回路設計

マイコンの入力保護とESD対策|直列抵抗とTVSの決め方を図解

緑の基板の端の白いコネクタのピンに、試験器の金属の先から青紫の静電気の火花が飛ぶ写真に、マイコンの入力を守る・ESD対策・10kΩ・R≧(14−3.6)V÷2mA の文字

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マイコンの入力の ESD対策(静電気放電の対策)は、コネクタのすぐ横に TVS、マイコンの近くに直列抵抗を入れるのが基本です。直列抵抗は 3.3V のマイコンなら 10kΩ が一例で、計算は3ステップ、電圧ごとの最小値は早見表にあります。

結論|まず30秒でわかる答え

マイコンの入力保護は、外から来る線をマイコンに直結しないことから始めます。
コネクタのすぐ横に TVS(ESD の大きな電流を GND へ逃がすダイオード)、マイコンの近くに直列抵抗を入れます。直列抵抗は、マイコンの中のダイオードに流れる電流を上限(例:±2mA)以下に抑える役目です。
3.3V のマイコンなら、R ≧(14−3.6)V÷2mA=5.2kΩ なので、10kΩ を選びます。

この記事に出てくる言葉

わからない言葉が出てきたら、ここに戻ってきてください。本文でも、初めて出たところで言い換えます。

ESD(静電気放電)体などにたまった静電気が、触れた瞬間に一気に流れること
入力ピンマイコンが外の信号を読む足
保護ダイオードマイコンの中で、ピンの電圧が上がりすぎ・下がりすぎたときに電流を逃がすダイオード
直列抵抗信号の線の途中に入れる抵抗。流れる電流を小さくする
TVS(ティーブイエス)ESD のような一瞬の大きな電圧のとき、電流を GND へ逃がすダイオード
クランプ電圧TVS が電流を逃がしているときに、線に残る電圧
VRWMTVS が電流を流さずにいられる最大の電圧(動作電圧)
プルアップ抵抗で線を電源側へ引き上げ、何もつながないときの電圧を決めること
絶対最大定格一瞬でも超えてはいけない値。超えると壊れることがある

マイコンの入力保護は、ボタン・スイッチ・センサなど「人が触る所」や「外から線が来る所」で必ず考えることです。ここを直結にしておくと、冬の静電気1回でマイコンの入力ピンが壊れることがあります。

この記事では、マイコンの入力ピン1本を守る入門として、直列抵抗とダイオード(TVS)の値を、実在の部品のデータシートの数字で順に決めていきます。

緑の基板の端の白いコネクタのピンに、試験器の金属の先から青紫の静電気の火花が飛ぶ写真に、マイコンの入力を守る・ESD対策・10kΩ・R≧(14−3.6)V÷2mA の文字

ESD とは:体の静電気が、触れた瞬間に一気に流れること

ESD(静電気放電)は、体にたまった数千 V の静電気が、金属に触れた瞬間にナノ秒の速さで流れることです。人の体は「コンデンサ+抵抗」のモデルで考えます。

冬にドアノブに触れて「バチッ」となる、あれが ESD です。歩くと体に電気がたまり、金属に触れた瞬間に一気に流れます。人には痛いだけでも、マイコンの小さなピンには大きすぎる電気です。

回路の設計では、人の体を次のモデルで考えます。

部分モデルの部品製品の試験(IEC 61000-4-2)の値
体にたまる電気コンデンサ150pF
体と指の抵抗抵抗330Ω
触れた瞬間スイッチ閉じた瞬間に放電
たとえると

体は、水をためたバケツです。触れた瞬間にバケツの底が抜け、たまった水が細いホース(指)から一気に流れ出します。ホースの先にあるのが、コネクタのピンとマイコンです。

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つまり、ESD は「人が触る所」から入ってくる、大きくて速い電気です。

