基板設計

電源プレーンの分割とリターンパス|スリットが危険な理由

電源プレーンの分割とリターンパス。スリットが危険な理由

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こんなふうに思っていませんか?
  • 「GNDは分けたほうがノイズに強い」と教わったが、本当にそうなのか自信がない
  • 電源が3系統あるので、なんとなくプレーンを3つに割っている
  • EMC試験で落ちたが、どこが悪いのか見当もつかない
  • そもそも「リターンパス」という言葉の意味がふわっとしている
○ この記事でわかること
  • リターンパス(電流の帰り道)とは何か、図でイメージできる
  • プレーンのスリットが、なぜノイズを激増させるのかが理解できる
  • NG例とOK例を、自分の基板と見比べて判断できる
  • どうしても分割が必要なときの、正しい作法がわかる
○ 結論(まず30秒でわかる答え)

電源プレーンの分割とは、基板の中の広い銅箔(プレーン)を、電圧の系統ごとに切れ目(スリット)で区切ることです。分割が必要な場面はありますが、そのスリットの上を信号線がまたいで通ると、電流の帰り道(リターンパス)が断ち切られ、放射ノイズが跳ね上がります。原則は2つ。GNDプレーンは分割しない。そして電源プレーンを分割するなら、その真上・真下に信号線を通さない。この2つを守るだけで、EMC不良の大半は防げます。

プレーン分割は、基板設計のなかでも「良かれと思ってやったことが、いちばんの原因になっていた」が起きやすいテーマです。「ノイズ源を切り離す」という発想はとても自然なのですが、電気の世界では、この直感がしばしば裏目に出ます。

なぜ裏目に出るのか。その理由はたった1つ、「電流は必ず輪っかになって戻ってくる」という事実を忘れているからです。ここから一つずつ、ほどいていきましょう。

リターンパスとは?「電流の帰り道」を10秒で理解する

リターンパスとは、日本語で言えば「電流の帰り道」です。

電気は、行きっぱなしでは流れません。電池から出た電流が豆電球を光らせるには、必ず電池に戻ってこないといけません。この「戻る道」がリターンパスです。

たとえると
水を循環させるポンプと同じです。ポンプから出ていく送りの管だけあっても、水は流れません。使い終わった水が戻ってくる帰りの管があって、はじめて輪っかが完成して水が回ります。電気もまったく同じで、「行きの配線」と「帰りの配線」はセットです。

基板では「帰り道」が見えない

やっかいなのは、基板の上では帰り道が目に見えないことです。

回路図には「行き」の信号線しか描かれていません。帰りは、GNDのマーク(三角形の記号)でぷつっと終わっています。だから設計者の頭のなかでも、帰り道は消えてしまいがちです。

でも実際の基板では、その帰り道はプレーン(広い銅箔の面)の中を、ちゃんと流れています。見えないだけで、必ずそこにあります。

つまり
回路図に描かれていないだけで、基板の上には「見えない帰り道」がびっしり走っています。プレーンを分割するというのは、その見えない道に通行止めの柵を立てる行為なのです。

そもそもGNDとは何か、という土台からしっかり押さえたい方は、GNDとは何か?「0Vの線」ではなく「電流の帰り道」である本当の理由を先に読むと、この記事の理解が一段深くなります。

リターンパスを水の循環にたとえた図。信号は行きの信号線と帰りのGNDプレーンでループを作って流れ、水も送りの管と帰りの管で循環するので、帰り道がないと流れない
信号は帰り道(リターンパス)がないと流れない

高周波のリターン電流は、必ず「信号線の真下」を通る

ここが、この記事でいちばん大事なポイントです。

プレーンは広い銅の板なので、電流はどこを通ってもよさそうに見えます。ところが実際には、周波数によって通り道がまったく違います。

直流・低い周波数のとき

電流は抵抗がいちばん小さい道を選びます。プレーンは銅の板なので、ほぼ最短距離をまっすぐ戻ります。

高い周波数のとき

電流はループ(輪っか)の面積がいちばん小さい道を選びます。結果として、行きの信号線のちょうど真下に張り付いて戻ります。

なぜ「真下」なのか

理由は、インダクタンス(電流の変化を邪魔する性質)にあります。

電流が輪っかを作ると、その輪っかの面積が大きいほどインダクタンスが大きくなります。インダクタンスが大きい道は、高周波にとっては「通りにくい道」です。だから高周波の電流は、輪っかがいちばん小さくなる道を自然に選びます。

