずれも、製品をクラスA(産業用・商業用)とクラスB(家庭用・住宅環境用)に分類しています。

直感に反するかもしれませんが、クラスB(家庭用)の方が規格値が厳しいです。

理由は簡単です。家庭にはテレビ、ラジオ、Wi-Fiルーターなど、ノイズの影響を受けやすい機器が密集しています。さらに、近隣住宅との距離も近い。だから「もっと静かにしなさい」と厳しい基準が課されるのです。工場であれば機器間の距離が取れるため、許容値がやや緩くなります。

VCCIは「自主規制」だが、実質は必須
日本にはEUや米国のようなEMCの直接的な法律がありません。しかし、VCCI協会の会員企業には主要な電機メーカーやIT企業が名を連ねており、「VCCIマークがない製品は取り扱わない」という商習慣が定着しています。法律ではないものの、VCCIに適合していないと、量販店やOEM先との取引が成立しないのが現実です。
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伝導ノイズと放射ノイズの違いと対策

EMC規格の関係を木にたとえた図。幹の国際規格CISPRから、VCCI-CISPR 32、EN 55032/EN 55035、FCC Part 15の枝が出ている。ベースは同じだが細部が違う
VCCI・EN・FCCは国際規格CISPRがベース

EMC規格の全体像|CISPRから各国規格への流れ

国際規格CISPRが「親」、各国規格が「子」

「規格が国ごとにバラバラだと面倒すぎる」――その課題を解決するのが、国際規格CISPR(シスプル)です。正式名称は「国際無線障害特別委員会」で、IEC(国際電気標準会議)の下部組織です。

CISPRが「世界共通のルール」を定め、それをベースに各国が自国の事情に合わせた規格を作っています。つまり、CISPRは「親」、VCCI・EN規格・FCCは「子」のような関係です。

CISPR(国際規格)
↓ ↓ ↓
日本
VCCI-CISPR 32
(自主規制)
EU
EN 55032 / EN 55035
(EMC指令に基づく法規制)
米国
FCC Part 15
(連邦法規制)

測定方法や限度値はCISPRベースで概ね共通ですが、細かい部分(測定距離、クラス分けの閾値、周波数範囲など)が国ごとに微妙に異なります。そのため、「日本で合格したからEUでも大丈夫」とは限りません。グローバル展開する製品は、最も厳しい規格に合わせて設計するのが鉄則です。

CEマーキングは「EMC指令だけ」ではない

EU向けに製品を販売するには「CEマーキング」を貼る必要がありますが、CEマーキングは「EMC指令」だけをクリアすれば良いわけではありません。製品の種類に応じて、以下のような複数の指令に適合する必要があります。

EU指令 対象 ひとこと
EMC指令(2014/30/EU) ほぼすべての電気・電子機器 ノイズを出さない&耐える
低電圧指令(LVD)(2014/35/EU) AC 50~1000V / DC 75~1500V 感電・火災から人を守る
機械指令(MD)(2006/42/EC) 可動部を持つ機械 機械的な安全性
無線機器指令(RED)(2014/53/EU) 無線機能を持つ機器 無線機器はEMC指令から除外され、REDに統合
エンジニアが知っておくべきポイント
CEマーキングのEMC指令は「自己宣言」方式です。第三者機関の認証は必須ではなく、製造者自身が「適合しています」と宣言できます。ただし、その裏付けとなる技術文書(テストレポート・回路図・基板図面等)を10年間保管する義務があります。もし市場監視当局に問い合わせを受けた際に提出できなければ、販売停止・罰金の対象になります。

EMIとEMSの違い|「出す側」と「受ける側」

EMIは「ノイズを出して迷惑をかける側」の話、EMSは「ノイズを受けて困る側」の話です。同じノイズを、出す側から見るか、受ける側から見るかの違いだけです。

EMCの基本の式
EMC = EMI(出さない)+ EMS(負けない)