150pF(体にたまる電気)と330Ω(体と指)とスイッチ(触れた瞬間)がコネクタのピンにつながる回路図と、冬のドアノブのバチッの説明

部品の試験と製品の試験:ESD の強さは約24倍違う

マイコンのデータシートの ESD の値は「部品の試験(HBM)」です。製品が受ける ESD(IEC 61000-4-2 の 8kV)は、1回のエネルギーで約24倍の強さがあります。

ここで混乱しやすいのですが、ESD の「人の体のモデル」には2種類あります。

部品の試験(HBM)製品の試験(IEC 61000-4-2)
モデル100pF・1,500Ω150pF・330Ω
よく使う電圧2kV接触 8kV(レベル4)
電流2000÷1500 ≒ 1.3A(目安)最初の山 約30A
1回のエネルギー ½CV²0.2mJ4.8mJ

エネルギーの計算は、コンデンサにたまるエネルギーの式 ½CV² です。

1回のエネルギー
部品:½ × 100pF × 2,000² = 0.2mJ / 製品:½ × 150pF × 8,000² = 4.8mJ

HBM は、工場で部品を組み立てるあいだの静電気から、部品そのものを守るための試験です。TI の設計資料も、部品の ESD の値だけでは、製品が受ける ESD には足りないと書いています。

つまり、マイコンに「ESD 2kV」と書いてあっても、外から来る線をそのまま直結してよいことにはなりません。

HBM(100pF・1500Ω・2kV・約1.3A・0.2mJ)とIEC 61000-4-2(150pF・330Ω・8kV・約30A・4.8mJ)のカードとエネルギーの横棒グラフ

ESD の電流:1ns もかからず 30A まで立ち上がる

IEC 61000-4-2 の接触 8kV では、電流は約0.8ns で約30A まで立ち上がります。速すぎるので、配線のわずかなインダクタンスでも電圧が出ます。

TI の設計資料(ESD Protection Layout Guide)は、8kV の ESD の電流を、最初の山が約30A、立ち上がり約0.8ns(ns は10億分の1秒)の形で示しています。

電流が増える速さ
30A ÷ 0.8ns ≒ 4×10¹⁰ A/s(1秒あたり400億アンペアの速さ)

インダクタンス(電流の変化をいやがる性質。配線にも少しある)にかかる電圧は、L×(電流が増える速さ)です。同じ資料は、0.25nH というごくわずかなインダクタンスでも、約10V 増えると計算しています。

つまり、ESD は「大きい」だけでなく「とても速い」電気です。だから部品の値だけでなく、置き方と配線の長さが効きます。

ESDの電流の波形のイメージ。最初の山約30A・立ち上がり約0.8ns、電流が増える速さ4×10の10乗A/sで0.25nHなら約10V

マイコンの中にも保護ダイオードがある。でも小さい

多くのマイコンは、入力ピンから電源(VCC)と GND へ保護ダイオードを持っています。ただし流してよい電流は小さく、例の MSP430G2553 では ±2mA までです。

マイコンの入力ピンの中には、ふつう2つのダイオードがあります。ピンの電圧が電源より高くなると上のダイオード(D1)が、GND より低くなると下のダイオード(D2)が電流を流し、電圧を抑えます。

例として、TI のマイコン MSP430G2553 の絶対最大定格(一瞬でも超えてはいけない値)を見ます。

項目値
入力ピンにかけてよい電圧−0.3V 〜 VCC+0.3V(3.3V なら 3.6V)
ダイオードに流してよい電流どのピンも ±2mA
入力の容量5pF

3.6V を超えた分は、D1 を通って VCC へ流れようとします。その電流が 2mA を超えると、壊れることがあります。ESD の 30A とは、桁が4つも違います。

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つまり、中のダイオードは「最後の砦」です。外の部品で、大きな電流を先に逃がし、残りを小さくしてから渡します。