信号線とプレーンの距離は、たとえば絶縁層0.2mmしかありません。信号線の真下を戻れば、輪っかの厚みはたった0.2mm。これ以上小さい輪っかは作れません。だから真下を通るのです。

たとえると
磁石のS極とN極がぴたっとくっつきたがるのと同じです。行きの電流と帰りの電流は向きが逆なので、たがいに引き寄せ合い、できるだけ近くを通ろうとします。周波数が高いほど、この「引き寄せ合う力」が強くなります。
覚えるべき1行
高周波のリターン電流は、信号線の真下を影のようについてくる

この原理をもっと丁寧に、なぜ「最短経路」ではなく「最小ループ」なのかから理解したい方は、この記事の理論編にあたる「電流は最短経路を通る」は嘘?高周波電流の帰路とループ面積の真実を必ず読んでください。以降の話が、すべてそこから導かれます。

低周波と高周波のリターン電流の経路の違いの図。低周波は抵抗が最小のショートカットの道を、高周波は信号線の真下を通ってループ面積が最小になる
高周波のリターン電流は信号線の真下を通る

スリットをまたぐと何が起きる?帰り道が「通行止め」になる

ここまでで、高周波の帰り道は信号線の真下だとわかりました。では、その真下にスリット(銅箔の切れ目)があったら、どうなるでしょうか。

答えは単純です。そこは銅がないので、電流は通れません。

通れないからといって、電流が消えるわけではありません。輪っかを閉じないと電流は流れられないので、電流はスリットの端っこまで大回りして迂回します。

プレーンを上から見たイメージ

① 信号線が左から右へ ────────▶
② その真下に、横切るスリット(銅なし)
③ 帰りの電流は通れず、スリットの端まで大回り ↩
④ 結果:巨大な輪っかが出来上がる = アンテナ

悪化の度合いをざっくり計算してみる

「大回りするとどれくらい悪いのか」を、数字にしてみましょう。放射ノイズの強さは、おおむねループ面積に比例します。だから面積を比べれば、悪化の度合いがつかめます。

STEP 1

正常なとき(スリットなし)のループ面積
信号線の長さを50mm、信号線とプレーンの距離(絶縁層の厚さ)を0.2mmとします。
ループ面積 = 50mm × 0.2mm = 10mm²

STEP 2

スリットをまたいだときのループ面積
帰り道が20mm横まで迂回するとします。輪っかは基板の面に沿って大きく広がるので、ざっくり
ループ面積 ≒ 20mm × 25mm = 約500mm²

STEP 3

比べる
500mm² ÷ 10mm² = 約50倍
デシベルに直すと、20 × log₁₀(50) ≒ 約34dB の悪化

EMC試験でよく問題になるのは「規格値を数dB超えた」というレベルです。それに対して、スリットまたぎ1本で30dB以上悪化しうる。桁が違います。だからこれは、フェライトビーズを何個足しても取り返せません。

この計算はあくまで概算です
実際のループ形状や周波数、基板の層構成によって値は大きく変わります。ここで伝えたいのは正確な数字ではなく、「桁で悪化する」という感覚です。実際、電磁界シミュレーションでも、GNDにスリットを入れるだけで基板やケーブルから出る磁界が明確に強くなることが確認されています。
つまり
スリットをまたぐ信号線は、意図せず基板の上に大きなループアンテナを作っているのと同じです。電波を出すために設計されたわけでもないのに、しっかり電波を出してくれます。
スリットの有無によるループ面積の比較図。スリットなしではループ面積10mm²、スリットがあるとリターン電流が迂回して約500mm²になり、約50倍で約34dB悪化する(概算)
スリットをまたぐとループ面積が約50倍に

スリットが招く3つの災い

迂回によって起きる悪さは、じつは1つではありません。3つセットでやってきます。

災い1:放射ノイズが増える(電波が飛び出す)

