電気のしくみ(暮らしと現場)

複素数とjの意味|「なぜ交流で虚数が出てくるのか」を回転するベクトルで理解する

複素数とjの意味。「なぜ交流で虚数が出てくるのか」を回転するベクトル

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。

こんな悩みはありませんか?
  • 交流回路の計算で突然「j」が出てきて、頭が真っ白になる…
  • 虚数ってそもそも「存在しない数」じゃないの?なぜ電気で使うの?
  • 極形式やフェーザ表示の変換がまったく意味不明…
  • 複素インピーダンスの計算で毎回ミスする…
○ この記事でわかること
  • なぜ交流回路に虚数(j)が必要なのか、その「本当の理由」
  • j = 「90°回転させる演算子」という本質をイメージで理解
  • 直交形式・極形式・指数形式の変換方法
  • フェーザ表示の意味と使い方
  • 複素インピーダンスの計算方法

電験三種の理論科目を勉強していると、ある日突然、こんな式が登場します。

Z = R + jX

「…j って何?」

数学では i で習った虚数が、電気の世界では j と書かれている。しかも、それが「インピーダンス」という電気の抵抗を表す式に入っている。「存在しない数がなぜ電気の世界に?」と混乱しますよね。

結論|まず30秒でわかる答え

交流の計算で複素数を使うのは、電圧や電流が「大きさ」と「位相(角度)」の2つの情報を持つからです。j は虚数単位(j²=−1)で、数学の i と同じものですが、電気では i を電流の記号に使うため j と書きます。j をかけることは「90°回転させること」にあたり、コイルで電圧が電流より90°進むことを jωL、コンデンサで90°遅れることを −j/(ωC) と、掛け算だけで表せます。

この記事を読み終わる頃には、j が怖くなくなるどころか、「jがあるから交流の計算がラクになるんだ」と感じられるようになります。一緒にゆっくり理解していきましょう。

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なぜ交流で虚数が必要なのか?|交流は「回転」だから

直流と交流の決定的な違い|「動かない」vs「回っている」

まず、なぜ直流では複素数が不要で、交流では必要なのかを理解しましょう。

直流(DC)

電圧も電流も
一方向にずっと流れる

「大きさ」だけ分かればOK

→ 普通の数字(実数)で
十分に表現できる

例:100V

交流(AC)

電圧も電流も
向きと大きさが常に変化

「大きさ」と「向き(角度)」の
2つの情報が必要

→ 普通の数字では
情報が足りない!

例:100V ∠30°

直流は「100V」と言えば終わりです。でも交流は「100Vで、今このくらい回転している」という2つの情報を同時に伝える必要があります。

これは、日常生活に置き換えると分かりやすいです。

時計の針で理解する「大きさ+角度」の世界

「待ち合わせ場所を教えて」と言われたとき、あなたはどう答えますか?

「渋谷駅から500mの場所です」——これだけだと困りますよね。500mって、どの方向? 北?南?東?

正しくは「渋谷駅から北東に500m」のように、距離(大きさ)と方角(角度)の両方を伝える必要があります。

交流の電圧や電流もまったく同じです。大きさ(振幅)と角度(位相)の2つを同時に扱わなければなりません。

そしてこの「大きさと角度を持った量」を、数学的に美しく扱えるのが——複素数なのです。

ポイント
複素数が交流で使われる理由は、「難しい数学を使いたいから」ではなく、「大きさと角度の2つの情報を1つの数で扱える」という、とてつもなく便利な性質があるからです。複素数は交流計算の「万能ツール」なのです。
直流と交流の表し方の違いの図。直流は大きさ100だけでよいが、交流は100V∠30°のように大きさと角度が必要で、渋谷から北東に500mのように方角が要るので複素数を使う
交流には大きさと角度が必要なので複素数を使う
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j の正体|「90°回転させる演算子」を完全理解する

数学の i と電気の j|名前が違うだけで中身は同じ

まず前提を整理しておきましょう。数学では虚数単位をiと書きますが、電気の世界ではjと書きます。

理由は単純で、電気ではi は電流の記号として使うからです。電流の i と虚数の i が混ざるとパニックになるので、虚数は j に変えた——ただそれだけの話です。中身は完全に同じものです。

定義
j² = −1  (つまり j = √(−1))

数学で習う i² = −1 と同じです。

j の本質|「かけると90°回転する」を体感しよう

j² = −1 という定義を見ても、正直ピンときませんよね。でも大丈夫です。j の本質は「90°反時計回りに回転させる」操作だと考えれば、すべてがスッキリします。

数直線(横軸)の上に「1」を置いてみてください。ここから j をかけていくとどうなるか、見てみましょう。

スタート

1(実数軸の右方向。角度 0°)

×j(1回目)

1 × j = j(虚数軸の上方向。角度 90°)→ 90°回転した!

