- 放熱パッド・サーマルビアまで完璧に設計したのに、ICがまだ熱い
- 「ヒートシンク必要ですか?」と聞かれて、根拠を持って答えられない
- 上司から「基板放熱で何W逃がせるの?」と聞かれて固まった
- 熱シミュレーション(Icepak、FloTHERMなど)を使うべきか判断できない
- 基板(銅箔)だけで逃がせる熱の上限
- 「基板放熱で十分」と「ヒートシンク必須」の判断基準
- 熱シミュレーションを使うべきタイミング
- 放熱性能を「数値で語れる」エンジニアになるための考え方
これまでの記事で、サーマルビア、サーマルリリーフ、放熱パッド と、基板側の放熱テクニックを順番に学んできました。
でも、ここで多くの設計者がぶつかる壁があります。
「基板だけで放熱できる限界はどこなのか?」
結論を先に言います。一般的な4層基板+外気自然空冷の条件では、1〜3W程度がメドで、5Wを超えるとヒートシンクが必須になります。これを知らずに「基板だけで頑張る」設計をすると、ICが熱保護で停止したり、寿命が激減したりします。
この記事では、基板放熱の限界を「家のエアコンと窓」のたとえで完全図解し、ヒートシンクへの切り替え判断基準まで一気に解説します。
目次
基板放熱の正体=「銅板を風呂敷代わりに使う」
そもそも基板で熱を逃がすとは、どういう仕組みなのでしょうか。
ICで発生した熱は、放熱パッド→サーマルビア→内層・裏面のGND銅箔へと伝わります。そして最終的には、「広がった銅箔から空気へ熱が逃げる」ことで放熱が完成します。
基板放熱
原理:銅箔を「風呂敷」として広げる
限界:1〜3W(自然空冷)
長所:低コスト・部品点数少
ヒートシンク放熱
原理:「フィン」で空気との接触面積を増やす
限界:10〜100W以上(強制空冷で更に増)
長所:大電力に対応可
「家のエアコン」をイメージしてください
夏場、家の中の熱を外に逃がす方法を考えてみましょう。
窓を開けるだけでも、ある程度は涼しくなります。これが基板放熱に相当します。お手軽だけど、効果には限界がある。
本格的に冷やしたいなら、エアコン(強制冷房)を使います。これがヒートシンク(場合によってはファン併用)です。コストも電力もかかるけど、ガッツリ冷やせる。
設計者の仕事は、「窓開けで足りるか、エアコンが必要か」を 数値で判断する ことです。

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基板の熱抵抗はどれくらい?=「Rth(j-a)」で理解する
基板放熱の限界を語るには、熱抵抗 Rth(j-a)(ICのジャンクションから外気までの合計熱抵抗)を知る必要があります。
許容発熱[W] = (Tj_max − Ta) ÷ Rth(j-a)
具体例で計算してみましょう。
Tj_max=125℃、Ta=85℃(車載環境)、Rth(j-a)=40℃/W の場合:
許容発熱 = (125 − 85) ÷ 40 = 1.0W
つまりこの条件では、1Wを超える発熱があるとICが熱保護を超えて壊れることになります。
パッケージごとのRth(j-a)目安
| パッケージ | Rth(j-a)目安 | 許容発熱(25℃環境) |
|---|---|---|
| SOP8(放熱パッド無) | 150〜200℃/W | 約0.5W |
| QFN(放熱パッド有・基板放熱) | 30〜50℃/W | 約2〜3W |
| TO-263(放熱パッド有・大型基板) | 20〜35℃/W | 約3〜5W |
| TO-220(ヒートシンク併用) | 5〜15℃/W | 10W以上 |
データシートに書かれている Rth(j-a) は、JEDEC標準テストボード(4層・約76×76mm)での測定値です。実機では基板サイズや銅箔面積で大きく変わるため、あくまで目安と考えてください。