これは前章で見たとおりです。行きと帰りの電流が離れると、たがいの磁界を打ち消し合えなくなります。打ち消されずに残った磁界が、空間に飛び出していきます。

しかもこの電波は、基板の外に伸びるケーブルに乗り移ります。ケーブルは長いので、優秀なアンテナになります。「基板だけならOKだったのに、ケーブルを繋いだ瞬間にEMC試験で落ちる」の典型パターンです。

災い2:スリットそのものがアンテナになる(スロットアンテナ)

こちらは、意外と知られていない現象です。金属板に細長い切れ目(スロット)を入れると、それ自体がアンテナとして働きます。実際、無線機器の世界ではスロットアンテナとして意図的に使われている構造です。

スロットは、その長さが電波の波長の半分(λ/2)になったとき、いちばんよく電波を出します。つまり、自分の基板のスリット長から「どの周波数が危ないか」を逆算できるということです。

危険な周波数を逆算する式
危ない周波数 f = 150 ÷ スリット長[m]… の代わりに、下の計算で
STEP 1

スリットの長さを測ります。ここでは50mm(0.05m)とします。

STEP 2

それが波長の半分だと考えて、波長を求めます。
波長 λ = 0.05m × 2 = 0.1m

STEP 3

電波の速さ(毎秒3億m)を波長で割ります。
f = 300,000,000 ÷ 0.1 = 3,000,000,000Hz = 3GHz

つまり、50mmのスリットは3GHz付近でよく電波を出します。「うちのクロックは100MHzだから関係ない」とは言えません。方形波の高調波(100MHzの30倍=3GHz)は、しっかりそこまで届いています。

逆に言えば
スリットは短いほど安全です。どうしても分割が必要なら、「必要最小限の長さで、必要な場所だけ」が鉄則になります。基板を端から端まで貫くような長いスリットは、最悪の選択です。

災い3:クロストークが増える(隣の信号に飛び移る)

リターン電流が大回りすると、本来なら関係なかったはずの領域まで、電流が広がって流れます。すると、その経路の上にある別の信号線とリターン電流が「同じ道を共有」してしまいます。

道を共有すると、片方の信号の変動が、もう片方に電圧として現れます。これがクロストーク(信号の飛び移り)です。スリットまたぎを2本、3本と作れば、それらは互いに干渉し合う関係になります。

クロストークの仕組みそのものは、クロストークとは?隣の配線にノイズが飛び移るメカニズムで詳しく解説しています。

スリットが招く3つの災いの図。放射ノイズの増加、長さλ/2のスリットがアンテナになるスロットアンテナ、隣の信号に飛び移るクロストーク
スリットの3つの災い:放射・スロットアンテナ・クロストーク

では、なぜ多くの人が「分割したくなる」のか

ここまで読むと「分割は悪」に見えますが、話はもう少し繊細です。なぜ多くの設計者が分割したがるのか、その気持ちの正体を先に整理しておきましょう。

分割したくなる気持ち:「汚れた電流を入れたくない」

典型的なのが、こんな発想です。

「デジタル回路の電流はノイズだらけ(=汚い)。この電流がアナログ回路のGNDに流れ込むと、繊細なセンサ信号が乱される。だから、GNDを2つに割って、汚れた電流が入ってこないようにしよう」

この考え方自体は、間違っていません。低い周波数では、これは正しいのです。低周波の電流は抵抗が小さい道を通るので、道を物理的に分ければ、たしかに流れ込まなくなります。

落とし穴:高周波は「柵」を平気で飛び越える

問題は、いまの回路には必ず高周波が含まれることです。高周波の電流にとって、スリットは「通れない壁」ではありません。スリットを挟んで向かい合った銅箔は、ごく小さなコンデンサとして働くからです。

コンデンサは、周波数が高いほど電気を通しやすくなります。つまり高周波の電流は、スリットという柵をあっさり飛び越えて、しかも設計者が想定していない場所から飛び越えてきます。

たとえると
道路にバリケードを置いたようなものです。歩行者(低周波)は素直に止まってくれますが、飛べる相手(高周波)はバリケードを越えて、しかも柵沿いのどこからでも入ってきます。しかも歩行者用の迂回路(大回り)まで作ってしまったので、渋滞(放射ノイズ)も発生します。

