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フリーホイールダイオードは、回路図ではダイオード1個だけの小さな部品です。けれど、付け忘れたり向きを間違えたりすると、トランジスタが壊れたり、電源がショートしたりします。
この記事では、12V のリレーをトランジスタで ON/OFF する回路を1つ決めて、最初から最後までその回路で説明します。中学の理科(電流・電圧)がわかれば読めるように書きました。

フリーホイールダイオードとは:コイルの横の「逆向きのダイオード」
フリーホイールダイオードとは、コイル(リレー・モータ・ソレノイド)の両端に、ふだんは電流が流れない向きでつなぐダイオードです。
この記事で使う回路は次のとおりです。マイコンの合図でトランジスタが ON になると、+12V からリレーのコイルを通って GND へ電流が流れ、リレーが動きます。
| 部品 | この記事で使う値 | 役目 |
|---|---|---|
| リレーのコイル | 12V・400Ω(例)→ 30mA | 電流が流れると磁石になり、接点を動かす |
| トランジスタ | 2N3904(NPN) | マイコンの合図で、コイルの電流を ON/OFF する |
| ベース抵抗 | 1.6kΩ | マイコンから流す合図の電流を決める |
| フリーホイールダイオード | 1N4148 か 1N4007 | OFF の瞬間の電流の逃げ道 |
この回路のベース抵抗 1.6kΩ を、3ステップで計算して決める
呼び方はいろいろ。すべて同じもの
フリーホイールダイオードは、フライホイールダイオード・還流ダイオード・FWD とも呼ばれます。どれも同じ使い方を指します。
「フリーホイール」は、ペダルを止めても車輪が回り続ける自転車のしくみの名前です。スイッチを切っても、コイルの電流がダイオードを通って回り続けることから、こう呼ばれます。
つまり、フリーホイールダイオードは「コイルと並列・ふだんは流れない向き」の2つを守ってつなぐ、保護のためのダイオードです。

なぜ OFF の瞬間に高い電圧が出るのか:水道のたとえ
コイルは「電流の変化を嫌う」部品です。流れている電流を急に止めると、止めまいとして高い電圧(逆起電力)を出します。
コイルに電流が流れると、まわりに磁気ができ、そこにエネルギーがたまります。電流を止めようとすると、コイルはためたエネルギーで電流を流し続けようとします。
では、弁の手前に「ぐるっと回って戻る逃げ道の管」があったらどうでしょう。弁を閉めても水は輪の中を回り、だんだん勢いをなくして止まります。ガツンは起きません。この逃げ道が、フリーホイールダイオードです。
コイルが「電流の変化を嫌う」理由を、基本から確かめられる
つまり、逆起電力は「急に止めたこと」への反動です。逃げ道を用意して、ゆっくり止まらせればよいのです。

どれくらい高くなる? V=L×(電流の変化÷時間)で計算する
コイルが出す電圧は、電流の変化の大きさに比例し、止めるのにかかった時間に反比例します。止める時間が100分の1になれば、電圧は100倍です。
L はインダクタンスといい、コイルの「電流の変化の嫌いさ」の大きさです。単位は H(ヘンリー)です。
例として、L=0.1H(説明のための例)のコイルに流れていた 30mA を 0 にする場合を計算します。
| 止めるのにかかった時間 | 計算 | コイルに出る電圧 |
|---|---|---|
| 1ms(1000分の1秒) | 0.1 × 0.03 ÷ 0.001 | 3V |
| 0.1ms | 0.1 × 0.03 ÷ 0.0001 | 30V |
| 10µs(10万分の1秒) | 0.1 × 0.03 ÷ 0.00001 | 300V |
| 1µs(100万分の1秒) | 0.1 × 0.03 ÷ 0.000001 | 3,000V |
トランジスタは、1µs ほどの速さで電流を切ることができます。そのため、何も対策しないと電圧はどこまでも上がろうとします。実際には、どこかで電流が流れ出すところ(多くは、トランジスタが耐えきれなくなるところ)まで上がります。
リレーメーカーの TE Connectivity は、対策のない 12V のリレーは電源を切ったときに 1,000〜1,500V の電圧を出す可能性がある、と説明しています。
L が大きいほど電圧が高くなる理由と、公式の意味がわかる
つまり、電源が 12V でも、コイルを急に切ると何百V・何千V にもなりうる。この電圧からスイッチ素子を守るのがダイオードの役目です。