入力ピンからVCCへD1、GNDからD2がつながる回路図と、入力の電圧の上限VCC+0.3V・下限−0.3V・ダイオード電流±2mA・入力容量5pFの表

外から来る線をマイコンに直結しない

コネクタから来る線は、コネクタ → TVS → 直列抵抗 → マイコン の順に通します。TVS が大きな電流を、直列抵抗が残りを受け持ちます。

外から来る線をマイコンのピンに直結すると、ESD の電流がそのまま中のダイオードに流れ込みます。そこで、2つの部品で役割を分けます。

1. TVS(コネクタのすぐ横)

ESD のような高い電圧が来たときだけ電流を流し、大きな電流を GND へ逃がします。ふだんの信号では何もしません。

2. 直列抵抗(マイコンの近く)

TVS が逃がしきれずに残った電圧から、マイコンの中のダイオードに流れる電流を、抵抗で小さくします。

たとえると

TVS は川の「放水路」、直列抵抗は家の前の「細い水門」です。洪水の大部分は放水路から逃がし、家(マイコン)には水門を通った少しの水しか届かないようにします。

つまり、1つの部品で全部を受けず、大きな電流と小さな電流を2段で受けます。

ダメの例はコネクタからマイコンへ直結でESDの30Aがそのまま入る、よい例はコネクタの横のTVSでGNDへ逃がし抵抗10kΩで残りを2mA以下にする図

マイコンの入力を守る回路:TVS+直列抵抗+プルアップ

この記事で作る回路は、コネクタの横に TVS、コネクタ側にプルアップ 10kΩ、マイコンの近くに直列抵抗 10kΩ です。

例にするのは、ケーブルの先にある押しボタンを、3.3V のマイコンで読む回路です。ボタンを押すと線が GND につながり、離すとプルアップで 3.3V になります。

部品この記事の値置く場所役目
TVSTPD1E10B06(双方向・5.5V・12pF)コネクタのすぐ横ESD の大きな電流を GND へ
プルアップ10kΩ(3.3V へ)コネクタ側(TVS と直列抵抗の間)離したときを 3.3V にする
直列抵抗10kΩマイコンの近く中のダイオードの電流を小さく
マイコンMSP430G2553(3.3V)ピンの電圧を読む

プルアップをコネクタ側に置くのには理由があります。マイコン側に置くと、押したときの電圧が 0V まで下がらなくなります(よくある失敗の節で計算します)。

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つまり、部品は3つだけ。大事なのは値と、置く順番・場所です。

コネクタの横にTVS(TPD1E10B06)でGNDへ、コネクタ側にプルアップ10kΩで3.3Vへ、直列抵抗10kΩを通ってマイコンの入力ピンへつながる回路図

直列抵抗の決め方:3ステップで計算する

直列抵抗は、①つなぎ間違いの電圧、②ESD の残りの電圧で、中のダイオードの電流を 2mA 以下にする値を出し、③信号が遅くなりすぎないかを確かめます。この例は 10kΩ です。

直列抵抗の式
R ≧(入ってくる電圧 −(VCC+0.3V))÷ 流してよい電流

中のダイオードが流れはじめるのは、VCC+0.3V=3.6V を超えたときです。それを超えた分の電圧が、直列抵抗にかかると考えます。

STEP 1 つなぎ間違いの電圧で計算

TVS(TPD1E10B06)が電流を流さずにいられる最大の 5.5V が、ずっとかかったとします。R ≧(5.5−3.6)÷0.002=1.9÷0.002=950Ω。

STEP 2 ESD の残りの電圧で計算

TVS が電流を逃がしているときに線に残る電圧(クランプ電圧)は、5A のとき 14V です。R ≧(14−3.6)÷0.002=10.4÷0.002=5200Ω。2つのうち大きい 5.2kΩ 以上が必要です。

STEP 3 値を選んで、速さを確かめる

余裕を見て 10kΩ を選びます。14V のとき(14−3.6)÷10kΩ=1.04mA で、上限 2mA の約半分です。信号の遅れは τ=10kΩ×(5pF+12pF)=170ns。ボタンなら問題ありません(次の節)。