EMI(イー・エム・アイ)

  • Electromagnetic Interference(電磁妨害)
  • 自分の機器がノイズを出す問題
  • 立場:加害者
  • 例:電子レンジを動かすとWi-Fiが遅くなる(このとき電子レンジがEMIの発生源)
  • 守るルール:「これ以上ノイズを出してはいけない」

EMS(イー・エム・エス)

  • Electromagnetic Susceptibility(電磁感受性)
  • 自分の機器がノイズを受けて誤動作する問題
  • 立場:被害者
  • 例:冬にパソコンに触れて「バチッ」となり、画面が固まる
  • 守るルール:「このくらいのノイズには耐えなさい」

1台の機器が「両方の立場」になる

ここで混乱しやすいのですが、EMIとEMSは「機器の種類」ではありません。1台の機器が、加害者にも被害者にもなります。

たとえばスマホは、電波やノイズを出す加害者であると同時に、静電気で誤動作するかもしれない被害者でもあります。だからEMCは、どの製品にも「出さない」と「負けない」の両方を求めるのです。

比べるポイント EMI EMS
ノイズの向き自分 → 外へ外 → 自分へ
電車のたとえ大声で話さない騒がしくても集中できる
試験の呼び名エミッション試験イミュニティ試験
測るもの出ているノイズの大きさノイズを当てても正常に動くか
つまり
EMIは「迷惑をかけない力」、EMSは「迷惑に負けない力」。両方そろって、はじめて「EMCがある」と言えます。

用語の交通整理|エミッション・イミュニティとの関係

EMC関係の用語は多く見えますが、実は「出す側グループ」と「受ける側グループ」の2つに分けるだけで整理できます。似た言葉は、同じグループの言い換えです。

グループ よく見る言葉 言葉のニュアンス
出す側EMI(電磁妨害)ノイズで迷惑をかける「現象」
エミッション(Emission)「放出」。出ているノイズそのもの、またはその試験
妨害波(ぼうがいは)日本の規格でよく使う呼び方
受ける側EMS(電磁感受性)ノイズの「影響の受けやすさ」
イミュニティ(Immunity)「免疫」。ノイズへの「強さ・耐性」
耐性・イミュニティ試験受ける側の試験の呼び方

初心者が一番つまずく「EMSとイミュニティ」

ここが最大の混乱ポイントです。EMSの「感受性(サセプティビリティ)」は「影響の受けやすさ」。イミュニティは「影響への強さ」。言葉の意味としては、実は正反対です。

たとえると「風邪」の話
「風邪のひきやすさ(感受性)」と「風邪への免疫力(イミュニティ)」は、逆の言い方です。でも、どちらも「風邪をうつされる側」の話ですよね。EMSとイミュニティも同じで、指している立場は同じ「受ける側」です。
ここで間違えやすい
「EMS対策」と「イミュニティ向上」は、同じことを指しています。会話や資料で両方の言葉が出てきても、別のものだと思わなくて大丈夫です。
つまり
迷ったら「この言葉は出す側?受ける側?」とだけ考えてください。EMI・エミッション・妨害波は出す側。EMS・イミュニティ・耐性は受ける側。これで用語の8割は片づきます。

EMCの問題は「3つの登場人物」で起きる

ノイズのトラブルは「発生源」「伝わり道」「受け手」の3つがそろったときにだけ起きます。EMCの話は、すべてこの3つのどこかについての話です。

① 発生源

ノイズを生み出すもの。電圧や電流を高速でON・OFFするスイッチング電源や、モーター、クロック信号(ICを動かすための一定リズムの信号)などが代表です。

② 伝わり道

ノイズが移動するルート。電線を伝わる「伝導(でんどう)」と、空中を飛ぶ「放射(ほうしゃ)」の2つに大きく分かれます。隣の配線に飛び移る「クロストーク」も、伝わり道の一種です。

