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ヒューズの定格電流は、ふだんの電流÷0.75÷温度の係数で出します(ふだん 1.0A・60℃なら 1.37A → 1.6A)。速断(F)とタイムラグ(T)の選び分けはSTEP 2、ふだんの電流からの目安は早見表にあります。
ヒューズは、回路がこわれて大きな電流が流れたときに、自分が切れて火や煙を防ぐ「最後のとりで」です。ふだんは切れず、こわれたときだけ切れる、という2つを両立させるのが選び方の中心です。
この記事では、12V で動く小さな基板を例に、実在のヒューズのデータシートの数字を使って、定格電流から遮断容量まで順に計算します。

この記事の例:12Vで動く基板の入口に入れるヒューズ
例にするのは、直流12V の電源で動き、ふだん1.0A が流れる基板です。入口に220µF のコンデンサがあり、箱の中は60℃まで上がるとします。
ヒューズは、電源から基板へ向かう線の途中、できるだけ電源に近い所に入れます。基板のどこかがショートしても、ヒューズが切れれば電源から切り離せるからです。
| 項目 | この記事の例 |
|---|---|
| 電源 | 直流12V |
| ふだんの電流 | 1.0A |
| 箱の中の温度 | 60℃ |
| 入口のコンデンサ | 220µF(電源を入れた瞬間に突入電流が流れる) |
| 電源の入り切り | 1日10回・10年使う |
ヒューズとブレーカーの役目の違いを、家の分電盤の例でつかめる
つまり、ヒューズ選びは「切れてはいけない電流」と「切れてほしい電流」の間を探す作業です。

ヒューズは3点で選ぶ:定格電流・溶断特性・突入電流
ヒューズは、①定格電流、②溶断特性(速断かタイムラグか)、③突入電流(I²t)の3点で候補をしぼり、最後に定格電圧と遮断容量を確かめます。
ふだんの電流は、部品ごとの電流を足して見積もります。この記事では1.0A とします。
ヒューズの前に、ふだんの電流を部品表から見積もる手順がわかる
つまり、ヒューズ選びは「電流の大きさ」「切れる速さ」「一瞬の電流」の3つを順に見ること。

定格電流は「切れる電流」ではない
ヒューズの定格電流は「この電流で切れる」値ではありません。速断の小型ヒューズでは、定格の1.5倍でも1時間は切れず、2.1倍で30分以内に切れる、と決められています。
はじめての人がいちばん誤解しやすいのがここです。2A のヒューズは、2A を超えた瞬間に切れるわけではありません。ガラス管の小型ヒューズの規格(IEC 60127-2)では、流れる電流と切れるまでの時間が、次のように決まっています。
| 流れる電流 | 速断(F) | タイムラグ(T) |
|---|---|---|
| 定格の1.5倍 | 1時間以上 切れない | 1時間以上 切れない |
| 定格の2.1倍 | 30分以内に切れる | 2分以内に切れる |
| 定格の2.75倍 | 0.05〜2秒 | 0.6〜10秒 |
| 定格の4倍 | 0.01〜0.3秒 | 0.15〜3秒 |
| 定格の10倍 | 0.02秒以内 | 0.02〜0.3秒 |
では、定格ぴったりの電流を流し続けてもよいかというと、そうではありません。ヒューズは熱で切れる部品なので、定格に近い電流を流し続けると、中の金属が少しずつ傷み、ある日なにもないのに切れることがあります。
つまり、定格電流は「切れる値」ではなく「ふだん使える上限の目安」。余裕を足して選ぶ理由がここにあります。

STEP 1:定格電流=ふだんの電流÷0.75÷温度の係数
ヒューズの定格電流は、ふだんの電流を0.75 と温度の係数で割り、標準の値に切り上げて決めます。ふだん1.0A・60℃なら、1.0÷(0.75×0.97)=1.37A → 1.6A です。
0.75 はメーカーの目安で、Bel のチップヒューズ(0685P)のデータシートは「25℃で定格の80%以下」と書いています。選んだヒューズのメーカーの値があれば、そちらに従います。
部品を定格の何割で使うかという考え方を、ヒューズ以外の部品にも広げられる
つまり、ふだん1.0A の回路に1A のヒューズは小さすぎる。60℃なら1.6A が出発点です。