ここで注意したいのは、14V は 8/20µs というゆっくりした試験の電流(5A)での値だということです。ESD の一瞬はもっと高い電圧になることもあります。仮に 20V でも、10kΩ なら(20−3.6)÷10kΩ=1.6mA で、2mA 以下に収まります。

抵抗が受ける電力も見ておきます。14V のとき(14−3.6)²÷10,000 ≒ 0.011W(11mW)です。一瞬なので、小さなチップ抵抗で足ります。

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つまり、直列抵抗は「VCC+0.3V を超えた分の電圧 ÷ 流してよい電流」で下限を出し、余裕をみて選びます。

STEP1(5.5−3.6)÷2mA=950Ω以上、STEP2(14−3.6)÷2mA=5.2kΩ以上、STEP3 10kΩ×17pF=170nsの3枚のカードと、10kΩで14Vのとき1.04mA

ESD の電流の道:ほとんどは TVS から GND へ

8kV の ESD では、約30A のほとんどが TVS を通って GND へ流れ、直列抵抗の先へ行くのは約1mA だけです。

TVS と直列抵抗がそろうと、電流は次のように分かれます(目安)。

道電流の目安受け持つ部品
コネクタ → TVS → GND約30A(ほとんど全部)TVS
コネクタ → 直列抵抗 → 中のダイオード → VCC約1mA(14V のとき)直列抵抗と中のダイオード

電流は、通りやすい道ほどたくさん流れます。TVS は電流を逃がしているとき、抵抗が 1Ω もない(TPD1E10B06 で 0.32〜0.38Ω)とても通りやすい道です。10kΩ の道とは、通りやすさが3万倍ほど違います。

つまり、TVS が主役で大きな電流を受け、直列抵抗は残りの小さな電流を確実に小さくする脇役です。

コネクタからTVSを通ってGNDへ約30Aの太い矢印、10kΩを通ってマイコンの中のダイオードからVCCへ約1mAの細い矢印の図(目安)

TVS の選び方:電圧・向き・容量の3つ

TVS は、①動作電圧 VRWM を信号の電圧より上に、②向き(単方向か双方向か)を信号に合わせて、③容量を信号の速さに合わせて選びます。

TI の TPD1E10B06 のデータシートは、選ぶときに確かめることとして、次の3つを挙げています。

確かめること考え方この記事の例
動作電圧 VRWMふだんの信号の電圧が VRWM を超えないこと3.3V の信号 → VRWM 5.5V
容量信号の速さを妨げないことボタン → 12pF でまったく問題なし
ESD の強さ求める IEC 61000-4-2 のレベルに耐えること±30kV(接触)→ レベル4(8kV)より上

VRWM が信号より低いと、ふだんから TVS に電流が流れ、信号がつぶれます。高すぎると、ESD のときに線に残る電圧(クランプ電圧)も高くなります。信号の電圧より少し上のものを選ぶのが基本です。

POINT

TVS の仕組みや、データシートの6つの電圧の関係をもっと知りたい人は、TVS の記事を先に読むと、この記事の数字がすっと入ります。

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TVS の仕組みと、VRWM・VBR・クランプ電圧の関係を図で整理できる

つまり、3.3V のボタンの線なら「5.5V・双方向(または単方向)・容量は気にしなくてよい」TVS で足ります。

動作電圧VRWM・向き・容量の3枚のカードと、TPD1E10B06のVRWM±5.5V・容量12pF・クランプ電圧10V(1A)14V(5A)・IEC 61000-4-2 ±30kVの表

単方向と双方向の違い:どちら向きの電圧で流れるか

単方向の TVS は、+側は決まった電圧で、−側は 0.7V ほどで電流を流します。双方向は +側も −側も同じ電圧で止めます。

TVS には、向きのあるもの(単方向)と、向きのないもの(双方向)があります。

種類+ 側− 側向いている信号
単方向決まった電圧(例:6V 前後)で流す0.7V ほどで流す(ふつうのダイオードと同じ)0V〜+の信号(ボタン・ロジック)
双方向決まった電圧で流す同じ電圧で流す+ と − に振れる信号(音声など)

