- 参考書に「ベクトル図」が出てくると、矢印の意味がわからず読み飛ばしてしまう
- 電圧と電流が「90°ずれる」と書いてあるが、どっちが進んでどっちが遅れるのか混乱する
- 過去問で「ベクトル図を書きなさい」と出た瞬間、白紙のまま手が止まる
- 力率(cosθ)の問題で、なぜ三角形が出てくるのか理解できない
- ベクトル図が「電気の世界の地図」だとわかる
- R・L・Cの3パターンを「矢印の向き」で一発判別できる
- 自分で白紙からベクトル図を書ける手順(5ステップ)
- 過去問で頻出のRL直列・RC直列・RLC直列回路のベクトル図を独力で描ける
電験三種の参考書を開いて「交流回路」のページを見たとき、いきなり矢印(ベクトル)が描かれていて、何が何だかわからずページを閉じた経験はありませんか?
結論を先に言います。ベクトル図は「交流の電圧と電流の関係を視覚化する地図」です。これさえ書けるようになれば、交流回路のほぼすべての問題は「絵」で解けます。式を覚える必要すらなくなります。
この記事では、白紙の状態から自分で矢印を引けるようになる「5ステップ」を、初心者向けに徹底解説します。
【電験三種・理論】交流とは何か?|正弦波・周波数・周期を完全理解 →
目次
ベクトル図とは「電気の関係性を矢印で描く地図」
直流回路ではオームの法則 V=IR で電圧と電流の関係はシンプルでした。しかし交流になると、電圧と電流は「同じタイミングで動かない」ことが起こります。これを「位相のずれ」と呼びます。
この「ずれ」を文字や数式だけで表すと混乱します。そこで、矢印(ベクトル)を使って絵で表すのがベクトル図です。
① 矢印の長さ = 電圧や電流の大きさ(実効値)
② 矢印の向き = 電圧や電流の位相(時間のずれ)
たとえば「100Vの電圧」と「5Aの電流」が90°ずれているとき、ベクトル図では長さの違う2本の矢印を直角に描くだけ。これで関係性が一目瞭然になります。
製造現場でモーターを扱うとき「力率が悪い」「無効電力が多い」という話が出ます。これらすべて、ベクトル図で考えると一発で理解できます。電験三種だけでなく、工場の電気主任業務でも一生使う「絵の言語」です。

「位相」って何?時計の針で完全イメージ
位相を理解する最も簡単な方法は「アナログ時計の針」を思い浮かべることです。秒針が時計の中心を軸にぐるぐる回る——あれがベクトルの動きそのものです。
秒針=ベクトル
- 長さ(針の長さ)= 大きさ
- 向き(針の角度)= 位相
- 1秒ごとに6°回転 → 交流の周波数に対応
ベクトル図の約束
- 右向き(3時方向)= 位相0°(基準)
- 上向き(12時方向)= 位相+90°(進み)
- 下向き(6時方向)= 位相−90°(遅れ)
ベクトル図では「反時計回り」が進み(プラス)のルールです。時計と回転方向が逆なので注意。最初は「数学の角度と同じ」と覚えれば混乱しません。

R・L・Cのベクトル関係|3パターンを「矢印の向き」で覚える
交流回路の基本素子は抵抗R・コイルL・コンデンサCの3つだけ。それぞれで電圧と電流のベクトル関係が決まっています。これだけ覚えれば、あとは組み合わせるだけです。
| 素子 | 電圧Vと電流Iの関係 | ベクトル図 | 覚え方 |
|---|---|---|---|
| 抵抗 R | 同位相(ずれなし) | → V と I が同じ向き | 仲良し・直流と同じ |
| コイル L | 電流が電圧より90°遅れる | ↑ V を上にすると I は右 | 「エルは遅れる」 |
| コンデンサ C | 電流が電圧より90°進む | ↓ V を下にすると I は右 | 「シーは進む」 |
「ELI(エリ)the ICE(アイス)man」という英語の語呂合わせがあります。
・E(電圧)L(コイル)I(電流)→ コイルではEがIより先(電流が遅れる)
・I(電流)C(コンデンサ)E(電圧)→ コンデンサではIがEより先(電流が進む)
これで一生忘れません。