×j(2回目)

j × j = j² = −1(実数軸の左方向。角度 180°)→ さらに90°回転!

×j(3回目)

−1 × j = −j(虚数軸の下方向。角度 270°)→ さらに90°回転!

×j(4回目)

−j × j = −j² = −(−1) = 1(元に戻った!角度 360° = 0°)→ 1周した!

見てください! j をかけるたびに90°ずつ反時計回りに回転して、4回かけると元に戻ります。

これは、あなたが交差点に立って「左を向け」と言われるのと同じです。1回左を向くと90°、2回で180°(真後ろ)、3回で270°(右)、4回で360°(元の向き)。j は「左に90°向きを変えろ」という命令なのです。

超重要ポイント
j は「数」ではなく「操作」だと思ってください。

・j をかける = 90°反時計回りに回転
・−j をかける = 90°時計回りに回転
・j² をかける = 180°回転(=符号を反転)

この「回転」こそが、交流回路の「位相のズレ」を表現するためにピッタリなのです。

なぜ「90°回転」が交流で使えるのか?

交流回路では、コイルやコンデンサによって電圧と電流の位相がズレます。

素子 電圧と電流の位相差 jとの関係
抵抗(R) 0°(ズレなし) そのまま(実数)
コイル(L) +90°(電圧が電流より90°進む) jωL(+jで90°回転)
コンデンサ(C) −90°(電圧が電流より90°遅れる) 1/(jωC) = −j/(ωC)(−jで−90°回転)

コイルは電圧が電流より90°先に進む(= +j で表現)。コンデンサは電圧が電流より90°遅れる(= −j で表現)。

この「90°のズレ」を表現するのに、j(90°回転の演算子)がドンピシャなのです。これが、交流回路で複素数が使われる本当の理由です。

複素平面の図。jをかけると90°左に回り、1→j→−1→−jと1周する
jをかけることは90°左に回ること

複素数の3つの表し方|直交形式・極形式・指数形式

複素数には3つの書き方があります。電験三種ではこの3つの変換が頻繁に出るので、ここでしっかり押さえましょう。

まず、複素平面(ガウス平面)をイメージしてください。横軸が実数軸(実部)、縦軸が虚数軸(虚部)です。複素数は、この平面上の「1つの点」として表されます。

① 直交形式(デカルト形式)|「東に3歩、北に4歩」

直交形式
Ż = a + jb

a:実部(横方向の成分) b:虚部(縦方向の成分)

これは「マップ上の座標」で位置を伝える方法です。「渋谷駅から東に300m、北に400m」と伝えるイメージ。横と縦の2つの成分でピンポイントの位置を指定します。

例:Ż = 3 + j4 → 実部3、虚部4の点

② 極形式|「北東に500m」

極形式
Ż = r∠θ

r:大きさ(絶対値) θ:角度(偏角)

こちらは「方角と距離」で位置を伝える方法です。「渋谷駅から北東方向に500m」と伝えるイメージ。同じ場所を指しているのに、伝え方が違いますよね。

例:Ż = 5∠53.1° → 大きさ5、角度53.1°の点

③ 指数形式(オイラー形式)|極形式を数式にしたもの

指数形式
Ż = rejθ

ejθ = cosθ + j sinθ(オイラーの公式)

極形式を数学的に厳密に書いたのが指数形式です。電験三種の計算問題では直交形式と極形式が主に使われるので、指数形式は「こういうのもある」程度でOKです。

3つの形式の変換方法|これだけ覚えればOK

変換の方向 公式
直交 → 極
(a + jb → r∠θ)
r = √(a² + b²)
θ = arctan(b/a)
極 → 直交
(r∠θ → a + jb)
a = r cosθ
b = r sinθ

計算例|直交形式 → 極形式の変換

【問題】Ż = 3 + j4 を極形式に変換せよ。

【解答】

① 大きさ r を求める
r = √(3² + 4²) = √(9 + 16) = √25 = 5

② 角度 θ を求める
θ = arctan(4/3) = arctan(1.333...) ≒ 53.1°

答え:Ż = 5∠53.1°

おなじみの「3:4:5の直角三角形」ですね。実部3(横)と虚部4(縦)で直角三角形を作り、斜辺が大きさ r=5、角度がθ≒53.1°になります。

使い分けのコツ
・足し算・引き算 → 直交形式が便利(成分ごとに足すだけ)
・かけ算・割り算 → 極形式が便利(大きさをかけ、角度を足すだけ)