温度の係数はヒューズの種類で違う:データシートの曲線で読む
温度の係数は、ヒューズの種類で大きく違います。Bel のガラス管は60℃で約97%ですが、Littelfuse の昔ながらのタイムラグ形は75℃で80%まで下がります。
ヒューズは熱で切れる部品なので、まわりが熱いほど、少ない電流で切れやすくなります。どれだけ下がるかは、データシートの「温度の曲線(Temperature Derating Curve)」で読みます。
| ヒューズ | 温度の曲線(データシートの図から読んだ目安) |
|---|---|
| Bel 0651C・0652C(ガラス管) | -60℃で約109%、60℃で約97%、125℃で約91% |
| Bel 0685P(チップ) | 60℃でも約98%、125℃で約95% |
| Littelfuse の昔ながらのタイムラグ形 | 75℃で80% |
Littelfuse のガイドの例では、ふだん1.5A の回路で、このタイムラグ形を75℃で使うと、1.5÷(0.75×0.80)=2.5A のヒューズになります。25℃なら1.5÷0.75=2.0A なので、温度だけで1段階大きくなります。
データシートのグラフと表の読み方、条件の注記の見落としを防げる
つまり、温度の係数は「選んだヒューズのデータシートの曲線」で読む。種類によって1割から2割も違います。

STEP 2:速断(F)とタイムラグ(T)の違いと選び方
速断(F)は大きな電流ですばやく切れ、タイムラグ(T)は短い時間の大きな電流では切れにくい種類です。定格の4倍の電流なら、速断は0.01〜0.3秒、タイムラグは0.15〜3秒で切れます。
ヒューズの表面には「F2AL250V」や「T1.6AL250V」のような文字があります。先頭の F が速断、T がタイムラグ、そのあとが定格電流、L は遮断容量が小さい(low breaking capacity)品、最後が定格電圧です。
| 速断(F) | タイムラグ(T) | |
|---|---|---|
| 切れ方 | 大きな電流ですばやく切れる | 短い時間の大きな電流では切れにくい |
| 4倍の電流 | 0.01〜0.3秒 | 0.15〜3秒 |
| 向いている所 | 半導体や細いパターンを早く守りたい所 | 突入電流の大きい入口(大きなコンデンサ・モーター・トランス) |
| 気をつけること | 突入電流で切れやすい | こわれたときに切れるのも遅い |
この記事の例は、突入電流が小さめ(STEP 3 で確かめます)なので、速断(F)を候補にします。突入電流で切れてしまうときに、タイムラグ(T)を考えます。
つまり、まず速断(F)で考え、突入電流で切れるならタイムラグ(T)。速さと守りやすさは引きかえです。

STEP 3:突入電流を見積もる:ピーク=電圧÷抵抗
空のコンデンサにつないだ瞬間、電流は「電圧÷回路の抵抗」まで跳ね上がり、時定数 τ=R×C で減っていきます。12V・抵抗0.5Ω・220µF なら、ピーク24A・τ=0.11ms です。
電源を入れた瞬間、空のコンデンサは電線と同じように見えるので、電流を止めるものは電源の出口・ケーブル・コネクタ・コンデンサ自身の小さな抵抗だけです。この記事では、これらを合わせて0.5Ω とします(イメージの値です。実物は測って確かめます)。
電流はピークから、τ の時間ごとに約37%ずつに減っていきます。0.11ms はとても短い時間ですが、24A はふだんの電流の24倍です。
時定数 τ=R×C の意味と、電流が63%減るまでの時間の考え方がわかる
ヒューズが切れるかどうかは、電流の大きさだけでなく、流れた時間も合わせた「熱の量」で決まります。その目安が I²t(電流の2乗×時間)です。
電源の入口に置く大きめのコンデンサの役目と、突入電流が増える理由がわかる
つまり、突入電流は「大きいけれど短い」。熱の量に直すと 0.0317 A²s です。

突入電流のI²t÷0.22より、ヒューズの溶断I²tが大きいこと
ヒューズの溶断 I²t が、突入電流の I²t÷0.22(0.144A²s)より大きければ、10万回の電源の入り切りでも切れにくいと判断できます。例の候補はどれも合格です。
データシートには、ヒューズを溶かすのに必要な熱の量が「溶断 I²t(Melting I²t)」として載っています。これと、突入電流の I²t を比べます。
| 候補(Bel) | 溶断 I²t | 必要な値との比 | 判定 |
|---|---|---|---|
| チップ 0685P 2A | 0.2 A²s | 1.4倍 | 合格(余裕は小さい) |
| ガラス管 F 1.6A(0651C) | 4.4 A²s | 30.6倍 | 合格 |
| ガラス管 T 1.6A(0652C) | 8.15 A²s | 56.6倍 | 合格 |
チップヒューズは、同じくらいの定格でも溶断 I²t がずっと小さい点に注意します。もしコンデンサを470µF に増やすと、突入電流の I²t は0.0677A²s、必要な値は0.308A²s になり、2A のチップ(0.2A²s)では足りません。2.5A のチップ(0.6A²s)に上げる必要があります。
つまり、突入電流は I²t で比べる。コンデンサを増やしたら、ヒューズも計算し直します。