なぜコイルは「遅れる」、コンデンサは「進む」のか?
丸暗記でもいいのですが、「なぜそうなるのか」を理解しておくと、試験中に混乱したときに自分で導出できます。直感的な説明をします。
コイルL:電流の変化を「嫌がる」ので遅れる
コイルは電流が変化することを嫌う性質(自己誘導)があります。電圧を急に加えても、コイルは「ちょっと待って」と抵抗するため、電流が立ち上がるのに時間がかかります。
イメージは「電車の発進」。アクセル(電圧)を踏んでも、車体(電流)はゆっくり動き出します。だから電流は電圧より遅れる——これがコイルの正体です。
コンデンサC:充電が先、電圧は後から追いつく
コンデンサは「電気を貯める容器」です。電気を貯める瞬間は電流が大量に流れ込むのに対し、電圧(貯まった量)はゆっくり上がっていきます。
イメージは「水を入れたコップ」。蛇口を開いた瞬間に水(電流)はドバッと出るが、コップの水位(電圧)はゆっくり上がる。だから電流のほうが電圧より先に動く=電流が進む——これがコンデンサの正体です。
「コイル=電車」「コンデンサ=コップ」のイメージを持っておけば、試験中に「あれ?どっちが進むんだっけ?」となっても自分で思い出せます。
【電験三種・理論】R-L-C素子の性質|抵抗・コイル・コンデンサの交流特性 →

ベクトル図の書き方|白紙から完成までの5ステップ
それでは実際に、ベクトル図を白紙から書く手順を見ていきます。この5ステップを覚えれば、どんな回路でも書けるようになります。
「基準」を決める。直列回路なら全素子に同じ電流が流れるので、電流 I を基準(右向き矢印)に置く。並列回路なら電圧 V を基準にする。
各素子の電圧を矢印で描く。R は I と同じ向き、L は I より90°進み(上向き)、C は I より90°遅れ(下向き)。
矢印の長さを書く。R両端の電圧 = IR、L両端の電圧 = IXL、C両端の電圧 = IXC。それぞれの大きさを矢印の長さで表現する。
矢印を「足し算」する。電源電圧 V は、各素子の電圧ベクトルを順番につないだもの(始点から終点まで)。これをベクトル合成と呼ぶ。
位相角θを読み取る。電源電圧 V と電流 I のなす角度がそのまま位相角θ。cosθ が力率になる。
直列回路:電流が共通 → 電流Iを基準(右向き)
並列回路:電圧が共通 → 電圧Vを基準(右向き)
この使い分けを間違えると、ベクトル図がぐちゃぐちゃになります。最初に必ず確認してください。

例題①:RL直列回路のベクトル図を書いてみる
ここから実践です。抵抗RとコイルLを直列につないだ回路のベクトル図を、5ステップに沿って書いていきます。
与えられた条件
電源電圧 V を加え、電流 I が流れている直列回路
→ 各素子の電圧と、合成電圧 V のベクトル図を書け
5ステップで書いていく
直列回路なので、電流 I を右向きの基準ベクトルとして描く。
抵抗の電圧 VR は I と同じ向き(右向き)、コイルの電圧 VL は I より90°進み(上向き)。
VR = IR = 4I(右向き)、VL = IXL = 3I(上向き)の長さで描く。
電源電圧 V は VR と VL のベクトル合成。直角三角形になるので三平方の定理で、
V = √(VR² + VL²) = √((4I)² + (3I)²) = 5I
位相角 θ:tanθ = VL/VR = 3/4 → θ ≈ 36.87°
力率 cosθ = VR/V = 4/5 = 0.8
RL直列回路のベクトル図は必ず直角三角形になります。横にVR、縦にVL、斜辺がV。これは「インピーダンス三角形」「電力三角形」とも対応していて、交流回路の最重要パターンです。