ダイオードがないと、OFF の瞬間に何が起きるか
ダイオードがないと、逆起電力が電源の 12V に上乗せされて、トランジスタのコレクタにかかります。耐圧を超えると、トランジスタが壊れます。
リレーの接点で火花が散る理由を、コイルのエネルギーの式から確かめられる
つまり、守りたいのはトランジスタ(スイッチ素子)です。コイルそのものが壊れるわけではありません。

ON のときと OFF の瞬間:電流の道を色で追う
ON のときは「+12V→コイル→トランジスタ→GND」。OFF の瞬間は「コイル→ダイオード→コイル」の輪。ダイオードに電流が流れるのは、OFF のあとだけです。
| ON のとき(赤) | OFF の瞬間(オレンジ) | |
|---|---|---|
| 電流の道 | +12V → コイル → トランジスタ → GND | コイル → ダイオード → コイル(輪) |
| ダイオード | 逆向きなので流れない | 順向きになり流れる |
| コイルの下の端(コレクタ) | 約0.2V | 12V+約1V=約13V で止まる |
| コイルの電流 | 30mA | 30mA から、だんだん減って0へ |
OFF の瞬間、コイルの下の端は+になろうとします。けれど、電源の電圧より約1V 高くなったところで、ダイオードが ON になって電流を流します。そのため、コレクタの電圧は約13V で止まり、40V まで上がりません。
輪の中を回る電流は、ダイオードの約1V とコイルの抵抗で少しずつエネルギーを熱として失い、やがて0になります。電源には戻りません。
つまり、ダイオードは「コレクタの電圧を 12V+約1V で頭打ちにする部品」です。

波形で見る:ダイオードがあるとき・ないとき
ダイオードがあると、OFF の瞬間の電圧は約13V で止まります。そのかわり、コイルの電流はすぐには0にならず、ゆっくり減ります。
| ダイオードなし | ダイオードあり | |
|---|---|---|
| コレクタの電圧 | 一瞬で耐圧を超えるほど跳ね上がる | 約13V で止まり、やがて 12V |
| コイルの電流 | 一瞬で0 | ゆっくり減って0 |
| トランジスタ | 壊れるおそれ | 安全 |
電流がゆっくり減る速さは、コイルのインダクタンス L と抵抗 R で決まります。L÷R が大きいコイルほど、ゆっくり減ります。
この「ゆっくり」が、あとで説明するフリーホイールダイオードの弱点(リレーが離れるのが遅れる)につながります。
つまり、ダイオードは電圧の跳ね上がりを止める代わりに、電流を長く残します。これが、ほかの保護方法との違いになります。

向きの覚え方:帯は「ふだん電圧が高い側」
ダイオードの帯(カソード)は、ふだん(ON のとき)電圧が高い側の、コイルの端に向けます。トランジスタが GND 側にある回路なら、電源の+側です。
品種によっては、ダイオードが中に入ったリレーやリレーモジュールもあります。その場合はコイルに+と−の向きが決まっているので、データシートの向きどおりにつなぎます。
帯や記号から、アノードとカソードを見分ける方法がわかる
つまり、迷ったら「ON のとき、このダイオードに電流は流れないか?」と指でたどります。流れるなら向きが逆です。

よくある失敗3つ:付け忘れ・逆向き・位置違い
フリーホイールダイオードの失敗は、付け忘れ・向きが逆・スイッチと並列につなぐ、の3つが代表です。
失敗1:付け忘れる
OFF のたびに、コレクタに高い電圧がかかります。1回で壊れることもあれば、ON/OFF を繰り返すうちに傷むこともあります。リレーやモータを動かす回路では、まずダイオードがあるかを確かめます。
失敗2:向きを逆にする
帯を GND 側(トランジスタ側)に向けると、ON にしたとたん、+12V → ダイオード → トランジスタ → GND と、コイルを通らずに電流が流れます。電源のショートです。
コイルにはほとんど電圧がかからないのでリレーは動かず、ダイオードやトランジスタが熱くなって壊れます。
失敗3:スイッチ(トランジスタ)と並列につなぐ
ダイオードをコレクタと GND の間(帯をコレクタ側)につなぐ間違いです。OFF の瞬間にコレクタが+に跳ね上がっても、このダイオードには逆向きの電圧なので電流が流れません。守れません。
MOSFET の中にあるダイオード(ボディダイオード)が役に立たないのも同じ理由です。必ず、コイルの両端につなぎます。
つまり、回路図を描いたら、ON の道と OFF の道を指でたどります。「ON で流れない・OFF で輪ができる」なら正解です。

