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マイコンの入力の ESD対策(静電気放電の対策)は、コネクタのすぐ横に TVS、マイコンの近くに直列抵抗を入れるのが基本です。直列抵抗は 3.3V のマイコンなら 10kΩ が一例で、計算は3ステップ、電圧ごとの最小値は早見表にあります。
マイコンの入力保護は、ボタン・スイッチ・センサなど「人が触る所」や「外から線が来る所」で必ず考えることです。ここを直結にしておくと、冬の静電気1回でマイコンの入力ピンが壊れることがあります。
この記事では、マイコンの入力ピン1本を守る入門として、直列抵抗とダイオード(TVS)の値を、実在の部品のデータシートの数字で順に決めていきます。

ESD とは:体の静電気が、触れた瞬間に一気に流れること
ESD(静電気放電)は、体にたまった数千 V の静電気が、金属に触れた瞬間にナノ秒の速さで流れることです。人の体は「コンデンサ+抵抗」のモデルで考えます。
冬にドアノブに触れて「バチッ」となる、あれが ESD です。歩くと体に電気がたまり、金属に触れた瞬間に一気に流れます。人には痛いだけでも、マイコンの小さなピンには大きすぎる電気です。
回路の設計では、人の体を次のモデルで考えます。
| 部分 | モデルの部品 | 製品の試験(IEC 61000-4-2)の値 |
|---|---|---|
| 体にたまる電気 | コンデンサ | 150pF |
| 体と指の抵抗 | 抵抗 | 330Ω |
| 触れた瞬間 | スイッチ | 閉じた瞬間に放電 |
体に静電気がたまるしくみと、冬にバチッとくる理由を中学の理科から
つまり、ESD は「人が触る所」から入ってくる、大きくて速い電気です。

部品の試験と製品の試験:ESD の強さは約24倍違う
マイコンのデータシートの ESD の値は「部品の試験(HBM)」です。製品が受ける ESD(IEC 61000-4-2 の 8kV)は、1回のエネルギーで約24倍の強さがあります。
ここで混乱しやすいのですが、ESD の「人の体のモデル」には2種類あります。
| 部品の試験(HBM) | 製品の試験(IEC 61000-4-2) | |
|---|---|---|
| モデル | 100pF・1,500Ω | 150pF・330Ω |
| よく使う電圧 | 2kV | 接触 8kV(レベル4) |
| 電流 | 2000÷1500 ≒ 1.3A(目安) | 最初の山 約30A |
| 1回のエネルギー ½CV² | 0.2mJ | 4.8mJ |
エネルギーの計算は、コンデンサにたまるエネルギーの式 ½CV² です。
HBM は、工場で部品を組み立てるあいだの静電気から、部品そのものを守るための試験です。TI の設計資料も、部品の ESD の値だけでは、製品が受ける ESD には足りないと書いています。
つまり、マイコンに「ESD 2kV」と書いてあっても、外から来る線をそのまま直結してよいことにはなりません。

ESD の電流:1ns もかからず 30A まで立ち上がる
IEC 61000-4-2 の接触 8kV では、電流は約0.8ns で約30A まで立ち上がります。速すぎるので、配線のわずかなインダクタンスでも電圧が出ます。
TI の設計資料(ESD Protection Layout Guide)は、8kV の ESD の電流を、最初の山が約30A、立ち上がり約0.8ns(ns は10億分の1秒)の形で示しています。
インダクタンス(電流の変化をいやがる性質。配線にも少しある)にかかる電圧は、L×(電流が増える速さ)です。同じ資料は、0.25nH というごくわずかなインダクタンスでも、約10V 増えると計算しています。
つまり、ESD は「大きい」だけでなく「とても速い」電気です。だから部品の値だけでなく、置き方と配線の長さが効きます。

