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エミッタフォロワ(エミッタホロワ)は、ベースに入力してエミッタから出力を取る回路で、出力は入力より約0.7V 低く、電圧は大きくなりません。弱い信号源で重い負荷を動かす中継ぎ役に使い、使いどころはインピーダンス変換の節、部品の値は計算の4ステップで決まります。
エミッタフォロワは、トランジスタの回路の中でもいちばん部品が少ない形です。それなのに「増幅しない」と説明されることが多く、何のためにあるのかが見えにくい回路でもあります。
この記事では、理屈は「ベースとエミッタの間は約0.7V」の1つにしぼり、5V と2N3904 で組んで、計算して、測るところまで進みます。

この記事で作るもの:弱い2.5Vで、1kΩの負荷を動かす
この記事のゴールは、5V を10kΩ と10kΩ で分けて作った2.5V で、1kΩ の負荷に電圧をかける回路です。直接つなぐと0.42V まで下がりますが、トランジスタを1個はさむと約1.7V になります。
抵抗2本で電圧を分ける「分圧」は、ほしい電圧を手軽に作れます。ただし、分圧の抵抗は電流を流す力が弱く、電流をたくさん取る負荷をつなぐと電圧が下がってしまいます。
そこで、分圧と負荷の間にエミッタフォロワをはさみます。分圧からはほとんど電流を取らず、負荷へは5V の電源から電流を流します。
| つなぎ方 | 負荷にかかる電圧 |
|---|---|
| 何もつながない(分圧だけ) | 2.50V |
| 1kΩ を直接つなぐ | 0.42V |
| エミッタフォロワをはさむ | 約1.68V(2.5V − 約0.7V) |
つまり、エミッタフォロワは電圧を大きくする回路ではなく、「弱い電圧を、電流を出せる電圧に変える」回路です。

エミッタフォロワの形:入力はベース、出力はエミッタ
エミッタフォロワは、NPN トランジスタのコレクタを電源に直接つなぎ、ベースに入力を入れ、エミッタと GND の間に負荷を置く回路です。コレクタが電源(交流で見ると GND と同じ)に固定されるので「コレクタ接地」とも呼びます。
| 足 | つなぐ先 | 役目 |
|---|---|---|
| ベース(B) | 入力 | 合図を受け取る。電流はごく少し |
| コレクタ(C) | +5V | 負荷の電流の入口 |
| エミッタ(E) | 負荷 → GND | 出力。負荷へ電流を出す |
2N3904 は、平らな面を手前・足を下にすると、左から E・B・C の順です。同じ黒い半円形のケース(TO-92)でも並びが違う品種があるので、使う部品のデータシートで確かめます。
トランジスタをスイッチとして使う記事では、負荷はコレクタ側(電源とコレクタの間)に置きました。エミッタフォロワは負荷をエミッタ側に置く、別の使い方です。
同じ 2N3904 をスイッチとして使うときの、ベース抵抗の決め方と足の見分け方がわかる
つまり、エミッタフォロワは「C を電源、B を入力、E を出力」。負荷はエミッタと GND の間です。

電流の道:負荷の電流は電源から、入力が出すのはごく少し
負荷へ流れる電流は、+5V からコレクタ、エミッタを通って負荷へ流れます。入力が出すのは、ベースへ流れるわずかな電流だけです。
負荷の電流 Ie が1.68mA、hFE が70なら、入力が出す電流は 1.68mA ÷ 71 ≒ 24µA(0.024mA)です。負荷の電流のおよそ70分の1で済みます。

入力と出力の関係:出力は入力より約0.7V低い
エミッタフォロワの出力は、入力より約0.7V 低い電圧になります。入力が1V 上がれば出力もほぼ1V 上がるので、電圧の増幅度は約1倍です。
0.7V 下がるのは、ベースとエミッタの間がダイオードと同じつくりだからです。ダイオードに電流を流すには、約0.6〜0.7V の電圧が要ります。
入力が0.6V ほどより低いうちは、ベースに電流が流れず、出力は0V のままです。入力がそれを超えると、出力は「入力−0.7V」で付いていきます。たとえば3.3V を入れると、出力は約2.6V です。
つまり、出力は「入力−約0.7V」。この1つの式で、エミッタフォロワの出力の電圧は計算できます。