③ 受け手

ノイズを受けて困る機器や回路。ラジオ、センサー、マイコン(小さなコンピュータ)などが代表です。

たとえると「くしゃみと風邪」
風邪がうつるには、①くしゃみをする人、②しぶきが飛ぶ空気、③うつされる人、の3つが必要です。どれか1つが欠ければ、風邪はうつりません。ノイズも同じで、3つのどれか1つでも断ち切れば、トラブルは起きません。

3要素ごとの「くわしい行き先」

この記事は地図の役割なので、それぞれのくわしい中身は専門の記事にお任せします。気になるところから読んでみてください。

要素 くわしい解説記事
① 発生源なぜスイッチング電源はノイズの塊なのか?
② 伝わり道(線と空)伝導ノイズと放射ノイズの違い
② 伝わり道(流れ方)コモンモードノイズとノーマルモードノイズの違い
② 伝わり道(隣の配線)クロストークとは?隣の配線にノイズが飛び移るメカニズム
つまり
EMCの勉強で迷子になったら、「今の話は、発生源・伝わり道・受け手のどれ?」と考えてみてください。それだけで、話の位置がわかります。

EMC試験の全体マップ|4つのマスで整理する

EMC試験は「出す側か受ける側か」と「電線経由か空中経由か」の2つの軸で、4つのマスに整理できます。名前の多い試験も、どれかのマスに必ず入ります。

マス1:伝導エミッション

電源ケーブルなどを伝わって外へ出ていくノイズを測る。
例:家のコンセントを通じて、隣の家電にノイズが伝わらないか

マス2:放射エミッション

機器から空中へ飛び出すノイズを測る。
例:テレビやラジオの電波をじゃましていないか

マス3:伝導イミュニティ

電線から入ってくるノイズに耐えられるか試す。
例:雷による電圧の急上昇(サージ)や、瞬間的な停電

マス4:放射イミュニティ

空中から飛んでくる電波に耐えられるか試す。
例:すぐ横でトランシーバーやスマホを使われても誤動作しないか

たとえると「家の騒音チェック」
伝導は「水道管や壁を伝わって響く音」。放射は「窓から外に漏れる声」。エミッションは「自分の家がうるさくないか」、イミュニティは「外がうるさくても眠れるか」のチェックです。

もう1つの仲間「過渡(かと)現象」

受ける側の試験には、ほんの一瞬だけ起きる大きなショックに耐えられるかを試すものもあります。冬の静電気「バチッ」や、雷の影響、スイッチを切った瞬間のノイズなどです。

こうした「一瞬の出来事」も、伝わり方で見ればマス3(電線経由)かマス4(空中経由)のどちらかに入ります。静電気だけは機器に直接バチッと当てるので少し特別ですが、受ける側の試験の仲間です。

つまり
EMC試験は「出す・受ける」×「線・空」=4マス。初めて聞く試験の名前が出てきても、「どのマスかな?」と考えれば落ち着いて理解できます。

具体例で計算してみる|「30MHz」と「10dB」の意味

EMCの地図に出てくる「30MHzの境目」と「クラスBは約10dB厳しい」は、かんたんな計算で実感できます。途中式をひとつも飛ばさずに進めます。

計算①:なぜ30MHzで「線」と「空」を分けるの?

ヒントは波長(はちょう)です。波長とは、ノイズの波1つ分の長さのこと。波長は次の式で求められます。

公式
波長λ(m)= 光の速さ(3億m/秒)÷ 周波数(Hz)
STEP 1

単位をそろえます。30MHz(メガヘルツ)の「メガ」は100万なので、30MHz=30×1,000,000=30,000,000Hzです。

STEP 2

公式に入れます。λ=300,000,000÷30,000,000。両方の数字から0を7個ずつ消すと、30÷3になります。

STEP 3

30÷3=10m。30MHzのノイズは、波1つ分が10mもあるということです。

周波数 計算 波長 身近なサイズ
150kHz300,000,000÷150,0002,000m歩いて約25分
30MHz300,000,000÷30,000,00010m3階建ての建物くらい
1GHz300,000,000÷1,000,000,0000.3m30cmの定規1本分

