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逆接続保護回路は、直列ダイオード・PchMOSFET・ダイオードブリッジの3方式で、12V・1A なら損失はダイオード(1N4007)1.1W、PchMOSFET 0.05W と20倍以上ちがいます。選び方は早見表、電源を入れた瞬間の突入電流の抑え方は突入電流の節へ。
AC アダプタのプラグや電池は、向きを間違えて挿されることがあります。プラスとマイナスが逆になると、電解コンデンサや IC がこわれることがあります。これを防ぐのが逆接続保護回路です。
この記事では、12V の AC アダプタで動く基板を例に、3つの方式の損失と温度を実在の部品の数字で計算して比べます。後半では、電源を入れた瞬間の突入電流の抑え方も扱います。

電源の入口で起きる2つの事故:逆接続と突入電流
電源の入口では、逆接続(プラスとマイナスを逆に挿す)と突入電流(入れた瞬間の大きな電流)の2つが起きやすくなります。どちらも、電源をつないだ瞬間に起きる事故です。
逆接続:逆の電圧で部品がこわれる
電解コンデンサには向き(極性)があり、逆の電圧がかかるとこわれることがあります。IC やマイコンも、電源の端子に逆の電圧がかかると、中の回路に大きな電流が流れてこわれることがあります。
突入電流:入れた瞬間に大きな電流
電源の入口には、電圧を安定させるための大きなコンデンサがあります。空のコンデンサにつないだ瞬間は、充電のために大きな電流が一瞬流れます。コネクタに火花が出たり、ヒューズが切れたり、電源の電圧が一瞬落ちたりします。
つまり、逆接続は「向き」の事故、突入電流は「勢い」の事故。防ぐ部品も別々です。

この記事の例:12VのACアダプタで動く基板
例にするのは、12V の AC アダプタのプラグを挿して動き、ふだん1.0A が流れ、入口に470µF の電解コンデンサがある基板です。
| 項目 | この記事の例 |
|---|---|
| 電源 | 直流12V の AC アダプタ(プラグを差す) |
| ふだんの電流 | 1.0A |
| 入口のコンデンサ | 470µF(電解コンデンサ) |
| 回路の抵抗 | 0.5Ω(電源の出口・ケーブル・コンデンサを合わせたイメージ) |
逆接続の保護は、プラグのすぐ後ろに入れます。逆の電圧が、コンデンサや IC に届く前に止めるためです。突入電流の対策は、コンデンサの手前に入れます。
つまり、入口の順番は「プラグ → 逆接続の保護 → 突入の対策 → コンデンサ → 基板」が基本の形です。

方式1:ダイオードを直列に1本入れる
いちばん簡単なのは、プラスの線にダイオードを1本入れる方法です。正しく挿せば電流が流れ、逆に挿せばダイオードが電流を止めます。ただし、ダイオードで電圧が下がり、熱が出ます。
ダイオードは、電流を一方向にだけ流す部品です。アノード(三角の側)からカソード(線の側)へは流れ、逆向きには流れません。この性質で、逆に挿したときの電流を止めます。
ダイオードの「一方通行」のしくみと、向きの見分け方がわかる
| 部品(1A のとき) | 電圧の下がり(最大) | 損失 | 基板にかかる電圧 |
|---|---|---|---|
| 1N4007(ふつうのダイオード) | 1.1V | 1.1W | 10.9V |
| SS34(ショットキー) | 0.5V 以下 | 0.5W 以下 | 11.5V 以上 |
ショットキーダイオードは、電圧の下がりが小さい種類です。SS34 のデータシートの値は3A のときの最大0.5V なので、1A ではもっと小さくなります。
ダイオードで電圧が下がる理由と、損失の計算のしかたがわかる
つまり、直列ダイオードは「部品1個で確実」。そのかわり、電流×電圧の下がりの分だけ熱になります。

方式2:PchMOSFETを入口に入れる(向きが大事)
PchMOSFET を入口に入れると、ON のときは小さな抵抗(DMP3056L なら最大50mΩ)だけになり、1A で0.05V・0.05W しか失いません。逆に挿すと OFF になって電流を止めます。
MOSFET は、ゲート(G)とソース(S)の間の電圧で ON・OFF するスイッチです。P チャネル形(PchMOSFET)は、ゲートがソースより低い電圧になると ON になります。
MOSFET がゲートの電圧で ON・OFF するしくみを、基本から確かめられる
つまり、PchMOSFET は「部品が少し増えるかわりに、損失がダイオードの約20分の1」。電池や大きな電流の回路に向きます。