ボタンの線のように 0V と 3.3V しか取らない信号なら、どちらでも使えます。ケーブルの先で − の電圧がかかるおそれがある、または音声のように − にも振れる信号なら、双方向を選びます。この記事の TPD1E10B06 は双方向です。

つまり、迷ったら「信号が − になることがあるか」で決めます。

単方向と双方向のTVSの電圧と電流のグラフのイメージ。単方向は−0.7Vほどで流れ、双方向は−側も同じ電圧で止める

直列抵抗と容量で信号が遅くなる:ボタンと UART なら 10kΩ でよい

直列抵抗と、入力の容量・TVS の容量で、信号の変わり目が τ=R×C だけなまります。10kΩ・17pF なら 170ns で、ボタンや UART には問題ありませんが、USB のような速い線には使えません。

信号の遅れ
τ = 10kΩ ×(5pF + 12pF)= 10,000 × 0.000000000017 = 170ns
信号1ビットの時間τ との比べ判断
ボタン・スイッチ数 ms 以上170ns はずっと短いOK
UART 115200bps8.68µs約2%OK
USB(フルスピード 12Mbps)約83nsτ のほうが長いNG

この記事では、τ が1ビットの時間の数%以下なら、信号の形はほとんど崩れないと考えます(この記事の目安)。USB や Ethernet のような速い線は、容量の小さな専用の ESD 保護部品を使い、直列抵抗は使わないか、決められた小さな値にします。

つまり、直列抵抗が使えるのは「遅い信号」です。ボタン・スイッチ・ゆっくりした通信が、この記事の守備範囲です。

ボタン・スイッチ(数ms以上)OK、UART 115200bps(8.68µs)OK約2%、USB 12Mbps(約83ns)NGの表と、τ=10kΩ×(5pF+12pF)=170nsの計算

置き方:TVS はコネクタのすぐ横、GND へは短く

TVS はコネクタのできるだけ近くに置き、GND へは太く短くつなぎます。直列抵抗はマイコンの近くに置きます。

TPD1E10B06 のデータシートと TI の設計資料(SLVA680A)は、置き方について次のことを勧めています。

コネクタのすぐ横

ESD は、TVS にたどり着くまでの線を通るあいだに、近くのほかの線へノイズとして移ります。だから TVS はコネクタのできるだけ近くに置きます。

守られていない線を近くに通さない

コネクタから TVS までの線のそばに、ほかの線を並べません。

線はまっすぐ、角は丸く

コネクタから TVS までの線は、できるだけまっすぐにし、角は 45° 以下か丸くします。

GND へは太く短く

TVS の GND 側は、すぐそばの GND の面へ短くつなぎます。

詳しい置き方の考え方は、TVS で ESD を守る回路への入れ方の記事でも解説しています(この記事の最後の「次に読むべき記事」で紹介します)。

つまり、TVS は「入口」に、直列抵抗は「マイコンの前」に置きます。

基板を上から見た図。よい置き方はTVSが端子のすぐ横でGNDへ短く抵抗はマイコン寄り、よくない置き方はTVSがマイコンの横で配線が長くほかの線が並ぶ(イメージ)

GND への線が長いと、TVS があっても電圧が上がる

ESD の電流は速いので、TVS から GND までの線のインダクタンス L に、L×(電流が増える速さ)の電圧が出ます。0.25nH でも約10V です。

TVS が電流を逃がしているとき、線に残る電圧は、TVS 自身の電圧に、GND までの線で出る電圧が足されたものです。

増える電圧
V = L × 4×10¹⁰ A/s(8kV の接触)
GND までの線の L計算増える電圧
0.25nH0.25×10⁻⁹ × 4×10¹⁰約10V(TI SLVA680A の例)
0.5nH0.5×10⁻⁹ × 4×10¹⁰約20V
1nH1×10⁻⁹ × 4×10¹⁰約40V