電線や配線は、自分の長さが波長に近いほど「アンテナ」としてよく働き、電波を出しやすくなります。製品のケーブルは1〜2mほどなので、波長が10m以上ある低い周波数では電波をあまり出せず、ノイズは主に線を伝わって広がります。周波数が上がって波長が短くなると、ケーブルや基板が上手なアンテナになり、空中へ飛び出すノイズが主役になります。

ここは「目安」です
30MHzより下でも電波はゼロではなく、上でも線を伝わるノイズはあります。「どちらが主役か」で線を引いた、とイメージしてください。

計算②:「クラスBは約10dB厳しい」は何倍?

dB(デシベル)は、大きさを「倍率」で比べる単位です。EMCで電圧の大きさを比べるときは、次の式を使います。

公式(電圧の比べ方)
dB = 20 × log₁₀(倍率)
log₁₀(倍率)は「10を何回かけ算すると、その倍率になるか」を表す数です
STEP 1

差が10dBなので、10=20×log₁₀(倍率)と置きます。

STEP 2

両辺を20で割ります。10÷20=0.5なので、log₁₀(倍率)=0.5。つまり倍率は「10の0.5乗」です。

STEP 3

「10の0.5乗」は、2回かけると10になる数です。0.5+0.5=1なので、10の0.5乗を2回かけると10の1乗=10になります。2回かけて10になる数は√10(ルート10)です。

STEP 4

√10は約3.16です(確かめると、3.16×3.16=9.9856で、ほぼ10)。倍率は約3.16倍です。

つまり
家庭用(クラスB)の製品は、工場用(クラスA)にくらべてノイズの電圧を約1/3に抑えなければならない、ということです。「たった10dB」に見えて、実はかなり厳しい差なのです。(差の大きさは周波数や規格によって変わるので、具体的な値は適用する規格で確認してください)
EMC試験に不合格になったときのコストの図。設計段階の対策なら0円、試験1回目50〜150万円で不合格になると、基板再設計30〜100万円、再試験50万円、スケジュール遅延1〜3か月が重なり、合計150〜300万円以上。後から対策するのが最も高い
EMCは後から対策するほど高くつく:合計150〜300万円以上

EMC試験に落ちたら何が起きる?|「数百万円の手戻り」のリアル

EMC試験1回の費用はどのくらい?

まず、EMC試験そのものにかかる費用を知っておきましょう。

試験項目 費用の目安(1回) 備考
放射エミッション(10m法電波暗室) 20~50万円/日 公設試は安い。民間ラボは高め
伝導エミッション 10~25万円/日 シールドルーム使用
イミュニティ試験一式(ESD/RS/EFT/サージ) 20~50万円/日 項目数による
合計(VCCI + CE全項目) 50~150万円 製品の複雑さや規格数による

不合格→手戻りの「地獄のループ」

問題は、試験に落ちたときです。EMC試験で不合格になると、以下のようなコストが雪だるま式に膨れ上がります。

STEP 1

試験不合格:放射エミッションが限度値を超過していることが判明
→ 試験費用 約50万円 が無駄に

STEP 2

原因調査&対策設計:ノイズ源の特定、フィルタ追加、パターン修正の検討
→ エンジニアの工数 2~4週間

STEP 3

基板の再設計・再製造:パターン変更が必要な場合、基板を作り直す
→ 基板製造費 30~100万円(多層基板の場合)