電験三種では「直列回路は直交形式で足す」「並列回路やオームの法則は極形式でかける」と使い分けると、計算速度が劇的に上がります。
複素数の3つの表し方の図。Ż=3+j4を直交形式とすると、極形式はŻ=5∠53.1°、指数形式はŻ=5e^(j53.1°)で、r=√(a²+b²)、θ=arctan(b/a)
直交形式・極形式・指数形式の3つの表し方
おすすめの本

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フェーザ表示とは?|「回転を止めたスナップ写真」

交流は「グルグル回転するベクトル」で表現できる

交流電圧 v = Vm sin(ωt + θ) は、実は複素平面上でグルグル回転するベクトルの「影」として理解できます。

時計の針を想像してください。時計の針は一定の速度でグルグル回転していますよね。この回転する針の先端を横から見ると、上下に揺れる動き(正弦波)に見えます。

これがまさに交流の正体です。交流 = 回転するベクトルの影なのです。

フェーザ = 回転を止めて「位置関係」だけを取り出す

回転するベクトルを毎回描くのは大変ですよね。そこで、回転を一旦止めて、ある瞬間のベクトルの「大きさ」と「角度」だけを取り出したものがフェーザ(phasor)です。

回転するベクトル
(瞬時値の世界)

v = Vm sin(ωt + θ)

時間 t とともに
ベクトルがグルグル回転

→ 動画のようなもの

フェーザ
(複素数の世界)

V̇ = V∠θ

回転を止めて
大きさと角度だけを記録

→ 写真のようなもの

フェーザは、動画から1枚のスナップ写真を切り取るイメージです。回転の速度(ω)はすべての電圧・電流で同じなので、省略しても問題ありません。大事なのは大きさと角度(位相差)だけ。

フェーザ表示の例

瞬時値:v = 141 sin(ωt + 30°) [V]

↓ フェーザ表示(実効値を使う場合)

V̇ = 100∠30° [V]

※ 実効値 = 最大値/√2 = 141/√2 ≒ 100V
フェーザ表示の注意点
フェーザの大きさには実効値を使うのが一般的です(電験三種も同様)。最大値ではないので注意してください。

・最大値 Vm = 141V → 実効値 V = Vm/√2 ≒ 100V
・フェーザ:V̇ = 100∠30° (141ではなく100)
関連記事
【電験三種・理論】実効値・最大値・平均値|なぜ100Vなのか?を完全理解 →

【電験三種・理論】瞬時値と位相|交流の式v=Vmsinωtを理解する →
フェーザの図。回転するベクトルv=Vm sin(ωt+θ)を動画とすると、回転を止めたスナップ写真がフェーザV̇=V∠θ
フェーザは回転するベクトルを止めたスナップ写真

複素インピーダンスの計算|R + jX の意味を完全理解

複素インピーダンスとは?|「大きさ」と「位相のズレ」を一度に表す

ここまでの知識を使って、いよいよ交流回路の計算に入りましょう。

交流回路のインピーダンスを複素数で表したものが複素インピーダンス Żです。

各素子の複素インピーダンス

抵抗 R :ŻR = R(実数のみ。位相ズレなし)

コイル L :ŻL = jωL(+j = 電圧が電流より90°進む)

コンデンサ C :ŻC = 1/(jωC) = −j/(ωC)(−j = 電圧が電流より90°遅れる)

j がついている方向が「位相のズレ」を表しています。コイルは+j方向(上方向=進み)、コンデンサは−j方向(下方向=遅れ)。抵抗は j がつかないので、位相ズレはゼロ。

RLC直列回路の複素インピーダンス

直列回路では、各素子の複素インピーダンスをそのまま足すだけです。

RLC直列回路の複素インピーダンス

Ż = R + jωL − j/(ωC)

Ż = R + j(ωL − 1/(ωC))

実部:R(抵抗成分)
虚部:ωL − 1/(ωC)(リアクタンス成分 X)

つまり Ż = R + jX の形になります。実部が「エネルギーを消費する成分(抵抗)」、虚部が「エネルギーを蓄えたり放出したりする成分(リアクタンス)」です。

計算例|複素インピーダンスからフェーザ電流を求める

【問題】R = 3Ω、XL = ωL = 4Ω の RL直列回路に、V̇ = 100∠0° [V] の交流電圧を加えたとき、電流のフェーザ İ を求めよ。

【解答】

① 複素インピーダンスを求める(直交形式)
Ż = R + jXL = 3 + j4 [Ω]