0.22はどこから?突入電流をくり返す回数で決まる係数
0.22 は、突入電流を10万回くり返しても切れないための係数です。Littelfuse の表では、くり返しが少ないほど大きくなり、100回なら48%です。
| くり返す回数 | 突入電流の I²t ÷ ヒューズの溶断 I²t |
|---|---|
| 100回 | 48%まで |
| 1,000回 | 38%まで |
| 1万回 | 29%まで |
| 10万回 | 22%まで |
ヒューズは、溶けない程度の大きな電流でも、流れるたびに中の金属が温まって冷え、少しずつ傷みます。回数が多いほど、1回あたりの熱の量を小さくしておく必要があります。
この記事の例は、1日10回の電源の入り切りを10年続けると、10×365×10=36,500回です。表の1万回と10万回の間なので、安全側の10万回(22%)の行で計算しました。
つまり、何回くり返すかを先に決め、表から係数を選ぶ。迷ったら10万回の22%で計算すると安全側です。

STEP 4:定格電圧は回路の電圧以上、交流用と直流用を取り違えない
ヒューズの定格電圧は、回路の電圧以上にします。さらに、交流(AC)と直流(DC)は別に確かめます。直流は電圧が0にならず、切れた所の火花(アーク)が消えにくいからです。
ヒューズの定格電圧は「この電圧までなら、切れたときに安全に電流を止められる」という値です。ふだんの使い方とは関係がなく、切れたあとの安全のための数字です。
交流は1秒に100〜120回、電圧が0V を通るので、切れた所の火花が自然に消えやすくなります。直流は電圧がずっと同じ向きなので、火花が続きやすく、ヒューズがこわれる危険があります。ヒューズメーカーの SOC も、回路と同じ種類(交流・直流)の定格のヒューズを選ぶよう書いています。
| 例(Bel) | データシートの定格電圧 | 12V 直流の回路では |
|---|---|---|
| チップ 0685P 2A | 直流63V・交流50V | 使える |
| ガラス管 0651C | 交流250V(直流は書かれていない) | メーカーに直流の定格を確かめる |
つまり、「250V だから12V でも平気」とは限らない。直流の回路では、直流の定格電圧が書かれたヒューズを選びます。

STEP 4:遮断容量はショートで流れうる最大の電流以上
遮断容量は、ヒューズが安全に切れる最大の電流です。ガラス管の小型ヒューズは35A(交流250V)の品もあり、ショートで流れうる電流がこれを超えると、ヒューズが割れたり火花が続いたりします。
| ヒューズ | 遮断容量 |
|---|---|
| Bel 0651C(ガラス管 F) | 交流250V で35A(または定格の10倍の大きいほう) |
| Bel 0652C 1.25〜3.15A(ガラス管 T) | 交流250V で100A |
| Bel 0685P 2〜8A(チップ) | 直流63V で100A |
| UL 248 の品(Littelfuse のガイド) | 交流125V で10,000A |
基板の入口でショートが起きたとき、どれだけの電流が流れるかは、電源で決まります。電流を制限する機能つきの小さな AC アダプタなら小さく、電池やコンセントの100V の入口では、とても大きな電流が流れることがあります。
反対に、ショートしても電源が小さな電流しか出せないと、ヒューズが切れないことがあります。たとえば 0685P の2A は、2.5倍の5A で5秒以内に切れる品です。電源が5A 以上を出せるかも、あわせて確かめます。
つまり、遮断容量は「大きすぎる電流」の確かめ、溶断の電流は「小さすぎる電流」の確かめ。どちらも電源の能力で決まります。

ガラス管とチップの違い:交換できるか・大きさ・I²t
ガラス管ヒューズはホルダーで交換でき、切れたのが目で見えます。チップヒューズは小さく実装機で載せられますが、交換はできず、同じ定格でも溶断 I²t が小さめです。
| くらべる点 | ガラス管(5×20mm) | チップ(1206 など) |
|---|---|---|
| 交換 | ホルダーで差し替えられる | はんだ付け。基本は交換しない |
| 切れたかの確かめ | 目で見てわかる | テスターで導通を測る |
| 大きさ | 大きい(ホルダー込み) | 小さい・実装機で載る |
| 溶断 I²t(2A) | 0651C で7.50A²s | 0685P で0.2A²s |
| 注意 | ホルダーは定格の60%以下で使う(Littelfuse の目安) | 直流の定格電圧が書かれた品が多い |
修理や点検でヒューズを替えたい機器(電源装置や計測器など)は、ガラス管とホルダーが向いています。小さな基板や、こわれたら基板ごと替える製品では、チップがよく使われます。
つまり、「交換させたいか」で形を決め、形が決まったら、その形のデータシートで STEP 1〜4 を確かめます。

