- パターン幅はIPC-2221で計算してバッチリ。なのに試作品が発熱した
- 原因を調べたら、外層→内層の乗り換えで使った「ビア」が真っ赤に焼けていた
- 「ビア1個で何アンペア流せるの?」と聞かれて答えられない
- 10A流すラインのビアを「とりあえず3個」にしたが、根拠を聞かれると困る
- ビア1本あたりの許容電流の計算方法
- 「10A流すなら何個並列?」が即答できるようになる早見表
- ビアの配置パターン(一列・千鳥・面状)の使い分け
- 「パターンは太いのにビアでボトルネック」を防ぐ実務テクニック
前回の記事で、IPC-2221を使ってパターン幅を計算する方法を解説しました。「2A流すなら外層0.5mm」と即答できるようになった方も多いと思います。
しかし、実際の基板設計ではパターン幅だけでは足りません。なぜなら、外層と内層を行き来するときに必ず通る「ビア」が、しばしばボトルネックになるからです。
この記事を読み終えたとき、あなたは「10A流すラインなら、Φ0.3mmビアを最低10個並列で打つ」と即答できるようになります。客先レビューで「ビア本数の根拠は?」と聞かれても、自信を持って答えられる知識が身につきます。
目次
まず結論:ビア本数の早見表
細かい計算式の前に、結論を見せます。これは標準的なΦ0.3mm(ドリル径)ビアを前提とした、必要本数の早見表です。
「電源ラインに○A流す → ビア何個並列?」と聞かれたら、まずこの表を頭に浮かべてください。
| 流したい電流 | 最低ビア本数 | 推奨本数(マージン2倍) |
|---|---|---|
| 1A | 1個 | 2個 |
| 2A | 2個 | 4個 |
| 5A | 5個 | 10個 |
| 10A | 10個 | 20個 |
| 20A | 20個 | 40個 |
単純に覚えるなら「Φ0.3mmビア = 1個あたり1A」。実際にはもう少し流せますが、マージンを取ってこの数字で覚えておけば、現場で困りません。
この表はあくまで目安です。ビア径・板厚・銅メッキ厚によって許容電流は変わります。次のセクションで「なぜ1個1Aなのか」を理解しておけば、条件が違うときも自分で計算できます。

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そもそもビアって何?
ビア(Via)は、基板の表面と裏面、または異なる層をつなぐための「縦方向の電気の通り道」です。日本語では「スルーホール」と呼ばれることもあります。
ビアは「ビルのエレベーター」
ビアの役割を直感的に理解するなら、ビルのエレベーターを思い浮かべてください。
ビル(基板)
- 各階:基板の各層
- 各階の廊下:パターン
- エレベーター:ビア
人の流れ(電流)
- 1階で集まる人=外層を流れる電流
- エレベーターで上下移動=ビア通過
- 各階で散らばる=内層へ拡散
10階建てのビルで、毎日1万人が出入りするのに、エレベーターが1基だけだったら大渋滞しますよね。ビアも同じで、1個では流せる電流に限界があります。
ビアの構造
ビアは、基板に開けた穴の内壁に銅をメッキして作られます。重要な3つの寸法を覚えておきましょう。
| 寸法 | 標準値 | 役割 |
|---|---|---|
| ドリル径 | 0.3〜0.5 mm | 穴の直径。電流容量の決定要素 |
| 板厚 | 1.6 mm | 基板の厚み。ビアの長さ=抵抗値に影響 |
| 銅メッキ厚 | 25 μm | 穴の内側の銅の厚み。電流容量に直結 |

ビア1本の許容電流はどう決まる?
ビアの許容電流の考え方は、実はパターン幅と全く同じです。「銅の断面積で決まる」という基本ルールは変わりません。
ビアの「断面積」を計算する
ビアは円筒形の銅メッキです。その断面積(電流が流れる方向に対して垂直な面)は、「円周 × メッキ厚」で計算できます。
D:ドリル径 [mm]
t:銅メッキ厚 [mm]
π:円周率 ≈ 3.14
なぜ「円周 × メッキ厚」なのか?
ビアは「中身が空っぽのストロー」のような構造です。電流が流れるのは銅メッキの部分だけで、穴の中央は空洞(または樹脂で埋まっている)です。
ストローの紙の部分の断面積は、「紙の長さ(=円周)× 紙の厚み」で計算しますよね。ビアもこれと全く同じ考え方です。
標準ビア(Φ0.3mm・メッキ25μm)で計算してみる
数値を代入:D = 0.3 mm、t = 0.025 mm(25μm)
A = π × 0.3 × 0.025 = 約 0.0236 mm²
この断面積は、幅0.67mm × 厚み35μmのパターンとほぼ同じ。
IPC-2221の早見表で「0.67mm幅 = 約2.5A」程度。マージンを取って1Aと覚えるのが安全。
理論上は1本で2.5A流せると計算されても、私の職場では「Φ0.3mmビア = 1A」をルールにしています。理由は、ビアは「縦方向で熱が逃げにくい」「メッキ厚にバラつきがある」ため、安全マージンを多めに取りたいからです。新人にも「迷ったらビア1個=1A」と伝えています。
パターン幅と許容電流の計算|IPC-2221完全解説 →

