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第3章 - 第11回 / 全12回
シリーズ全体: 26 / 69記事
進捗 38%
こんなことで困っていませんか?
- 電流プローブにはいくつか種類があるらしいけど、何が違うのかわからない
- 「ロゴスキーは直流が測れない」と聞いたが、なぜなのか理解できていない
- 自分の測定にCT・ホール素子・ロゴスキーのどれを選べばいいか判断できない
○ この記事でわかること
- 電流プローブの3つの種類(CT・ホール素子・ロゴスキー)の原理
- 「直流が測れるのはどれ?」など、決定的な使い分けの基準
- 精度・帯域・大電流など、それぞれの得意・不得意の真実
○ 結論(30秒で答え)
電流プローブの種類は主にCT(巻線)方式・ホール素子方式・ロゴスキーコイル方式の3つです。CT方式は交流専用で高精度、ホール素子方式は直流も交流も測れるためオシロ用電流プローブの主流です。ロゴスキーコイル方式は交流専用ですが、薄く柔軟で大電流や狭い場所、高速な過渡電流に強い反面、直流は原理上測れません。直流を測るならホール素子方式が必須です。
結論|まず30秒でわかる答え
ロゴスキーコイルは、電線を囲む鉄心のない空芯コイルに、電流の変化に比例した電圧(e=M×di/dt)が誘導されることを利用し、その電圧を積分器で積分して電流の波形に戻す電流センサーです。鉄心がないので大電流でも飽和せず、薄く柔らかく巻きつけられますが、変化しない直流は原理上測れません。電流プローブはこのほか、交流用のCT方式と、直流も測れるホール素子方式があります。
そもそも電流プローブとは?「磁界」を使って測る
電流プローブとは、電線を切らずに、はさむだけで電流を測れるプローブです。電圧プローブのように回路に直接つなぐ必要がありません。
仕組みの土台は共通で、「電流が流れると、そのまわりに磁界(磁気)ができる」という性質を利用します。この磁界を検出することで、電線を切らずに電流の大きさを知るわけです。3つの方式は、この「磁界をどうやって検出するか」が違うだけです。
ポイント
電流プローブは「電流→磁界→検出」という流れで測ります。磁界の検出方法の違いが、CT・ホール素子・ロゴスキーの3種類を生んでいます。
電流と磁界の関係そのものの基礎は 磁界Hと磁束密度Bの違いを完全理解 で解説しています。
電流プローブは電流が作る磁界を検出する
①CT(巻線)方式|交流専用・高精度の定番
CT(カレントトランス=変流器)方式は、鉄心にコイルを巻いた「トランス」の仕組みで電流を測ります。電線に流れる交流電流が作る磁界の変化が、コイルに電圧を生み出し、それを読み取ります。
高精度で安定しているのが強みですが、原理上、交流(変化する電流)しか測れません。磁界が変化しないと(=直流だと)コイルに電圧が生まれないからです。クランプメーターなどでもおなじみの、もっとも基本的な方式です。
電流を測る3つの方式:CT・ホール・ロゴスキー
②ホール素子方式|直流も交流も測れる主流
ホール素子方式は、「ホール素子」という磁界を直接感じ取るセンサーを使う方式です。磁界の「変化」ではなく「強さそのもの」を読み取れるため、直流(変化しない電流)も交流も両方測れます。これが最大の強みです。
オシロスコープ用の電流プローブは、多くがCT方式とホール素子方式を組み合わせたハイブリッド型です。低い周波数〜直流はホール素子、高い周波数はCTが担当することで、直流から高周波まで幅広くカバーします(出典:HIOKI「電流センサーの種類」)。
覚えておくべき決定打
直流(DC)を測りたいなら、ホール素子方式(または併用型)が必須。CTもロゴスキーも直流は測れません。
不得意なこと
- クランプが厚く、狭い場所に入りにくい
- 大電流では大型・高価になりがち
直流電流を測るならホール素子方式
③ロゴスキーコイル方式|薄く柔軟・大電流と高速に強い
ロゴスキーコイル方式は、鉄心のない「空芯(からしん)コイル」を電線に巻きつけて電流を測ります。鉄心がないので、コイルは細く・柔らかく・軽いのが特徴です。柔らかいベルトのように電線に巻きつけて使います。
この方式は、磁界の「時間的な変化」を検出する原理です。そのため磁界が変化しない直流は原理上測れません(出典:Panasonic技術解説)。一方で、変化の速い電流(高速な過渡電流)には抜群に強く、製品によっては数十MHzまでの広い帯域があります(例:PEM社のCWTHFは0.03Hz〜30MHz。同社の資料)。