例の答え:チップ0685Pの2A(ガラス管ならF1.6A)
例の基板(12V・ふだん1.0A・60℃・220µF)の答えは、チップの Bel 0685P の2A です。ガラス管なら速断の1.6A ですが、直流の定格電圧をメーカーに確かめます。
| ステップ | 確かめたこと | 結果 |
|---|---|---|
| STEP 1 定格電流 | 1.0÷(0.75×0.97)=1.37A | 1.6A 以上(チップは2A から) |
| STEP 2 溶断特性 | 突入電流は小さめ | 速断(F) |
| STEP 3 突入電流 | 0.0317÷0.22=0.144A²s | 2A のチップは0.2A²s で合格 |
| STEP 4 電圧・遮断 | 直流12V | 0685P は直流63V・100A |
| STEP 5 実機 | 電源の入り切り・ショート | 切れ方を確かめる |
確かめ:最低限ここだけ
余裕があれば
実物の基板で、電源を入れたときの電流をオシロスコープで測り、I²t を計算し直します。ヒューズメーカーの SOC は、コンデンサの電気を抜いてから測る、サーミスタ(温度で抵抗が変わる部品)があれば抵抗がいちばん小さくなる条件で測る、と書いています。最後に、ショートさせたときにヒューズが安全に切れるかを、最終の機器で確かめます。
つまり、計算は候補をしぼるため。最後は実機の試験で決めます。

早見表:ふだんの電流から選ぶヒューズの定格電流
ふだんの電流から定格電流を選ぶ早見表です。25℃は÷0.75、60℃は÷(0.75×0.97)で計算し、標準の値に切り上げました。
| ふだんの電流 | 25℃の計算 | 25℃で選ぶ | 60℃の計算 | 60℃で選ぶ |
|---|---|---|---|---|
| 0.3A | 0.40A | 0.5A | 0.41A | 0.5A |
| 0.5A | 0.67A | 0.8A | 0.69A | 0.8A |
| 0.8A | 1.07A | 1.25A | 1.10A | 1.25A |
| 1A | 1.33A | 1.6A | 1.37A | 1.6A |
| 1.5A | 2.00A | 2A | 2.06A | 2.5A |
| 2A | 2.67A | 3.15A | 2.75A | 3.15A |
| 3A | 4.00A | 4A | 4.12A | 5A |
標準の定格は、5×20mm のヒューズの系列(0.5・0.63・0.8・1・1.25・1.6・2・2.5・3.15・4・5A…)で選びました。チップヒューズは系列が違うので、選んだシリーズのデータシートで、計算した値以上の最も小さい定格を選びます。
つまり、表で出発点を決め、STEP 3・4 で確かめる。この順番なら迷いません。

ヒューズ選びのよくある失敗3つ
ヒューズ選びの失敗は、定格ぴったりで選ぶ・コンデンサを増やして突入電流を見直さない・交流用を直流に使う、の3つが代表です。
失敗1:定格ぴったりで選ぶ
ふだん1A の回路に1A のヒューズを入れると、すぐには切れなくても、熱で中の金属が少しずつ傷み、ある日切れます。ふだんの電流÷0.75÷温度の係数で選びます。
失敗2:コンデンサを増やして突入電流を見直さない
入口のコンデンサを220µF から470µF に増やすと、突入電流の I²t は0.0317から0.0677A²s へ、約2.1倍になります。2A のチップヒューズでは足りなくなり、電源を入れた瞬間に切れることがあります。回路を変えたら、STEP 3 をやり直します。
失敗3:交流用を直流に使う
交流250V の定格だけが書かれたヒューズを直流の回路に使うと、ショートしたときに火花が消えず、ヒューズがこわれることがあります。直流の回路では、直流の定格電圧が書かれた品を選びます。
つまり、「余裕を見る」「突入を比べる」「交流と直流を分ける」の3つを守れば、大きな失敗は防げます。

ヒューズの回路図記号:長方形の中を線が通る
ヒューズの回路図記号は、抵抗と同じ長方形の中を、端から端まで1本の線が通り抜ける形です。回路図では部品番号を F1・F2 のように F で始めることが多く、この記事の例の F1 もその書き方です。
中を通る線は、ヒューズの中の細い金属(エレメント)を表していると考えると覚えやすくなります。大きな電流が流れると、この線が溶けて切れる。抵抗の長方形には中の線がありません。見分けどころはそこだけです。
抵抗・コンデンサ・ダイオードなどほかの部品の記号と並べて、30個を1枚の早見表にした記事もあります。
ヒューズ・抵抗・コンデンサなど30個の記号を、実物の絵と並べて確かめられる。印刷用の1枚つき