銅箔面積で熱抵抗はどう変わる?=「広いほど効くが頭打ちあり」
基板放熱の効果は、銅箔(GNDプレーン)の広さに大きく依存します。広ければ広いほど熱が逃げやすい――これは直感的に正しい。
ただし、ある面積を超えると 効果が頭打ちになる という性質があります。
| 銅箔面積 | Rth(j-a)目安 | 改善率 |
|---|---|---|
| 最小(1cm²) | 100℃/W | 基準 |
| 10cm² | 50℃/W | 約2倍 |
| 25cm² | 35℃/W | 約3倍 |
| 50cm² | 28℃/W | 約3.5倍(頭打ち) |
| 100cm²以上 | 25℃/W | 約4倍(ほぼ飽和) |
面積を増やしても、遠くの銅箔は熱が伝わりにくく、放熱に貢献しないためです。10〜25cm²あたりがコストパフォーマンス的な「スイートスポット」です。
「銅箔を100cm²にすれば10倍冷える」ということはありません。面積拡大は約4倍が限界と覚えておきましょう。それ以上はヒートシンクを検討すべきサインです。
「銅箔ベタを増やせばOK」と思って基板の半分をベタにする若手をよく見ますが、放熱効果は10cm²以降ほぼ頭打ち。むしろノイズや基板コスト増のデメリットの方が大きくなることも。「広ければ良い」は思考停止です。

「基板だけ」と「ヒートシンク併用」の判断基準
設計者が一番悩む「ヒートシンクを付けるべきか?」の判断基準を整理します。
発熱:1〜3W程度
QFN、放熱パッド付きSOP、小型レギュレータなど。
基板に最低10cm²のGNDベタ+サーマルビア9〜25本で対応可。
発熱:3〜5W
大型QFN、TO-263など。
基板放熱で頑張れる範囲だが、周囲温度が高い・基板が小さいとアウト。必ず実機評価+シミュレーション。
発熱:5W以上
パワーMOSFET、大型レギュレータ、IGBTなど。
基板だけでは絶対に冷えない。ヒートシンク or メタルコア基板が必要。
判断のフローチャート
Q1:1Wを超える発熱があるか?
→ NO:放熱対策不要(小信号IC)
→ YES:Q2へ
Q2:5Wを超える発熱があるか?
→ NO:基板放熱で対応(Q3へ)
→ YES:ヒートシンク必須
Q3:周囲温度Taは何℃か?
→ 25℃以下:基板放熱で十分
→ 50℃以上:基板放熱でも要シミュレーション
→ 85℃以上(車載):基本ヒートシンク併用
「グレーゾーン」を判断ミスると、量産後に温度問題が発覚→急遽ヒートシンク追加→大幅コスト増・スケジュール遅延の地獄を見ます。グレーなら必ずシミュレーションと実機評価で確証を取ること。

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基板放熱を「数値で予測する」=シミュレーションの活用
「基板放熱で何W逃がせるか」を 机上だけで正確に計算するのは不可能 です。実際の基板形状・部品配置・気流などを考慮しないと、現実とかけ離れた数値になるからです。
そこで使うのが 熱シミュレーション です。
| ツール名 | 特徴 | 価格帯 |
|---|---|---|
| Ansys Icepak | 高精度・業界標準。CAD連携◎ | 高(数百万) |
| Mentor FloTHERM | 電子機器特化・歴史長い | 高(数百万) |
| SimScale(Web) | クラウド・サブスクで安価 | 中(月数万) |
| Excel計算(簡易) | 熱抵抗の直列計算ベース。概算用 | 無料 |
シミュレーションを使うべきタイミング
✅ 発熱が 3W以上 ある(グレーゾーン以上)
✅ 周囲温度が高い(車載・産業機器・密閉筐体内)
✅ 複数のICが近接配置されている(熱集中の懸念)
✅ 客先審査で熱解析資料の提出が求められる
✅ 量産前の最終確認として裏付けが必要
高価なツールがなくても、「熱抵抗の直列計算」をExcelで組めば、概算は十分可能です。Tj = Ta + Pd × Rth(j-a) のシンプルな式から始めましょう。
「シミュレーションは精密に見えるが、入力条件(境界条件)が間違っていれば、結果も嘘になる」のが現場のリアル。シミュレーションと実機評価をセットで運用することで、初めて信頼できる結果が得られます。