波形で見る:形はそのまま、0.7V下にずれるだけ
入力が2.5V を中心に±1V でゆれる信号なら、出力は1.8V を中心に±1V でゆれます。波の形と大きさは同じで、高さが0.7V 下にずれるだけです。
電圧が大きくならないので「増幅しない回路」と呼ばれますが、出力からは入力よりずっと大きな電流を出せます。電圧ではなく、電流(電力)を大きくする回路と考えるとわかりやすくなります。

なぜ付いていく?出力が勝手に「入力−0.7V」に戻る
入力を2.5V にしたとき、出力が「入力−0.7V」に落ち着くのは、出力が自分で調整されるしくみがあるからです。
出力(エミッタ)の電圧が動くと、ベースとエミッタの間の電圧が変わり、それが電流を元に戻す向きに働きます。負荷が少し変わっても、出力の電圧はほぼ「入力−0.7V」のままです。
つまり、エミッタフォロワは「出力の電圧で自分の電流を調整する」回路。だから出力が入力に付いていきます。

何に使う?弱い信号源で、重い負荷を動かす(インピーダンス変換)
エミッタフォロワのいちばんの使い道は、電流を出す力の弱い信号源と、電流をたくさん使う負荷の間の「中継ぎ」です。2.5V の分圧に1kΩ をつなぐ例では、直接なら0.42V、はさめば約1.7V になります。
直接つなぐと:0.42Vまで下がる
5V を10kΩ と10kΩ で分けると、何もつながないときは2.5V です。ここに1kΩ の負荷をつなぐと、下の10kΩ と1kΩ が並列になり、約0.91kΩ になります。
電圧は 5V × 0.91 ÷(10+0.91)≒ 0.42V。ほしかった2.5V から大きく下がります。
エミッタフォロワをはさむと:約1.7Vを保てる
間にエミッタフォロワをはさむと、分圧から取る電流は約24µA だけです。負荷の1kΩ には、5V の電源からトランジスタを通って約1.7mA が流れます。出力は 2.5V − 0.7V = 1.8V に近い約1.68V です。
| つなぎ方 | 負荷にかかる電圧 | 分圧から取る電流 |
|---|---|---|
| 1kΩ を直接つなぐ | 0.42V | 約0.42mA(1kΩ の分) |
| エミッタフォロワをはさむ | 約1.68V | 約24µA |
このように「電流を出す力が弱い(内側の抵抗が大きい)もの」を「電流を出す力が強い(内側の抵抗が小さい)もの」に変えることを、インピーダンス変換と呼びます。
つまり、エミッタフォロワは0.7V を失う代わりに、負荷の重さで電圧が崩れない出力を作ります。

入力から見ると、負荷が(hFE+1)倍の大きさに見える
信号源から見ると、エミッタフォロワの先の負荷は、本当の抵抗の(hFE+1)倍の大きさに見えます。入力の電流が負荷の電流の(hFE+1)分の1になるからです。
hFE が70なら、1kΩ の負荷は 1kΩ ×(70+1)= 71kΩ に見えます。10kΩ の分圧から見て71kΩ は十分大きいので、分圧の電圧はあまり下がりません。
反対に、出力側から見ると、エミッタフォロワは「電流をたくさん出せる、内側の抵抗が小さい電源」に見えます。
「インピーダンス」と抵抗の違いと、入力・出力インピーダンスの考え方がわかる