マイコンの中にも保護ダイオードがある。でも小さい
多くのマイコンは、入力ピンから電源(VCC)と GND へ保護ダイオードを持っています。ただし流してよい電流は小さく、例の MSP430G2553 では ±2mA までです。
マイコンの入力ピンの中には、ふつう2つのダイオードがあります。ピンの電圧が電源より高くなると上のダイオード(D1)が、GND より低くなると下のダイオード(D2)が電流を流し、電圧を抑えます。
例として、TI のマイコン MSP430G2553 の絶対最大定格(一瞬でも超えてはいけない値)を見ます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 入力ピンにかけてよい電圧 | −0.3V 〜 VCC+0.3V(3.3V なら 3.6V) |
| ダイオードに流してよい電流 | どのピンも ±2mA |
| 入力の容量 | 5pF |
3.6V を超えた分は、D1 を通って VCC へ流れようとします。その電流が 2mA を超えると、壊れることがあります。ESD の 30A とは、桁が4つも違います。
ダイオードが一方向にだけ電流を流すしくみと、0.7V の意味をやさしく
つまり、中のダイオードは「最後の砦」です。外の部品で、大きな電流を先に逃がし、残りを小さくしてから渡します。

外から来る線をマイコンに直結しない
コネクタから来る線は、コネクタ → TVS → 直列抵抗 → マイコン の順に通します。TVS が大きな電流を、直列抵抗が残りを受け持ちます。
外から来る線をマイコンのピンに直結すると、ESD の電流がそのまま中のダイオードに流れ込みます。そこで、2つの部品で役割を分けます。
つまり、1つの部品で全部を受けず、大きな電流と小さな電流を2段で受けます。

マイコンの入力を守る回路:TVS+直列抵抗+プルアップ
この記事で作る回路は、コネクタの横に TVS、コネクタ側にプルアップ 10kΩ、マイコンの近くに直列抵抗 10kΩ です。
例にするのは、ケーブルの先にある押しボタンを、3.3V のマイコンで読む回路です。ボタンを押すと線が GND につながり、離すとプルアップで 3.3V になります。
| 部品 | この記事の値 | 置く場所 | 役目 |
|---|---|---|---|
| TVS | TPD1E10B06(双方向・5.5V・12pF) | コネクタのすぐ横 | ESD の大きな電流を GND へ |
| プルアップ | 10kΩ(3.3V へ) | コネクタ側(TVS と直列抵抗の間) | 離したときを 3.3V にする |
| 直列抵抗 | 10kΩ | マイコンの近く | 中のダイオードの電流を小さく |
| マイコン | MSP430G2553(3.3V) | ピンの電圧を読む |
プルアップをコネクタ側に置くのには理由があります。マイコン側に置くと、押したときの電圧が 0V まで下がらなくなります(よくある失敗の節で計算します)。
プルアップ抵抗の役目と、値の決め方を「浮いている」状態から
つまり、部品は3つだけ。大事なのは値と、置く順番・場所です。

直列抵抗の決め方:3ステップで計算する
直列抵抗は、①つなぎ間違いの電圧、②ESD の残りの電圧で、中のダイオードの電流を 2mA 以下にする値を出し、③信号が遅くなりすぎないかを確かめます。この例は 10kΩ です。
中のダイオードが流れはじめるのは、VCC+0.3V=3.6V を超えたときです。それを超えた分の電圧が、直列抵抗にかかると考えます。
ここで注意したいのは、14V は 8/20µs というゆっくりした試験の電流(5A)での値だということです。ESD の一瞬はもっと高い電圧になることもあります。仮に 20V でも、10kΩ なら(20−3.6)÷10kΩ=1.6mA で、2mA 以下に収まります。
抵抗が受ける電力も見ておきます。14V のとき(14−3.6)²÷10,000 ≒ 0.011W(11mW)です。一瞬なので、小さなチップ抵抗で足ります。
同じ「電圧の差÷電流」で抵抗を決める計算を、トランジスタのベース抵抗で練習
つまり、直列抵抗は「VCC+0.3V を超えた分の電圧 ÷ 流してよい電流」で下限を出し、余裕をみて選びます。

ESD の電流の道:ほとんどは TVS から GND へ
8kV の ESD では、約30A のほとんどが TVS を通って GND へ流れ、直列抵抗の先へ行くのは約1mA だけです。
TVS と直列抵抗がそろうと、電流は次のように分かれます(目安)。
| 道 | 電流の目安 | 受け持つ部品 |
|---|---|---|
| コネクタ → TVS → GND | 約30A(ほとんど全部) | TVS |
| コネクタ → 直列抵抗 → 中のダイオード → VCC | 約1mA(14V のとき) | 直列抵抗と中のダイオード |
電流は、通りやすい道ほどたくさん流れます。TVS は電流を逃がしているとき、抵抗が 1Ω もない(TPD1E10B06 で 0.32〜0.38Ω)とても通りやすい道です。10kΩ の道とは、通りやすさが3万倍ほど違います。
つまり、TVS が主役で大きな電流を受け、直列抵抗は残りの小さな電流を確実に小さくする脇役です。