よくある失敗
インバータの母線電流に直流分が含まれていたのに、ロゴスキーコイルで測ろうとして、直流分が表示されずに混乱する、というのはよくある例です。原因は「ロゴスキーは直流を測れない」という原理を知らなかったこと。この場合はホール素子方式に替えれば測れます。原理を知らないと、測れない電流を測ろうとして悩むことになります。
また、鉄心がなく薄いので、パワー半導体の細い端子や、込み入った場所の電流も測れます。大電流でも軽量・小型なのも魅力です。
得意なこと
- 薄く柔軟で狭い場所に入る
- 大電流でも軽量・小型
- 高速な過渡電流に強い(広帯域)
不得意なこと
- 直流は原理上測れない
- 小さな電流の精度は他方式に劣ることも
なぜ「磁界の変化」が電圧を生むのか、その原理は 電磁誘導とファラデーの法則 で解説しています。ロゴスキーもCTも、この法則が土台です。
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ロゴスキーコイルの原理|空芯コイルの電圧を積分して電流に戻す
ロゴスキーコイルは、細い管に電線を一様に巻いたコイルを、測りたい電線のまわりに輪にして使います。電線の電流 i がつくる磁界が輪の中を通り、i が変化すると、コイルに次の電圧が生まれます。
e = M × di/dt M = μ₀ × N × A ÷ l
μ₀:真空の透磁率(4π×10⁻⁷ H/m)、N:巻数、A:コイル1巻きの断面積、l:輪の周の長さ
出てくる電圧は電流そのものではなく、電流の変化の速さ(di/dt)に比例します。そこで、後ろにつないだ積分器で e を時間で積分し、電流の波形に戻します。直流は di/dt=0 なので電圧が出ず、原理上測れません。
計算例|どれくらいの電圧が出るか
巻数 N=500、1巻きの半径 2.5mm(A≒1.96×10⁻⁵ m²)、輪の周 l=0.3m のコイルで計算してみます。
| 計算 | 結果 |
| 相互インダクタンス M | 4π×10⁻⁷ × 500 × 1.96×10⁻⁵ ÷ 0.3 | 約 41 nH |
| スイッチングの電流(100A/µs) | 41nH × 1×10⁸ A/s | 約 4.1 V |
| 商用周波数 50Hz・100A(実効値) | 41nH × 2π×50×141A(di/dt の最大) | 約 1.8 mV |
速く変化する電流では数Vの大きな信号が出る一方、50Hzの電流では数mVしか出ません。ロゴスキーコイルが高速な過渡電流に強く、低い周波数の小さな電流は苦手と言われるのは、この式のとおりです。
- 飽和しない:鉄心がないので、大電流でも出力が電流の変化に比例したまま(直線性がよい)
- 電線の位置の影響が小さい:輪がすき間なく閉じていれば、輪の中のどこに電線があってもほぼ同じ出力になる(アンペールの法則)。巻きの不均一や継ぎ目のすき間があると、数%の誤差になることがある
- 戻り線:巻き終わりの線を巻線の中心に通して始点の側へ戻し、外からの磁界の影響を打ち消しながら、両端を同じ側にまとめて輪を開け閉めできるようにしている
つまりロゴスキーコイル=「di/dt を測るコイル」+「積分器」。だから速い電流と大電流に強く、直流と低い周波数の小さな電流は苦手。
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ロゴスキーコイルの原理:di/dtを積分して電流に戻す
積分器の役割と、低い周波数の限界
コイルの電圧 e は di/dt に比例するので、そのままでは電流の波形になりません。後ろの積分器で e を時間で足し合わせて、はじめて電流に比例した出力になります(上の図の②→③)。積分器には、抵抗とコンデンサだけの受動形、オペアンプを使う能動形、デジタルで計算する形があります。
オペアンプの積分器は、少しの直流のずれ(オフセット)でも積み重なって出力が流れてしまうので、ふつうは帰還に抵抗を入れて、ごく低い周波数では積分しないようにしています。このため、ロゴスキーの電流プローブには測れる周波数の下限があり、製品によって数Hz〜0.1Hz以下まで違います。例として、PEM社のCWTシリーズは0.1Hz〜16MHz、遮へい付きのCWTHFは0.03Hz〜30MHzです(同社の資料)。
名前の由来
ロゴスキーコイルの名前は、1912年にこのコイルの論文を発表したドイツの物理学者ヴァルター・ロゴスキー(Walter Rogowski)にちなみます(共著者はW. シュタインハウス)。