ビア径による許容電流の違い
ビア径を大きくすれば、1本あたりの許容電流は増えます。「太いビア1本」と「細いビア複数」のどちらが有利かを比較してみましょう。
ビア径別の許容電流(メッキ25μm前提)
| ドリル径 | 銅断面積 | 許容電流(目安) | 用途 |
|---|---|---|---|
| Φ0.2 mm | 0.016 mm² | 約 0.5 A | 高密度・信号系 |
| Φ0.3 mm | 0.024 mm² | 約 1 A | 標準(最頻出) |
| Φ0.5 mm | 0.039 mm² | 約 2 A | 電源系 |
| Φ0.8 mm | 0.063 mm² | 約 3 A | パワー系・大電流 |
「太い1本」vs「細い複数」どちらが有利?
太いビア1本(Φ0.8mm)
- 許容電流 約3A
- 占有面積が大きい
- 放熱経路が1本に集中
- 故障時のリスク大
細いビア3本(Φ0.3mm×3)
- 許容電流 約3A(同じ)
- 占有面積を分散できる
- 放熱が分散
- 1本断線しても他で持つ
原則として「細いビアを複数並列」が有利です。実装スペースに余裕があれば、Φ0.3mmを必要数並べる方が信頼性が上がります。ただし、高密度実装で面積が取れない場合は、太いビアの選択肢もありです。

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ビアの配置パターン3種類
ビアを複数並べるとき、その配置の仕方によって性能が変わります。代表的な3パターンを紹介します。
配置パターンの比較
ビアを直線状に並べるシンプルな配置。電源ラインから内層プレーンに乗り換えるときの定番。
メリット:設計が簡単、配線方向が明確
デメリット:占有スペースが横に長くなる
ビアを互い違いに配置する方法。同じ面積でビア密度を上げられる。
メリット:面積効率がいい、電流分布が均等
デメリット:配線設計がやや複雑
ビアを格子状に密集して配置する方法。大電流の電源系で使用。
メリット:最大の電流容量、放熱性も高い
デメリット:占有面積が大きい、コスト増
用途別の使い分け
| 用途 | 推奨配置 | 本数の目安 |
|---|---|---|
| 信号ライン(〜1A) | 一列配置 | 1〜2個 |
| 電源ライン(〜5A) | 一列または千鳥 | 5〜10個 |
| 大電流ライン(10A〜) | 面状配置 | 20個以上 |
| 熱伝導用(サーマルビア) | 面状配置 | 部品サイズ次第 |
ビア間隔は0.6mm以上が推奨です。狭すぎると基板強度が落ちたり、ドリル加工で穴がつながってしまうリスクがあります。製造ルールは基板メーカーに必ず確認してください。

実例:10A流す電源ラインの設計
具体例で考えてみましょう。「12V電源から10Aを基板内で配電する」というシナリオです。
設計の流れ
パターン幅を決める
IPC-2221より、外層35μmで10Aを流すには 約6mm幅が必要。マージンを取って10mm幅で設計。
ビア本数を計算する
Φ0.3mmビア = 1Aなので、10A流すには10個必要。マージン2倍で20個を配置。
配置方法を選ぶ
10mm幅のパターン上に20個並べる場合、千鳥配置(5列×4列)がスペース効率と電流分布の両面で有利。
レビュー資料に記載
「10A・IPC-2221準拠・パターン10mm・ビア20個(マージン2倍)」と明記。これで客先レビューも安心。
パターン幅とビア本数はセットで設計するのが鉄則です。「パターンは太いのにビアが1個」は典型的な失敗パターン。電流の通り道全体が均等な太さになるよう設計してください。
私が品質保証部時代に見た発熱不良の中で、印象的だったのは「20A流すラインのビアが3個」というケース。設計者が「パターンが太いから大丈夫」と思い込んでいたパターンです。サーモグラフィで撮影すると、ビアだけが真っ赤に光っていました。教訓:電流が通る場所は全部チェックする。