基板放熱の限界を超える3つの選択肢
「基板だけでは無理」と判断したとき、設計者には3つの選択肢があります。
ヒートシンクを取り付ける
最もポピュラー。10〜100W以上の発熱に対応可。コスト中。
取り付け方(接着・ねじ止め・クリップ)と熱伝導材(TIM)の選定が重要。
メタルコア基板(MCPCB)に変更
FR-4の代わりに、アルミや銅の金属層をコアにした基板を使う。
放熱性能はFR-4の 5〜10倍。LED照明・パワエレで実績多。
強制空冷(ファン)or 水冷を導入
究極の放熱手段。50W以上の超大電力、密閉筐体での使用に。
コスト・騒音・故障リスク・メンテ負荷が増えるのが難点。
| 手段 | 適用発熱 | コスト | 難易度 |
|---|---|---|---|
| 基板放熱のみ | 〜3W | ◎安い | ◎簡単 |
| ヒートシンク | 5〜100W | ○中 | ○中 |
| メタルコア基板 | 5〜50W | △高 | △中 |
| 強制空冷・水冷 | 50W以上 | ❌高 | ❌難 |

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設計初期に「放熱戦略」を決める=後出しは地獄
放熱設計で最も重要なことは 「設計の最初に放熱戦略を決めること」 です。後付けでヒートシンクを追加するのは、コスト・スペース・スケジュールすべてに悪影響を及ぼします。
後出しで追加
基板設計やり直し・筐体改造
コスト増・量産遅延・信頼喪失
設計初期にやるべきチェックリスト
☑ 全パワー部品の 最大発熱量Pd をリストアップ
☑ 周囲温度Taと許容Tjを決める
☑ Rth(j-a)目安から 「基板放熱可能か」を一次判定
☑ グレーゾーンならシミュレーション or 計算で確証取得
☑ ヒートシンク必須なら 筐体・スペース設計に反映
☑ 試作後は必ず サーモグラフィ実測で検証
放熱設計は「設計の最後」ではなく
「設計の最初」にやる仕事

まとめ=基板放熱は「3Wが一つの目安」
今日のまとめです。
✅ 基板放熱の限界は 1〜3W程度。5W以上はヒートシンク必須
✅ 銅箔面積は 10〜25cm² がスイートスポット。それ以上は頭打ち
✅ 計算式は 許容発熱 = (Tj − Ta) ÷ Rth(j-a)
✅ グレーゾーン(3〜5W)はシミュレーションと実機評価で確証を取る
✅ 基板の限界を超えたら ヒートシンク・メタルコア基板・強制冷却
✅ 放熱戦略は 設計の最初に決める。後出しは地獄
これまでの「基板設計の放熱シリーズ」は今回で一区切りです。
サーマルビア・サーマルリリーフ・放熱パッド・基板放熱の限界――これらをすべて押さえて初めて、「数値で語れる熱設計」 ができるようになります。
「ICがちゃんと冷えるか」を 計算で予測でき、実機で検証できるエンジニアは、現場で重宝されます。今日の知識を、ぜひあなたの次の設計案件で活かしてみてください。
次回からは、いよいよ ヒートシンクの設計編 に入っていきます。お楽しみに。

📚 次に読むべき記事
基板放熱は熱設計の一部。全体像を体系的に押さえることで、放熱設計の地図が見えてきます。これからヒートシンク編へ進む前に必読。
基板放熱の限界を超えたら次はヒートシンク。仕組みから選び方までやさしく解説した入門記事です。
「基板で何W、ヒートシンクで何W」を分担して設計するための実践記事。本記事の計算式の続編にあたります。
前回記事。基板放熱の入口である放熱パッドを完璧に設計してこそ、本記事の「基板放熱の限界」を最大限引き出せます。
FR-4の限界を超えたいなら基板材質変更も選択肢。メタルコア基板でFR-4の5〜10倍の放熱性能を得る方法。
本記事の計算式「Tj = Ta + Pd × Rth(j-a)」をより深く理解するための前提知識。Excelで簡易シミュレーションを組む際にも必須。
本記事の主役である「Rth(j-a)」の正体を完全解説。データシートの値が実機と違う理由がわかります。