現代の答え:まず「分割しない」を試す

アナログとデジタルのGNDを分けるべきかどうかは、長年議論されてきたテーマです。そして近年の一般的な見解は、「分割しないほうが、うまくいくことが多い」に傾いています。

分割せずにノイズを分ける方法があるからです。それが「配置で分ける」という考え方です。

やり方 中身
× 銅箔で分けるGNDにスリットを入れて物理的に切り離す → 帰り道が壊れる
○ 配置で分けるGNDは1枚のままにして、アナログ部品とデジタル部品を基板の別エリアにまとめる

高周波のリターン電流は信号線の真下しか通らない、という原理を思い出してください。デジタル回路のリターン電流は、デジタル回路の真下にしか流れません。わざわざアナログ側まで散歩には行かないのです。だから、部品の置き場所さえ分けておけば、GNDは1枚のままで十分に静かになります。

つまり
「GNDを割る」のではなく「部品の島を分ける」。これが現代の基板設計の基本姿勢です。GNDを1枚の途切れないベタにしておく理由については、「ベタGND」とは?なぜ基板のあちこちが銅で塗りつぶされているのかもあわせて確認してみてください。
【完全図解】クロストークとは?|隣の配線にノイズが飛び移るメカニズム
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隣の配線にノイズが移るクロストーク

GNDプレーンの分け方の比較図。銅箔をスリットで分けると信号やリターン電流が迂回してノイズの原因になり、GNDは1枚のままアナログとデジタルを配置で分けるのがよい
GNDは1枚のまま、配置でアナログとデジタルを分ける

NG例とOK例|自分の基板と見比べるチェック集

ここからは実践編です。現場でよく見る4つのパターンを、NG/OKで並べます。手元の設計データを開きながら見比べてみてください。

パターン1:スリットをまたぐ信号線

NG

高速信号が、分割されたプレーンの境目をまっすぐ横切っている。もっとも典型的で、もっとも重症な失敗。

OK

信号線を回り込ませ、スリットのない領域だけを通す。少し遠回りになっても、こちらが正解。

パターン2:ビアの並びがプレーンを切ってしまう

NG

コネクタの足やビアが一直線にずらりと並び、その周りの逃げ(クリアランス)が繋がって、内層のプレーンが実質スリット状に分断されている。設計者が意図していないスリットなので、いちばん見つけにくい。

OK

ビアを千鳥(互い違い)に配置して、銅箔が繋がる通り道を残す。内層の絵を必ず目視で確認する習慣をつける。

パターン3:基板を貫く長いスリット

NG

「なんとなく系統を分けたい」という理由で、基板の端から端までスリットを走らせる。長いスリットは、そのままよく効くアンテナになる。

OK

分割は必要な範囲だけ、短く。可能なら分割せず、部品の配置エリアだけを分ける。

パターン4:層を移る信号(ビアで表→裏)

NG

信号がビアで別の層に移るとき、その信号のリターン電流が「どこを通って層を移るか」を考えていない。近くにGNDビアがないと、帰り道は基板の端まで大回りする。

OK

信号ビアのすぐ隣(できれば1mm以内)に、GND同士を繋ぐスティッチングビアを1本置く。帰り道に「階段」を用意してあげるイメージ。

いちばん怖いのはパターン2
パターン1やパターン3は「分割した自覚」があるので気づけます。でもパターン2の意図しないスリットは、CADの画面では気づきません。出図前に必ず、内層のプレーン層だけを単独で表示して、銅が途切れていないか目で追うようにしてください。これだけでEMC不良がかなり減ります。
スリットまわりのNG例とOK例の図。配線がスリットを横切る・ビアの直列で隙間がつながる・長いスリット・信号ビアの近くにGNDビアなしはNG、スリットを回り込む・ビアをジグザグに・必要な箇所だけ短いスリット・信号ビアのそばにGNDビアはOK
スリットまわりのNG例とOK例4組