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サーマルビア:熱を逃がす特殊な使い方
ビアは電流を流すだけでなく、熱を逃がすためにも使われます。これをサーマルビアと呼びます。
サーマルビアが活きる場面
パワーMOSFETやレギュレータICなど、発熱する部品の真下に大量のビアを配置することで、表面の熱を内層や裏面の銅箔に逃がします。
サーマルビアなし
- 部品の熱が表面にこもる
- ICの温度が上がりやすい
- 寿命が短くなる
サーマルビアあり
- 熱が裏面・内層に逃げる
- ICの温度が10〜20℃低下
- 長期信頼性が向上
サーマルビアの設計のコツ
- 部品の熱パッド(裏面の放熱板)の真下に密集配置:面状(マトリクス)配置がベスト
- 本数は多ければ多いほど効果的:パッド面積に詰められるだけ詰める
- ビア径は標準のΦ0.3mmでOK:本数で稼ぐ方が効率的
- 裏面に大きな銅箔(ヒートスプレッダ)を配置:熱を広い面積に分散させる
サーマルビアの穴は、リフロー実装時にはんだが吸い込まれることがあります。これを防ぐには「ビアフィル」「ビアテンティング」などの加工が必要です。基板メーカーと事前相談してください。

よくある失敗パターン4選
ビア設計で新人がやりがちな失敗を4つ紹介します。これを知っておけば、同じ穴に落ちません。
失敗①:パターンは太いのにビアが少ない
最も多い失敗です。「パターン10mm幅で設計したから大丈夫」と思い込んで、ビアを2〜3個しか打たない。結果、ビアでボトルネックになって発熱します。パターンの許容電流とビアの許容電流は別々に計算する必要があります。
失敗②:ビア間隔が狭すぎる
「面積を節約したい」と考えてビアを詰めすぎると、製造時にドリル穴がつながったり、基板強度が落ちます。ビア中心間隔は最低0.6mmを守ってください。基板メーカーの製造ルールも必ず確認しましょう。
失敗③:熱パッド下のビアでハンダが吸われる
サーマルビアを部品の裏面に配置するとき、対策をしないとリフロー実装時にハンダがビアの穴に吸い込まれます。結果、部品と基板の接合が不十分になり、放熱性能も落ちます。ビアフィル(樹脂埋め)またはビアテンティング(レジスト塞ぎ)で対策してください。
失敗④:ビアの抵抗を無視する
ビアにも抵抗があります(1本あたり約0.5mΩ程度)。10A流すと、ビア1本で5mVの電圧降下です。20個並列なら0.25mVと無視できますが、1〜2本だと5〜10mVの電圧降下が発生します。低電圧回路(3.3V以下)では特に注意が必要です。
私の職場では、設計レビュー時に「電流ライン全体を1本の鎖と見て、最も細い輪っかが許容電流を決める」と教えています。パターン・ビア・コネクタピン、どれか1つでも細いとそこで律速されます。基板設計は「全体を均等な太さで揃える」のが基本です。

実務で使える設計チェックリスト
ビア設計のチェックポイントをリスト化しました。設計レビュー前に必ず確認してください。
- 許容電流に対して必要本数を計算したか?(Φ0.3mm = 1A目安)
- マージンを2倍取ったか?(10A流すなら20個)
- パターン幅とビア本数のバランスは取れているか?(電流の通り道全体で)
- ビア間隔は0.6mm以上か?(製造ルール厳守)
- サーマルビアの場合、ビアフィル等の対策をしたか?(ハンダ吸い込み防止)
これらをすべてクリアできれば、客先レビューで根拠を聞かれても自信を持って答えられます。「IPC-2221に基づいてパターン幅を決め、Φ0.3mmビアを2倍マージンで配置しました」と一言で説明できる状態が理想です。

まとめ:パターン幅とビアはセットで考える
基板設計の電流容量設計では、パターン幅・ビア本数・銅箔厚の3つを必ずセットで考えてください。1つでも細いと、そこがボトルネックになって発熱します。
ビア設計の核心は「Φ0.3mmビア = 1個1A」と覚えること。これさえ押さえていれば、どんな電流値でも即座に必要本数が計算できます。
最初は計算がややこしく感じるかもしれませんが、何度か手を動かせば「電流5Aだから10個」「サーマルビアなら詰められるだけ詰める」と感覚的にわかるようになります。
基板設計は「電流の通り道全体」を意識するスキルです。パターン幅とビアをセットで設計できるようになれば、次のステップ(GND設計、ノイズ対策、熱設計)にも自信を持って進めます。

📚 次に読むべき記事
基板設計の全体像を体系的に整理。パターン・ビアの次に学ぶべき内容が明確になるロードマップ記事。
本記事の前提となるパターン幅の決め方。セットで読むことで電流容量設計の全体像がつかめます。
パターンとビアの次は、GND設計。ビア配置はGNDの戻り経路にも大きく影響します。
パターン・ビアと並んで重要な銅箔厚。3つを連動させて設計するのが基本です。
サーマルビアを深く理解したい方へ。熱設計の基本となる熱抵抗の考え方を解説。