② 極形式に変換する
|Z| = √(3² + 4²) = √25 = 5 Ω
θ = arctan(4/3) ≒ 53.1°
Ż = 5∠53.1° [Ω]

③ オームの法則でフェーザ電流を求める
İ = V̇ / Ż = 100∠0° / 5∠53.1°

極形式の割り算:大きさを割り、角度を引く
İ = (100/5)∠(0° − 53.1°)
İ = 20∠−53.1° [A]

電流は20Aで、電圧より53.1°遅れています(−53.1°)。コイルがあるので電圧が先行し、電流が遅れる——j の回転の意味が、計算結果にちゃんと現れていますね。

複素数計算のコツ
・足し算・引き算(直列回路のインピーダンス)→ 直交形式で計算
・かけ算・割り算(オームの法則 V = ZI)→ 極形式で計算

この使い分けを徹底するだけで、計算ミスが激減します。
RL直列回路のフェーザ計算の図。V=100∠0°V、R=3Ω、XL=4Ωで、Z=3+j4=5∠53.1°Ω、電流の大きさは100÷5=20A、I=20∠−53.1°Aで電流は電圧より53.1°遅れる
RL直列回路の電流をフェーザで求める計算例

まとめ|複素数と j のポイント総整理

○ この記事のポイント
  • 交流は「大きさ」と「角度」の2つの情報が必要 → 複素数ならこの2つを1つの数で扱える
  • j は「90°反時計回りに回転させる」演算子。j を4回かけると元に戻る
  • 電気で i ではなく j を使うのは、電流の記号 i と区別するため
  • コイルの位相ズレ(+90°)は +j、コンデンサの位相ズレ(−90°)は −j で表現
  • 複素数には3つの書き方:直交形式(a+jb)・極形式(r∠θ)・指数形式(rejθ)
  • 足し算・引き算は直交形式、かけ算・割り算は極形式が便利
  • フェーザ = 回転するベクトルの「スナップ写真」。大きさは実効値、角度は位相
  • 複素インピーダンス Ż = R + jX で、実部が抵抗成分、虚部がリアクタンス成分

j は、最初は「意味不明な記号」に見えますが、その正体は「90°回すだけ」の単純な操作です。

交差点で「左を向け」と言われたら90°回転する。j は、電気の世界で同じことをやっているだけ。そして、この「回転」こそが、交流回路の位相ズレを完璧に表現してくれるのです。

複素数は電験三種のほぼすべての交流計算に登場します。ここを乗り越えれば、交流回路の問題が一気に解けるようになります。この記事を何度も読み返して、「j = 90°回転」を体に染み込ませてください。

重要公式チートシート(試験直前に見直し用)

項目 公式
j の定義 j² = −1 (j をかける = 90°回転)
j の累乗 j¹ = j(90°)、j² = −1(180°)、j³ = −j(270°)、j⁴ = 1(360°)
直交→極 r = √(a²+b²)、θ = arctan(b/a)
極→直交 a = r cosθ、b = r sinθ
R の Ż ŻR = R
L の Ż ŻL = jωL
C の Ż ŻC = 1/(jωC) = −j/(ωC)
極形式の掛け算 r₁∠θ₁ × r₂∠θ₂ = r₁r₂∠(θ₁+θ₂)
極形式の割り算 r₁∠θ₁ ÷ r₂∠θ₂ = (r₁/r₂)∠(θ₁−θ₂)
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複素数の完全攻略チートシートの図。j²=−1、jをかけると90°回転、直交形式a+jbと極形式r∠θの変換、足し算は直交形式・かけ算は極形式、RはR・Lは+jωL・Cは−j/(ωC)
複素数のチートシート:j=90°回転とR・L・Cの表し方

よくある質問

Q. 電気ではなぜ虚数を i ではなく j と書くの?

A. 電気では i を電流の記号に使うため、混ざらないように虚数単位を j と書きます。中身は数学の i と同じです。

Q. j をかけるとどうなる?

A. 複素平面上で反時計回りに90°回転します。2回かけると180°回って −1 になります。

Q. 交流でなぜ複素数を使うの?

A. 大きさと位相の2つを1つの数で扱え、位相のずれを掛け算と足し算だけで計算できるからです。

Q. 3+j4 を極形式にすると?

A. 大きさは√(3²+4²)=5、角度は tan⁻¹(4/3)≒53.1°なので、5∠53.1° です。

この記事の理解を深める本と道具
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シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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