選び方は3つ:耐圧・電流・速さ
フリーホイールダイオードは、耐圧(逆電圧)・平均電流・速さ(逆回復時間)の3つを、データシートで確かめて選びます。
① 耐圧:電源電圧の3倍以上を目安に
ON のとき、ダイオードには電源の 12V が逆向きにかかります。パナソニックのリレーの資料では、トランジスタでリレーを動かすときのダイオードの逆方向の電圧を「電源電圧の約3倍」としています。
例:12V × 3 = 36V 以上。1N4148(100V)も 1N4007(1000V)も足ります。
② 電流:コイルの電流と同じか、それ以上
OFF の瞬間、コイルに流れていた電流がそのままダイオードに流れます。同じ資料では、平均の電流の定格を「コイル電流と同等」としています。
例:12V ÷ 400Ω = 30mA 以上。1N4148(平均150mA)も 1N4007(1A)も足ります。
③ 速さ:ON/OFF の回数で決める
リレーのように1秒に数回までの ON/OFF なら、速さを気にしなくて構いません。一般整流用の 1N4007 で十分です。
PWM で1秒に何千回も ON/OFF するモータでは、ダイオードが「流れる」から「止まる」に切り替わる時間(逆回復時間 trr)が効いてきます。遅いと、次に ON にした瞬間にダイオードを通して大きな電流が流れ、損失やノイズが増えます。ショットキーバリアダイオードや高速用(UF4007 など)を選びます。
逆回復時間 trr が何を決めているのかが、たとえでわかる
つまり、12V の小型リレーなら「1N4148 か 1N4007」で迷う必要はありません。電流が大きいときと PWM のときだけ、もう一度データシートを見ます。

早見表:何に使う?でフリーホイールダイオードを選ぶ
答えだけ知りたい人向けの早見表です。どの行も、耐圧は電源の3倍以上・平均電流はコイル電流以上、を満たしているかを確かめてから使ってください。
| 使い方 | コイルの電流 | 選ぶ種類 | 型番の例(最大定格) |
|---|---|---|---|
| 小型リレー(5〜24V) | 〜100mA | 小信号用か一般整流用 | 1N4148(100V・平均150mA)、1N4007(1000V・1A) |
| リレー・ソレノイド(ときどき ON/OFF) | 〜1A | 一般整流用 | 1N4007(1000V・1A) |
| PWM で動かすモータ・ソレノイド | 〜1A | ショットキーか高速用 | 12V 以下:SS14(40V・1A)/24V:UF4007(1000V・1A・trr 75ns) |
| 1A を超えるもの | 1A 超 | 電流の大きい品種 | コイル電流以上の平均電流の品種をデータシートで選ぶ |
コイルの電流は「電源電圧 ÷ コイルの抵抗」で求めます。コイルの抵抗は、リレーやソレノイドのデータシートに載っています。
つまり、迷ったら 1N4007。PWM ならショットキーか高速用。1A を超えたら電流の定格から選び直す、の3通りで足ります。

リレー・モータ・ソレノイドでの使い分け
どれも直流のコイルなので、つなぎ方は同じです。違うのは、電流の大きさと、ON/OFF の回数です。
| リレー | DC モータ(PWM) | ソレノイド | |
|---|---|---|---|
| 電流(目安) | 数十mA | 数百mA〜数A | 数百mA〜数A |
| ON/OFF の回数 | ときどき | 1秒に何千回 | ときどき |
| 選ぶダイオード | 1N4148・1N4007 | ショットキー・高速用 | 電流の大きい一般整流用 |
| 気をつけること | 接点が離れるのが遅れる | OFF のたびに電流が流れるので発熱と平均電流 | 戻りを速くしたいならツェナーや抵抗を足す |
| 身の回りの例 | エアコン・給湯器・自動車の電装 | おもちゃ・ロボット・ファン | 洗濯機の給水弁・自動販売機 |
PWM で動かすモータでは、ダイオードは OFF のたびに電流を流します。ときどき流れるだけのリレーと違い、ダイオードの発熱と平均電流を必ず確かめます。
モータの回る向きを変える回路(Hブリッジ)では、4つのスイッチ素子それぞれのダイオードが、同じ逃げ道の役目をします。
つまり、「コイルが入っていて、直流で ON/OFF する」回路には、ほぼ必ずフリーホイールダイオードか、その代わりの保護が要ります。