STEP 4

再試験:再度電波暗室を予約して測定
→ 再試験費用 約50万円 + 暗室の予約待ち 2~6週間

結果

合計コスト:150~300万円、スケジュール遅延:1~3ヶ月
これが2回、3回と繰り返される最悪のケースも珍しくありません。

本当に怖いのは「金額」ではなく「時間」
電波暗室は予約制で、人気のある施設は1~2ヶ月待ちもザラです。EMC試験不合格→再設計→再試験のループに入ると、製品の発売日が後ろ倒しになります。市場投入の遅れは、競合に先を越されるリスクであり、金額換算できないほどの損害になり得ます。だからこそ、「設計段階からEMCを考慮する」ことが、最も費用対効果の高い対策なのです。
コストゼロの5つのEMC対策の図。①GNDプレーンを分断しない、②ループ面積を最小化、③パスコンをICの直近に、④クロックにダンピング抵抗、⑤コネクタ前にフェライトビーズ用のランド
設計段階でできるコストゼロの5つのEMC対策

設計段階でできるEMC対策の「最初の一歩」

回路設計・基板設計で今日からできる5つの基本

EMC試験に一発合格するための秘訣は、「試験場で対策する」のではなく、「設計段階でノイズの芽を摘む」ことです。以下は、回路・基板設計で必ず押さえるべき基本中の基本です。

対策①

GNDプレーンを分断しない:高周波電流の帰路が途切れると、電流がGNDプレーン上を迂回して巨大なループアンテナを形成します。ベタGNDが基本です。

対策②

電流ループ面積を最小化する:信号配線とGND帰路のペアをなるべく近づけ、ループ面積を小さくすることで放射ノイズが激減します。

対策③

パスコン(バイパスコンデンサ)をICの直近に配置:ICの電源ピンのすぐそばに0.1μFのセラミックコンデンサを置くことで、高周波ノイズの電源ラインへの流出を防ぎます。

対策④

クロック信号にダンピング抵抗を挿入:最もEMIの原因になりやすいクロック信号の立ち上がりを緩やかにし、高周波成分を減らします。

対策⑤

コネクタ直前にフェライトビーズ用のランドを用意:外部ケーブルはアンテナになりやすいため、フェライトビーズを後から追加できる設計にしておくと安心です。

「EMC対策コスト」は設計段階が最も安い
設計段階でのEMC対策はほぼタダです。GNDプレーンを分断しない、パスコンを正しく配置する、ループ面積を意識する……これらはコストゼロで実行できます。しかし、試験不合格後の対策は基板再設計・再製造・再試験で数百万円。「後から対策する」は最も高くつく選択です。
EMC対策を市場への入場券にたとえた図。VCCI・CE・FCCの規格の係員が、EMC適合証明を持つ製品だけを市場に通す
EMC対策は品質ではなく市場への入場券

まとめ|EMC対策は「品質」ではなく「入場券」である

この記事の内容を振り返りましょう。

この記事のまとめ
EMCとは 「ノイズで他人に迷惑をかけない(EMI)」+「他人のノイズに耐える(EMS)」の両立
2つの試験 エミッション試験(加害者チェック)+ イミュニティ試験(被害者チェック)
3大規格 VCCI(日本・自主規制だが実質必須)、CEマーキング(EU・法的義務)、FCC(米国・法的義務)
不合格のコスト 試験費用+基板再設計+再試験で150~300万円+1~3ヶ月のスケジュール遅延
最も安い対策 設計段階でEMCを考慮すること(GNDプレーン・ループ面積・パスコン・ダンピング抵抗)

EMC対策は「あると嬉しい品質向上策」ではありません。製品を市場に出すための「入場券」です。入場券がなければ、どんなに素晴らしい製品を作っても、棚に並べることすらできません。

そしてこの入場券は、「試験場で買う」のではなく、「設計のデスクで手に入れる」ものです。GNDプレーンを正しく引く、ループ面積を意識する、パスコンを適切に配置する――これらは追加コストゼロの「最強のEMC対策」です。

この記事が、EMC対策の「なぜ」を理解する第一歩になれば嬉しいです。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

この記事の理解を深める本と道具
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