TVS の選び方:電圧・向き・容量の3つ
TVS は、①動作電圧 VRWM を信号の電圧より上に、②向き(単方向か双方向か)を信号に合わせて、③容量を信号の速さに合わせて選びます。
TI の TPD1E10B06 のデータシートは、選ぶときに確かめることとして、次の3つを挙げています。
| 確かめること | 考え方 | この記事の例 |
|---|---|---|
| 動作電圧 VRWM | ふだんの信号の電圧が VRWM を超えないこと | 3.3V の信号 → VRWM 5.5V |
| 容量 | 信号の速さを妨げないこと | ボタン → 12pF でまったく問題なし |
| ESD の強さ | 求める IEC 61000-4-2 のレベルに耐えること | ±30kV(接触)→ レベル4(8kV)より上 |
VRWM が信号より低いと、ふだんから TVS に電流が流れ、信号がつぶれます。高すぎると、ESD のときに線に残る電圧(クランプ電圧)も高くなります。信号の電圧より少し上のものを選ぶのが基本です。
TVS の仕組みと、VRWM・VBR・クランプ電圧の関係を図で整理できる
つまり、3.3V のボタンの線なら「5.5V・双方向(または単方向)・容量は気にしなくてよい」TVS で足ります。

単方向と双方向の違い:どちら向きの電圧で流れるか
単方向の TVS は、+側は決まった電圧で、−側は 0.7V ほどで電流を流します。双方向は +側も −側も同じ電圧で止めます。
TVS には、向きのあるもの(単方向)と、向きのないもの(双方向)があります。
| 種類 | + 側 | − 側 | 向いている信号 |
|---|---|---|---|
| 単方向 | 決まった電圧(例:6V 前後)で流す | 0.7V ほどで流す(ふつうのダイオードと同じ) | 0V〜+の信号(ボタン・ロジック) |
| 双方向 | 決まった電圧で流す | 同じ電圧で流す | + と − に振れる信号(音声など) |
ボタンの線のように 0V と 3.3V しか取らない信号なら、どちらでも使えます。ケーブルの先で − の電圧がかかるおそれがある、または音声のように − にも振れる信号なら、双方向を選びます。この記事の TPD1E10B06 は双方向です。
つまり、迷ったら「信号が − になることがあるか」で決めます。

直列抵抗と容量で信号が遅くなる:ボタンと UART なら 10kΩ でよい
直列抵抗と、入力の容量・TVS の容量で、信号の変わり目が τ=R×C だけなまります。10kΩ・17pF なら 170ns で、ボタンや UART には問題ありませんが、USB のような速い線には使えません。
| 信号 | 1ビットの時間 | τ との比べ | 判断 |
|---|---|---|---|
| ボタン・スイッチ | 数 ms 以上 | 170ns はずっと短い | OK |
| UART 115200bps | 8.68µs | 約2% | OK |
| USB(フルスピード 12Mbps) | 約83ns | τ のほうが長い | NG |
この記事では、τ が1ビットの時間の数%以下なら、信号の形はほとんど崩れないと考えます(この記事の目安)。USB や Ethernet のような速い線は、容量の小さな専用の ESD 保護部品を使い、直列抵抗は使わないか、決められた小さな値にします。
つまり、直列抵抗が使えるのは「遅い信号」です。ボタン・スイッチ・ゆっくりした通信が、この記事の守備範囲です。

置き方:TVS はコネクタのすぐ横、GND へは短く
TVS はコネクタのできるだけ近くに置き、GND へは太く短くつなぎます。直列抵抗はマイコンの近くに置きます。
TPD1E10B06 のデータシートと TI の設計資料(SLVA680A)は、置き方について次のことを勧めています。
詳しい置き方の考え方は、TVS で ESD を守る回路への入れ方の記事でも解説しています(この記事の最後の「次に読むべき記事」で紹介します)。
つまり、TVS は「入口」に、直列抵抗は「マイコンの前」に置きます。