例題②:RC直列・RLC直列のベクトル図
RL直列のパターンを理解できたら、あと2つのパターンも一気に押さえましょう。
RC直列回路:VC は下向き(90°遅れ)
コンデンサの電圧 VC は電流より90°遅れるので、電流 I を右向き基準にしたとき、VC は下向きに描きます。
V = √(VR² + VC²)
電源電圧 V は電流 I よりθだけ遅れる(右下向き)。
RLC直列回路:VL(上向き)と VC(下向き)が「打ち消し合う」
RLCすべてが直列の場合、コイルの電圧 VL は上向き、コンデンサの電圧 VC は下向き。同じ縦軸上で逆向きなので、お互いを打ち消し合います。
V = √(VR² + (VL − VC)²)
「VL = VC で力率1.0」になる現象を共振といいます。工場のモーター回路で力率改善コンデンサを入れるのは、まさにこの「VL を VC で打ち消す」操作。ベクトル図で見れば一発で意味がわかります。

並列回路のベクトル図|「電流の合成」で考える
並列回路では、すべての素子に同じ電圧がかかります。だから今度は電圧 V を基準(右向き)にして、電流 I を合成します。
| 素子 | 電流の向き(V基準) | 大きさ |
|---|---|---|
| 抵抗 R | → 同位相(右向き) | IR = V/R |
| コイル L | ↓ 90°遅れ(下向き) | IL = V/XL |
| コンデンサ C | ↑ 90°進み(上向き) | IC = V/XC |
直列回路ではVLが上向き、VCが下向きでした。並列回路ではILが下向き、ICが上向きと逆になります。これは基準を「電圧」に変えたためです。混乱しやすいポイントなので、必ず最初に「直列か並列か」を確認してください。

ベクトル図でよくある3つの間違い
ベクトル図の書き方で初心者が必ず陥る3つの落とし穴を、対処法とセットで紹介します。
間違い①:基準を決めずに描き始める
何も考えずに矢印を描き始めると、図がぐちゃぐちゃになります。必ず最初に「基準は電流か電圧か」を決めて、右向きに描くのが鉄則です。
間違い②:VL と VC の向きを逆にする
直列回路で「VL は上、VC は下」を覚えるべきところを、逆に描くミスが頻発します。「ELI the ICEman」の語呂合わせで必ず確認してください。
間違い③:並列で「直列と同じ向き」に描く
直列の感覚のまま並列回路を描くと、電流の向きを真逆に取り違えます。「直列は電流基準・並列は電圧基準」を呪文のように唱えながら描いてください。
□ 基準は決めたか?(直列=I、並列=V)
□ R は基準と同じ向きに描いたか?
□ L と C の向きは合っているか?(語呂合わせで確認)
□ 矢印の長さは大きさに比例しているか?
□ 合成は始点〜終点でつながっているか?

ベクトル図で一発で解ける電験三種の典型問題
ベクトル図が描けるようになると、以下のような問題はすべて「絵を描くだけ」で解けます。
合成電圧 V を求める:三平方の定理で V = √(VR² + (VL−VC)²)
力率 cosθ を求める:cosθ = VR/V(直列)または cosθ = IR/I(並列)
有効電力・無効電力を求める:P = VIcosθ、Q = VIsinθ。これも電力三角形(ベクトル)で表現可能。
共振周波数を求める:VL = VC のときの条件 ωL = 1/(ωC) から f を導出。

まとめ|ベクトル図は交流回路の「絵の言語」
お疲れ様でした。ベクトル図の基本から書き方、典型問題までを一通り見てきました。最後に、今日覚えて帰ってほしいポイントを3つにまとめます。
- ベクトル図は「電圧と電流の関係を矢印で描いた地図」。長さ=大きさ、向き=位相。
- R・L・Cは「ELI the ICEman」で覚える。L は遅れる、C は進む。
- 書き方は5ステップ。「基準を決める→各電圧を描く→長さ→合成→位相角」の順で迷わない。
ベクトル図は、交流回路の問題を解くための最強の武器です。式で混乱したら、まず絵を描く。これだけで電験三種「理論」の交流分野は得点源に変わります。
📚 次に読むべき記事
ベクトル図と直結する重要記事。ベクトルの斜辺がインピーダンスZになります。
ベクトル図と全く同じ三角形が、電力でも出てきます。原理は同じ。
交流回路全体の学習順序を確認できます。今いる位置と次の一手がわかります。
ベクトル図を描く練習には、いい方眼ノートと製図用コンパスがあると圧倒的に楽になります。