弱点:OFF してからリレーが離れるまでが遅くなる
フリーホイールダイオードを付けると、コイルの電流がゆっくり減るので、リレーの接点が離れるのが遅れます。
輪の中で電圧を食うのは、ダイオードの約1V とコイルの抵抗だけです。電流を減らす力が弱いので、電流がなかなか減りません。リレーは、電流がある程度まで減ってはじめて接点を離します。
パナソニックや TE のリレーの資料は、ダイオードで復帰(接点が離れること)が遅れると、接点の電気的な寿命が短くなったり、軽く溶着したりすることがある、と注意しています。
つまり、ダイオードは「電圧を一番低く抑える代わりに、切れるのが遅い」方法です。遅れが困るかどうかで、次の一手を決めます。

速く切りたいとき:ツェナー・TVS・抵抗を組み合わせる
電流を速く減らすには、輪の中に「電圧を食う部品」を足します。ただし、そのぶんスイッチ素子にかかる電圧は高くなります。
| 方法 | つなぎ方 | スイッチにかかる電圧 | 12V の例 |
|---|---|---|---|
| ダイオード+ツェナー | ダイオードとツェナーを向かい合わせに直列にして、コイルと並列 | 12V+Vz+約1V | Vz=24V なら約37V |
| 双方向 TVS | 双方向の TVS をコイルと並列 | 12V+クランプ電圧 | TVS の品種で決まる |
| 抵抗+ダイオード | 抵抗とダイオードを直列にして、コイルと並列 | 12V+電流×R+約1V | 400Ω なら 12+12+1=約25V |
TE はリレーの接点の寿命のために、ダイオードとツェナーを直列にしてコイルと並列につなぐ方法を勧めています。パナソニックの資料にも、ダイオードだけで遅れすぎる場合に効果がある、と書かれています。
パナソニックの資料には、ツェナーダイオードをトランジスタのコレクタとエミッタの間(回路電圧の2倍以上)に付けて遅れを短くする方法も載っています。
ツェナーダイオードの向きと、ツェナー電圧の決め方がわかる
つまり、「速く切る」と「スイッチにかかる電圧」は引き換えです。速くしたぶん、スイッチ素子の耐圧に余裕を持たせます。

スナバ・TVS・バリスタとの違い:守るのはスイッチの側
逆起電力の対策は、ダイオードのほかに RC スナバ・TVS・バリスタがあります。どれも「コイルの電流の逃げ道」を作り、スイッチ(トランジスタやリレーの接点)を守る部品です。
| 方法 | 使える電源 | スイッチにかかる電圧(12V の例) | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| ダイオードだけ | 直流だけ | 約13V(いちばん低い) | リレー・小さなモータ |
| ダイオード+ツェナー | 直流だけ | 12+Vz+約1V | 早く離したいリレー・ソレノイド |
| 双方向 TVS | 直流・交流 | 12+クランプ電圧 | 向きを決めたくない所 |
| RC スナバ | 直流・交流 | R と C の値しだい | 交流のコイル・接点の保護 |
| バリスタ | 直流・交流 | 高め | 交流 100V・200V の機器 |
直流のコイルを ON/OFF するなら、まずフリーホイールダイオードです。交流のコイルにはダイオードが使えないので、RC スナバかバリスタを使います。
RC スナバがサージ電圧を吸収する仕組みがわかる
つまり、「直流ならダイオード、遅れが困るならツェナー、交流なら RC スナバかバリスタ」と覚えておけば、最初の選択で迷いません。

組んだら確かめる:テスターで向き、オシロで電圧
最低限、電源を入れる前にテスターで向きを確かめます。余裕があれば、オシロスコープで OFF の瞬間のコレクタの電圧を見ます。
最低限ここだけ:テスターで向きを見る
余裕があれば:オシロで OFF の瞬間を見る
オシロスコープの基本の使い方と、テスターとの違いがわかる
つまり、向きはテスター、効き目はオシロ。この2つで、フリーホイールダイオードが正しく働いているかを確かめられます。