この電圧は、直列抵抗の先のマイコンにもかかります。TVS を付けたのに壊れる、というときは、GND への線の長さを疑います。

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つまり、TVS は「GND への道」までが部品の一部です。短く太くつないで、初めて効きます。

配線のインダクタンス0.25nH・0.5nH・1nH・2nHで増える電圧10V・20V・40V・80Vの棒グラフと、0.25nH×4×10の10乗=10Vの計算

早見表:入ってくるおそれのある電圧と、直列抵抗の最小値

3.3V のマイコン(入力 3.6V で中のダイオードが流れはじめる)で、入ってくる電圧ごとに直列抵抗の最小値をまとめました。

入ってくる電圧2mA まで(上限)1mA まで(余裕)
3.3V不要(流れない)不要
5V700Ω → 820Ω1,400Ω → 1.5kΩ
5.5V950Ω → 1kΩ1,900Ω → 2.2kΩ
12V4,200Ω → 4.7kΩ8,400Ω → 10kΩ
24V10,200Ω → 12kΩ20,400Ω → 22kΩ

計算は R=(電圧−3.6V)÷電流 を、E12 の1つ上の値に丸めたものです。12V や 24V が入るおそれがある線なら、TVS の VRWM もその電圧より上のものを選びます(5.5V の TVS では、ふだんから電流が流れてしまいます)。

抵抗の電力も確かめます。24V がずっとかかるなら、22kΩ で(24−3.6)²÷22,000 ≒ 0.019W(19mW)です。

つまり、答えだけ欲しいときは「電圧の行」と「1mA の列」を見れば、余裕のある値がわかります。

入ってくる電圧3.3V・5V・5.5V・12V・24Vごとに、2mAまでと1mAまでの直列抵抗の最小値とE12の値(24Vで1mAなら22kΩ)の早見表

よくある失敗4つ:ESD 対策と入力の保護

プルアップの位置・TVS が遠い・VRWM が低すぎる・電源が持ち上がる、の4つがよくある失敗です。

1. プルアップをマイコン側に置く

プルアップ 10kΩ をマイコン側(直列抵抗とマイコンの間)に置くと、遠くのボタンで GND に落としても、直列抵抗 10kΩ との分圧になります。3.3×10kΩ÷(10kΩ+10kΩ)=1.65V で、Low とも High とも言えない電圧です。プルアップはコネクタ側に置きます。

2. TVS がマイコンの横(コネクタから遠い)

TVS までの長い線から、ESD のノイズがほかの線へ移ります。TVS はコネクタのすぐ横に置きます。

3. VRWM が信号より低い

5V の信号の線に VRWM 3.6V の TVS を付けると、ふだんから電流が流れ、信号がつぶれます。VRWM は信号の電圧より上を選びます。

4. 電源が持ち上がる

入ってきた電流は、中のダイオードを通って VCC へ流れます。マイコンが眠っていて電流をほとんど使っていないと、その電流が電源を押し上げることがあります。つなぎ間違いの電圧がずっとかかるおそれがあるなら、直列抵抗を大きめにして、流れ込む電流を小さくします。

つまり、部品をそろえても、置く場所とつなぎ方で効かなくなります。4つを作る前に確かめます。

プルアップをマイコン側に置くと押してもLowが1.65V、TVSが遠い、VRWMが低すぎる、電源が持ち上がるの4枚のカード

作ったら確かめる:テスターで2つだけ

最低限、入力ピンの電圧(離すと約3.3V・押すと約0V)と、直列抵抗の値を確かめます。ESD そのものの試験は、専用の試験器で行います。

最低限ここだけ

1. 入力ピンの電圧

テスターでマイコンの入力ピンと GND の間を測ります。ボタンを離すと約3.3V、押すと約0V になれば OK です。押しても 0V にならないときは、プルアップの位置(失敗1)を疑います。

2. 抵抗の値

電源を切って、直列抵抗の両端を測ります。10kΩ 前後なら、取り付け間違い(桁違い)はありません。

余裕があれば

TVS の GND 側が GND につながっているかを、電源を切ってテスターの導通で確かめます。製品として出すなら、試験所で IEC 61000-4-2 の試験を受けます。