どうしても分割が必要なときの、3つの正しい作法

「分割しないのが原則」と書きましたが、分割しなければならない場面も現実にはあります。代表は次の2つです。

分割が必要なケース 理由
安全のための絶縁AC100Vの一次側と、人が触れる二次側を電気的に切り離す必要がある。これは規格上の義務であり、交渉の余地はない
電源系統が複数ある5V・3.3V・1.8Vなど、電圧が違う電源プレーンは物理的に分けるしかない

ここで大事な区別があります。電源プレーンの分割は普通のこと。GNDプレーンの分割は特別なことです。電圧が違う電源を1枚にはできませんが、GNDは基本的に全部つながっていていいのです。

作法1:スリットの上に信号線を通さない(最重要)

これが唯一にして最強の対策です。電源プレーンを何枚に割ろうが、そのスリットの真上・真下に信号線がなければ、リターンパスは壊れません。

配線を始める前に、プレーンの分割線を「立入禁止ライン」としてCADに引いておく。この一手間だけで、後から地獄を見る確率が激減します。

作法2:またぐなら、すぐ横にスティッチングコンデンサを置く

どうしても電源プレーンのスリットをまたぐ配線が避けられないときは、またぐ場所のすぐ近くに、スリットの両側をつなぐコンデンサを1個置きます。これをスティッチングコンデンサと呼びます。

コンデンサは高周波にとっては「ほぼ導線」です。だから直流的には分離されたまま、高周波の帰り道だけを短くつないでくれるのです。

置き方 1

できるだけ近くに置く。またぐ地点から数mm以内が目安です。遠いと、そこまで迂回するぶんのループが残ってしまい、効果が落ちます。

置き方 2

容量は100pF〜1000pF程度が目安。大きくすればいいわけではなく、コンデンサ自体の寄生インダクタンスで高周波では効かなくなるため、小容量・小型のものを選びます。

置き方 3

あくまで応急処置と考える。理想は作法1(またがない)です。スティッチングコンデンサは「またいでしまった被害を小さくする」ための道具であって、またいでよい許可証ではありません。

絶縁のためのスリットには使えない
AC一次側と二次側を分ける「安全のためのスリット」に、勝手にコンデンサを渡してはいけません。ここに部品を置くには、規格で認められたYコンデンサ(安全規格認証品)を、決められた条件で使う必要があります。絶縁のルールについては沿面距離と空間距離|なぜ基板上に「何もない隙間」が必要なのかを確認してください。

作法3:GNDプレーンだけは、途切れさせない

電源プレーンを何枚に割っても、その下に途切れのないGNDプレーンが1枚あれば、リターンパスは守られます。これが4層以上の基板を使う最大の理由です。

よく使われる4層基板の層構成なら、こうなります。

L1(表):信号層 ── ここに高速信号を通す
L2:GNDプレーン ── 絶対に割らない(帰り道)
L3:電源プレーン ── ここは割ってよい
L4(裏):信号層

L1の信号は、すぐ下のL2(無傷のGND)を帰り道に使えます。L3の電源プレーンがどれだけ細かく割れていても、信号のリターンパスには影響しません。層構成の考え方は基板の層構成の決め方|2層・4層・6層をどう使い分けるかで詳しく整理しています。

つまり
「電源プレーンは割ってよい、GNDプレーンは割らない」。この一言に、この記事のほとんどが凝縮されています。
4層基板の層構成の図。L1信号層、L2はGNDプレーン(割らない)でリターン電流の帰り道、L3は5V・3.3V・1.8Vの電源プレーン(割ってよい)、L4信号層
電源は割る、GNDは割らない

出図前に、この6つだけ確認する

EMC試験は、落ちてから直すと基板の作り直しになります。出図の直前に、次の6項目だけは目で確認してください。所要時間は10分もかかりません。

# 確認すること
1GNDプレーン層だけを単独表示し、銅が途切れていないかを目で追う
2ビアやコネクタの穴が一列に並び、意図しないスリットを作っていないか
3電源プレーンの分割線の真上・真下に信号線がないか
4高速信号がビアで層を移る場所に、近くにGNDビアがあるか
5スリットの長さは短く抑えられているか(基板を貫通していないか)
6「なぜここを分割したのか」を言葉で説明できるか(説明できないなら分割をやめる)
いちばん効くのは6番
現場で見かける不要なスリットの多くは、「前の設計がそうだったから」「なんとなく分けたほうが良さそうだから」という理由で残っています。理由を言えない分割は、削っていい分割です。