GND への線が長いと、TVS があっても電圧が上がる
ESD の電流は速いので、TVS から GND までの線のインダクタンス L に、L×(電流が増える速さ)の電圧が出ます。0.25nH でも約10V です。
TVS が電流を逃がしているとき、線に残る電圧は、TVS 自身の電圧に、GND までの線で出る電圧が足されたものです。
| GND までの線の L | 計算 | 増える電圧 |
|---|---|---|
| 0.25nH | 0.25×10⁻⁹ × 4×10¹⁰ | 約10V(TI SLVA680A の例) |
| 0.5nH | 0.5×10⁻⁹ × 4×10¹⁰ | 約20V |
| 1nH | 1×10⁻⁹ × 4×10¹⁰ | 約40V |
この電圧は、直列抵抗の先のマイコンにもかかります。TVS を付けたのに壊れる、というときは、GND への線の長さを疑います。
配線の長さで何 nH になるかと、L×dI/dt のサージの計算を図で
つまり、TVS は「GND への道」までが部品の一部です。短く太くつないで、初めて効きます。

早見表:入ってくるおそれのある電圧と、直列抵抗の最小値
3.3V のマイコン(入力 3.6V で中のダイオードが流れはじめる)で、入ってくる電圧ごとに直列抵抗の最小値をまとめました。
| 入ってくる電圧 | 2mA まで(上限) | 1mA まで(余裕) |
|---|---|---|
| 3.3V | 不要(流れない) | 不要 |
| 5V | 700Ω → 820Ω | 1,400Ω → 1.5kΩ |
| 5.5V | 950Ω → 1kΩ | 1,900Ω → 2.2kΩ |
| 12V | 4,200Ω → 4.7kΩ | 8,400Ω → 10kΩ |
| 24V | 10,200Ω → 12kΩ | 20,400Ω → 22kΩ |
計算は R=(電圧−3.6V)÷電流 を、E12 の1つ上の値に丸めたものです。12V や 24V が入るおそれがある線なら、TVS の VRWM もその電圧より上のものを選びます(5.5V の TVS では、ふだんから電流が流れてしまいます)。
抵抗の電力も確かめます。24V がずっとかかるなら、22kΩ で(24−3.6)²÷22,000 ≒ 0.019W(19mW)です。
つまり、答えだけ欲しいときは「電圧の行」と「1mA の列」を見れば、余裕のある値がわかります。

よくある失敗4つ:ESD 対策と入力の保護
プルアップの位置・TVS が遠い・VRWM が低すぎる・電源が持ち上がる、の4つがよくある失敗です。
1. プルアップをマイコン側に置く
プルアップ 10kΩ をマイコン側(直列抵抗とマイコンの間)に置くと、遠くのボタンで GND に落としても、直列抵抗 10kΩ との分圧になります。3.3×10kΩ÷(10kΩ+10kΩ)=1.65V で、Low とも High とも言えない電圧です。プルアップはコネクタ側に置きます。
2. TVS がマイコンの横(コネクタから遠い)
TVS までの長い線から、ESD のノイズがほかの線へ移ります。TVS はコネクタのすぐ横に置きます。
3. VRWM が信号より低い
5V の信号の線に VRWM 3.6V の TVS を付けると、ふだんから電流が流れ、信号がつぶれます。VRWM は信号の電圧より上を選びます。
4. 電源が持ち上がる
入ってきた電流は、中のダイオードを通って VCC へ流れます。マイコンが眠っていて電流をほとんど使っていないと、その電流が電源を押し上げることがあります。つなぎ間違いの電圧がずっとかかるおそれがあるなら、直列抵抗を大きめにして、流れ込む電流を小さくします。
つまり、部品をそろえても、置く場所とつなぎ方で効かなくなります。4つを作る前に確かめます。

作ったら確かめる:テスターで2つだけ
最低限、入力ピンの電圧(離すと約3.3V・押すと約0V)と、直列抵抗の値を確かめます。ESD そのものの試験は、専用の試験器で行います。
最低限ここだけ
余裕があれば
TVS の GND 側が GND につながっているかを、電源を切ってテスターの導通で確かめます。製品として出すなら、試験所で IEC 61000-4-2 の試験を受けます。
つまり、作ったあとはテスターで2点を確かめ、ESD の強さそのものは試験で確かめます。