注意

ESD の試験は、決まった試験器(ESD ガン)と台・手順で行います。人の手でバチッとさせて確かめる方法は、条件がそろわず結果が当てにならないうえ、部品を傷めることもあるのでしません。

つまり、作ったあとはテスターで2点を確かめ、ESD の強さそのものは試験で確かめます。

最低限ここだけ(入力ピンの電圧が離すと約3.3V・押すと約0V、抵抗の値10kΩ)と余裕があれば(TVSのGNDのつながり・オシロ・IEC 61000-4-2の試験)のカード

よくある質問(FAQ)

Q. マイコンの入力保護は何をすればいい?

A. 外から来る線を直結せず、コネクタの横に TVS、マイコンの近くに直列抵抗を入れます。ESD の電流を2段で受けます。

Q. 直列抵抗は何Ωにすればいい?

A. (入ってくる電圧−(VCC+0.3V))÷流してよい電流 以上にします。3.3V のマイコンなら 10kΩ がよく合います。

Q. マイコンの中の保護ダイオードだけではダメ?

A. 中のダイオードは ±2mA ほどしか流せません。ESD は約30A なので、外の TVS と直列抵抗が必要です。

Q. TVS の動作電圧 VRWM はどう選ぶ?

A. ふだんの信号の電圧より上を選びます。3.3V の信号なら、VRWM 5.5V などが合います。

Q. TVS は単方向と双方向のどちらがいい?

A. 0V と + だけの信号ならどちらでも使えます。− にも振れる信号や − がかかるおそれがあるなら双方向です。

Q. TVS はどこに置く?

A. コネクタのできるだけ近くに置き、GND へは太く短くつなぎます。線が長いと ESD のノイズが移ります。

まとめ
  • ESD は、体の静電気が触れた瞬間に一気に流れること。製品の試験(8kV)は部品の試験(2kV)の約24倍のエネルギー
  • マイコンの中の保護ダイオードは小さい(例:±2mA)。外から来る線は直結しない
  • コネクタ → TVS → 直列抵抗 → マイコン の順。TVS が大きな電流を、直列抵抗が残りを受ける
  • 直列抵抗は(電圧−3.6V)÷2mA 以上。この例は 5.2kΩ 以上から 10kΩ(τ=170ns でボタン・UART に使える)
  • TVS は VRWM・向き・容量で選ぶ。3.3V のボタンなら 5.5V の TVS
  • TVS はコネクタのすぐ横、GND へは短く。プルアップはコネクタ側

ESD 対策は、部品の値と同じくらい「どこに置くか」が大事です。まずはボタン1つの入力から、この形をそのまま使ってみてください。

参考にした資料

法令・規格・資料は改訂されることがあります。実務で使うときは、発行元の最新版で確かめてください。

この記事の理解を深める本と道具
おすすめの本

ノイズの問題は、実際のトラブル事例から学ぶと対策の引き出しが増えます。現場でよく起こる67のEMCのトラブル事例を通して、ノイズが出るしくみと対策を解説した本です(森北出版)。

おすすめの本

「マイコンの入力保護とESD対策」を、実際の基板設計のテクニックとあわせて身につけたい人に向いています。CQ出版『トランジスタ技術SPECIAL』の、プリント基板設計の実用的なテクニックを集めた号です。

おすすめの道具

回路の電圧や導通を自分の手で確かめるなら、手元にテスターが1台あると便利です。三和電気計器のデジタルマルチメータ(テスター)CD772です。電圧や抵抗などを測れます。

S
シラス
電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

テーマ別に、もっと深く学ぶ

気になるところから読んでも大丈夫です。どの記事も、はじめて学ぶ人向けにやさしく書いています。

つまずきやすい「違い」を一気に解決
ショットキーと整流ダイオードの違い|置き換えの判断と使い分けを図解
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