| 使うときの注意 | 理由 |
| 輪をきちんと閉じ、継ぎ目の近くに電線を置かない | 継ぎ目のすき間や巻きのむらで、数%の誤差になることがある |
| 測りたい電線だけを輪に通す | 近くの別の電線の電流は打ち消されるが、輪に入ると足し算になる |
| 低い周波数の小さな電流は、ほかの方式も考える | 出力が数mVと小さく、ノイズや下限周波数の影響を受けやすい |
3方式を一覧比較|「精度の真実」も
| 方式 |
直流 |
特徴 |
| CT(巻線) |
不可 |
交流で高精度・安定。定番。 |
| ホール素子 |
◎ 可能 |
直流も交流も測れる主流。厚め・高価。 |
| ロゴスキー |
不可 |
薄く柔軟・大電流・高速に強い。 |
精度の真実|「高精度=万能」ではない
「精度が高い方式が一番いい」と思いがちですが、それは誤解です。精度の高さは測る条件によって変わります。たとえば、いくら高精度のホール素子でも、クランプが太くて測りたい場所に入らなければ意味がありません。逆にロゴスキーは小電流の精度では劣ることがありますが、大電流や狭い場所では有力な選択肢になります。
「精度」より先に、まず①直流か交流か ②電流の大きさ ③測る場所の広さ を確認するのが、失敗しない選び方の真実です。
電流プローブ3方式の得意・不得意
迷わない選び方|3ステップで決める
STEP 1
直流を測る?YESなら迷わずホール素子方式(または併用型)。CT・ロゴスキーは脱落。
STEP 2
大電流 or 狭い場所 or 高速な過渡電流?YESならロゴスキーコイルが有力(ただし交流のみ)。
STEP 3
交流を安定して高精度に測りたいだけ?ならCT(巻線)方式で十分。
電流プローブは、パワー半導体のスイッチング電流を測るときに大活躍します。何を測りたいのかのイメージは ゲート駆動回路とは? も合わせて読むと深まります。
電流プローブの選び方:直流ならホール素子方式
よくある質問(FAQ)
Q. 電流プローブの種類は何がありますか?
A. 主にCT(巻線)方式・ホール素子方式・ロゴスキーコイル方式の3つです。磁界の検出方法が違います。
Q. 直流電流を測れる電流プローブは?
A. ホール素子方式(または併用型)です。CTとロゴスキーは原理上、直流を測れません。
Q. ロゴスキーコイルが直流を測れないのはなぜ?
A. 磁界の「変化」を検出する原理だからです。変化しない直流では信号が生まれません。
Q. 大電流や狭い場所を測るならどれ?
A. ロゴスキーコイルです。薄く柔軟で軽く、大電流や込み入った場所に向きます(交流のみ)。
ロゴスキーコイルで、ほかによく聞かれること
Q. ロゴスキーコイルとCT(変流器)の違いは?
A. CTは鉄心に巻いた巻線で、出力は電流に比例します。ロゴスキーコイルは鉄心のない空芯コイルで、出力は電流の変化の速さ(di/dt)に比例し、積分器で電流に戻します。鉄心がない分、大電流でも飽和せず、薄く曲げられます。
Q. なぜ積分器が必要なのですか?
A. コイルに出る電圧が電流そのものではなく、電流の変化の速さに比例するからです。時間で積分すると、電流と同じ形の波形になります。
Q. 50Hzの小さな電流も測れますか?
A. 測れますが、出力が数mVと小さくなるので、ノイズや誤差の影響を受けやすくなります。この記事の計算例では、100A(実効値)の50Hzで約1.8mVです。小さな交流ならCT、直流も含むならホール素子方式が向きます。
まとめ
この記事の要点
- 電流プローブは「電流→磁界→検出」で測る。検出方法の違いが3種類を生む。
- CT(巻線):交流専用・高精度の定番。直流は測れない。
- ホール素子:直流も交流も測れる主流。直流測定の必須選択肢。
- ロゴスキー:薄く柔軟・大電流・高速に強いが、直流は原理上測れない。
- 選び方は「①直流か交流か ②電流の大きさ ③測る場所」の順で考える。
「精度が高いから万能」ではありません。まず直流か交流かを確認すること。これさえ外さなければ、電流プローブ選びで大きく失敗することはありません。
S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年
メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。
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