計算の4ステップ:出力の電圧・電流・入力の電流・発熱
エミッタフォロワの計算は、①出力の電圧 ②出力の電流 ③入力の電流 ④発熱の4ステップです。ここまでで、部品の値が足りるかを確かめられます。
STEP 3 の入力の電流は、分圧の電圧を少し下げます。分圧の内側の抵抗(10kΩ と10kΩ の並列で5kΩ)に約24µA が流れると、約0.12V 下がります。これも入れて計算すると、ベースは約2.38V、出力は約1.68V です(python で計算)。
hFE は最小値で計算しました。実際の部品は hFE がもっと大きいことが多く、hFE が200なら出力は約1.76V になります。最小値で計算しておけば、どの1個が届いても足ります。

エミッタ抵抗REの決め方:下に振れる分の電流を流しておく
信号をコンデンサ越しに負荷へ渡すときは、エミッタと GND の間にエミッタ抵抗 RE を入れます。RE は「信号が下に振れたときに、出力を下へ引っ張れるだけの電流」を流しておくように決めます。目安の式は、下に振れる限界 ≒ Iq ×(RE∥RL)です。
ここまでの例は、負荷そのものがエミッタと GND の間にありました。負荷そのものがエミッタ抵抗の役目をしています。ところが、音の信号のように0V を中心にゆれる信号は、コンデンサで直流を止めて渡すことが多く、その場合は別にエミッタ抵抗 RE を入れます。
トランジスタは、エミッタから電流を「出す」ことはできますが、「吸い込む」ことはできません。信号が下に振れるとき、出力を下へ引っ張るのは RE だけです。そのため、RE に流しておく電流 Iq(何も信号がないときの電流)が少ないと、波形の下が切れてしまいます。
計算例:±1Vの信号を、1kΩの負荷に渡す
RE をいくつまで大きくできるかは、1.8 × RL ÷(RE+RL)≧ 1V から RE ≦ 800Ω と出せます。余裕をみて、その下の470Ω を選びました。ベースの電流で分圧が少し下がる分も入れて python で計算すると、470Ω で約1.11V、1kΩ で約0.86V で、結論は同じです。
つまり、RE は「Iq ×(RE∥RL)が、下に振りたい幅より大きい」ように決めます。足りないと波形の下が切れます。

発熱と定格:P=(電源−出力)×電流で確かめる
エミッタフォロワのトランジスタは、電源と出力の電圧の差に、流れる電流をかけた分だけ熱を出します。2N3904 の上限は625mW(25°C)なので、目安としてその半分以下で使います。
| 場面 | 出力・電流 | 発熱 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 5V・負荷1kΩ(例1) | 1.8V・1.8mA | 5.8mW | 問題なし |
| 5V・負荷100Ω | 1.8V・18mA | 58mW | 問題なし |
| 12V・負荷100Ω(入力5V) | 4.3V・43mA | 331mW | 半分を超える。電源を下げるか大きい部品に |
| 出力を GND に短絡(5V) | 0V・約108mA(hFE 300 の例) | 約540mW | 定格に近い。短絡させない |
2N3904 のデータシートでは、周りの温度と部品の間の熱抵抗(RθJA)が200°C/W です。1W で200°C 上がる計算なので、331mW なら約66°C 上がります。周りが25°C を超えると、上限は1°C あたり5.0mW ずつ下がり、50°C では500mW です。
「半分以下」は余裕をみた目安です。実際の基板では、近くの部品の熱や風通しでも変わります。
1W で何°C 上がるか、熱抵抗の考え方を「熱のオームの法則」で確かめられる
つまり、電源と出力の差が大きく、電流が多いほど熱くなります。短絡は電源の電圧が全部トランジスタにかかるので、いちばん危険です。