より広い視点でのGND設計(パワーGNDと信号GNDの扱い、1点アース、スター接続など)は、GNDパターンの正しい引き方|パワーGNDと信号GNDの分離・1点アースにまとめています。プレーン分割とセットで押さえておきたい内容です。

出図前のチェック3ステップの図。GND層だけを表示して銅の途切れを探す、ビア列の分断と分割線の真上を確かめる、層移行にGNDビアがあるか・なぜ割ったかを説明できるか問う
出図前のチェック3ステップ:見る・たどる・問う

よくある質問

Q. 電源プレーンの分割はしてもいいのですか?

A. 電圧系統が違えば分割は当然必要です。問題は分割そのものではなく、そのスリットの真上や真下に信号線を通してしまうことです。

Q. リターンパスとは何ですか?

A. 電流が信号源へ戻るための帰り道のことです。高周波では、信号線のすぐ真下のプレーンを流れます。

Q. GNDスリットはなぜ危険なのですか?

A. リターン電流が真下を通れず大きく迂回し、電流ループが桁違いに広がるためです。その結果、放射ノイズが急増します。

Q. アナログGNDとデジタルGNDは分けるべきですか?

A. 近年は「分けずに1枚のベタGNDにし、部品の配置エリアで分ける」が主流です。分割はかえって悪化させることが多くあります。

Q. スティッチングコンデンサはどこに置きますか?

A. 信号がスリットをまたぐ地点のすぐ横、数mm以内が目安です。100pF〜1000pF程度の小型品を使います。

Q. 2層基板ではどうすればいいですか?

A. 裏面をできる限り途切れないベタGNDにし、信号は表面だけで配線します。裏面を信号で切り刻むのが最悪の設計です。

Q. スリットは短ければ問題ないですか?

A. 短いほど放射は減りますが、ゼロにはなりません。またぐ信号がなければ、短いスリットは実害が小さいと考えてよいです。

まとめ:分割する前に「帰り道」を見る

この記事の要点
  • リターンパスとは電流の帰り道。回路図には描かれないが、基板の上には必ず存在する
  • 高周波のリターン電流は信号線の真下を通る。ループ面積が最小になる道を選ぶため
  • スリットをまたぐ信号線は帰り道を断ち切り、電流を大回りさせる。ループ面積が数十倍になり、放射が桁で悪化する
  • スリットはスロットアンテナにもなる。長さがλ/2の周波数でもっとも放射する(50mmなら約3GHz)
  • GNDを割るのではなく、部品の配置エリアを分けるのが現代の基本姿勢
  • 原則は「電源プレーンは割ってよい/GNDプレーンは割らない」
  • やむを得ずまたぐときは、すぐ横にスティッチングコンデンサ(100pF〜1000pF)を置く。ただし応急処置

次にやるべき一歩

いま手元に設計中の基板があるなら、CADを開いてGNDプレーンの層だけを表示してみてください。他の層は全部消して、GNDだけにします。

そのうえで、銅が途切れている場所を指でなぞってみる。そこが、あなたの基板のリスクポイントです。意図して割ったものなら問題ありません。意図していない切れ目が見つかったら、それは今日直せるEMC対策です。

ノイズ対策は、フィルタ部品を足すことだと思われがちです。でも本当に効くのは、部品を1個も増やさずにできる「電流の通り道を整える」という設計です。プレーン分割は、その代表格になります。

電源プレーン分割のまとめの図。GNDは割らない、電源は割ってよいが信号配線は分割線をまたがない、この2つでほとんど防げる
GNDは割らない、電源は割っても信号はまたがない
この記事の理解を深める本と道具
おすすめの本

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電験三種・QC検定1級 / メーカーでパワエレ設計・品質保証 実務10年

メーカーで電気設計と品質保証に携わってきた経験をもとに執筆しています。むずかしい専門用語をできるだけ使わず、はじめて学ぶ人がつまずかないように、図とたとえで説明することを大切にしています。

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