オペアンプのボルテージフォロワとの使い分け
電圧をそのまま正確に渡したいならオペアンプのボルテージフォロワ、大きな電流を出したいならエミッタフォロワ、と使い分けます。
| エミッタフォロワ | オペアンプのフォロワ | |
|---|---|---|
| 出力の電圧 | 入力 − 約0.7V | 入力と同じ |
| 入力の電流 | 出力の電流 ÷(hFE+1) | ほぼ0(pA〜nA) |
| 出せる電流(目安) | 数十〜100mA 級(2N3904 の定格は200mA) | 数mA〜20mA ほど(MCP6002 の短絡電流は 5.5V で標準±23mA) |
| 下へ引く力 | RE まかせ | あり |
| 温度で | 0.7V が変わる | ほぼ変わらない |
| 部品 | トランジスタ1個 | IC と電源 |
オペアンプのフォロワは、入力の電流がほぼ0で、出力は入力とぴったり同じ電圧です。そのかわり、オペアンプの出力から出せる電流は多くありません。
オペアンプのボルテージフォロワを5V で組む手順と、入力の電流がほぼ0の理由がわかる
つまり、「正確さ」はオペアンプ、「電流の大きさ」はトランジスタ。数mA までの信号ならオペアンプ、数十mA を出すならエミッタフォロワが目安です。

いいとこ取り:オペアンプの帰還の中にトランジスタを入れる
両方の良いところを合わせる回路もあります。オペアンプの出力でトランジスタのベースを動かし、オペアンプの−入力に戻す線をエミッタからとります。
オペアンプは「+と−を同じにする」ように出力を動かすので、エミッタの電圧が入力と同じ2.5V になるまで、ベースを約3.2V まで上げます。0.7V のずれはオペアンプが消し、負荷の電流(2.5V ÷ 100Ω = 25mA)はトランジスタが電源から流します。
電流を多く流す定電圧の回路や、LED を一定の電流で光らせる回路などで使われる形です。この記事では考え方だけを紹介します。

ブレッドボードで組む:2N3904のエミッタフォロワ
ブレッドボードでは、2N3904 を平らな面を手前にして挿し、左から E・B・C の列にします。C を +5V、B を10kΩ+10kΩ の分圧、E と GND の間に1kΩ をつなぎます。
ブレッドボードは、縦5つの穴(a〜e、f〜j)がつながっています。中央の溝をまたいだ上と下はつながっていないので、14列の上と下は線でつなぎます。
抵抗の色は、10kΩ が茶・黒・橙、1kΩ が茶・黒・赤(4本目は誤差の金)です。

組んだら測る:BとEの電圧と、その差
テスターの黒を GND に当てたまま、赤で B・E・C の電圧を測ります。
| 測る所 | 例(計算のイメージ) | 見る点 |
|---|---|---|
| ① B(13列) | 約2.38V | 2.5V より少し低い |
| ② E(12列) | 約1.68V | ①より約0.7V 低い |
| ③ ①−② | 約0.70V | 0.6〜0.7V なら付いていっている |
| ④ C(14列) | 5.00V | 電源と同じ |
E が0V のままなら、足の並びか C の配線を見直します。E と B がほぼ同じ電圧なら、B と E がつながってしまっていないかを確かめます。数値は hFE 70 で計算したイメージで、実際は部品のばらつきで少しずれます。

よくある失敗4つ:0.7V・短絡・足の並び・下が切れる
エミッタフォロワでつまずく原因は、0.7V 下がるのを忘れる・出力の短絡・足の並びの取り違え・波形の下が切れるの4つが代表です。
失敗1:0.7V下がるのを忘れる
3.3V のマイコンの信号で、負荷に3.3V をかけたいのに、出力は約2.6V にしかなりません。0.7V 分を見込んで入力を決めるか、オペアンプを使います。
失敗2:出力をGNDに短絡する
テスターの棒などで出力を GND に触れると、電源の電圧が全部トランジスタにかかります。5V でも数百mW の熱になります。電流を制限する抵抗を入れるか、短絡させない配線にします。
失敗3:足の並びの取り違え
2N3904 は平らな面を手前にして左から E・B・C ですが、同じ形のケースで並びの違う品種があります。部品を変えたら、データシートの図で確かめます。
失敗4:波形の下が切れる
コンデンサ越しに信号を渡すとき、RE が大きすぎると下へ引く電流が足りず、波形の下が平らに切れます。Iq ×(RE∥RL)が振れ幅より大きくなるように RE を決めます。
つまり、動かないときは「B と E の差が約0.7V か」を最初に測ると、原因を早くしぼれます。