方式3:ダイオードブリッジならどちら向きに挿しても動く
ダイオードブリッジは、入力の向きがどちらでも、出力の向きをそろえます。そのかわり、電流はいつもダイオード2個を通るので、DF10S なら1.1V×2=2.2V 下がり、1A で2.2W の熱になります。
ブリッジは、交流を直流にする整流でよく使う部品です。直流の入力に使うと、プラスとマイナスのどちらを逆に挿しても、基板には正しい向きの電圧がかかります。
「向きを気にせず挿せる」のが最大の利点です。ただし、電圧の下がりと熱が3方式でいちばん大きく、12V が9.8V まで下がります。
ダイオードブリッジで交流を直流にする全波整流のしくみがわかる
つまり、ブリッジは「向きを決められない入力」のための方式。損失が大きいので、電流の小さい回路に向きます。

3方式の損失の比べ:12V・1AならPchMOSFETが最小
12V・1A で比べると、損失は ブリッジ2.2W > 1N4007 1.1W > SS34 0.5W 以下 > PchMOSFET 0.05W です。
| 方式(部品) | 電圧の下がり | 損失 | 基板にかかる電圧 |
|---|---|---|---|
| ダイオード(1N4007) | 1.1V | 1.10W | 10.90V |
| ショットキー(SS34) | 0.5V 以下 | 0.50W 以下 | 11.50V 以上 |
| ブリッジ(DF10S) | 2.2V | 2.20W | 9.80V |
| PchMOSFET(DMP3056L) | 0.05V | 0.05W | 11.95V |
ダイオードの損失は「電圧の下がり×電流」なので、電流に比例して増えます。MOSFET の損失は「電流²×ON の抵抗」なので、電流が2倍なら4倍になりますが、もとが小さいので、数アンペアまではダイオードより有利です。
つまり、損失を比べるときは「ダイオードは V×I、MOSFET は I²×R」。式を分けて計算します。

損失を温度に直す:上がる温度=熱抵抗×損失
損失に熱抵抗をかけると、部品の温度がまわりより何℃上がるかがわかります。ブリッジは約+88℃、1N4007 は約+55℃、PchMOSFET は約+4.5℃ です。
| 部品 | 損失 | 熱抵抗(データシート) | 上がる温度 |
|---|---|---|---|
| 1N4007 | 1.10W | 50℃/W | +55.0℃ |
| SS34 | 0.50W 以下 | 55℃/W | +27.5℃ 以下 |
| DF10S | 2.20W | 40℃/W | +88.0℃ |
| DMP3056L | 0.05W | 91℃/W | +4.5℃ |
箱の中が40℃なら、ブリッジは128℃近くになります。熱抵抗は基板の銅箔の広さで変わる目安なので、余裕が少ないときは、銅箔を広げるか方式を変えます。
つまり、電流が1A を超えるあたりから、ダイオードの熱が無視できなくなる。PchMOSFET が選ばれる理由です。

早見表:逆接続保護回路の3方式の選び方
迷ったら、電流が小さく安くしたいならダイオード、電流が大きい・電池で動かすなら PchMOSFET、向きを決められない入力ならブリッジ、と選びます。
| 方式(部品) | 下がる電圧 | 損失(12V・1A) | 部品の数 | 向いている所 |
|---|---|---|---|---|
| ダイオード(1N4007) | 1.1V | 1.1W | 1個 | 電流が小さい・安い |
| ショットキー(SS34) | 0.5V 以下 | 0.5W 以下 | 1個 | 電圧を下げたくない |
| PchMOSFET(DMP3056L) | 0.05V | 0.05W | 2〜3個 | 電流が大きい・電池 |
| ブリッジ(DF10S) | 2.2V | 2.2W | 1個 | 向きを決められない入力 |
PchMOSFET の部品の数は、ゲートの抵抗と、必要ならツェナーダイオードを足した数です。数字はデータシートの最大値で計算しました。
つまり、逆接続の保護は「電流の大きさ」と「向きを決められるか」の2つで選べます。

突入電流:空のコンデンサにつないだ瞬間の大きな電流
空のコンデンサにつないだ瞬間、電流は「電圧÷回路の抵抗」まで跳ね上がります。12V・抵抗0.5Ω なら24A です。抵抗を10Ω にすると、ピークは1.2A まで下がります。
電源を入れた瞬間、空のコンデンサは電線と同じように見えます。電流を止めるのは、電源の出口・ケーブル・コンデンサ自身の小さな抵抗だけです。この記事では合わせて0.5Ω とします(イメージの値です)。
抵抗を10Ω にすると、ピークは12÷10=1.2A、時定数は10×470µF=4.7ms になります。ピークが下がるかわりに、充電に時間がかかります。
時定数 τ=R×C の意味と、5τ でほぼ充電が終わる理由がわかる
つまり、突入電流は「抵抗を入れてピークを下げる」か「電圧をゆっくり上げる」かで抑えます。次の3つの方法は、この考え方の使い分けです。

対策1:NTCサーミスタ 冷たいと抵抗が大きく、温まると小さい
NTC サーミスタは、冷たいときは抵抗が大きく(Vishay SL1010003 は25℃で10Ω)、電流が流れて温まると小さくなります(3A で0.28Ω)。電源を入れた瞬間だけ突入電流を抑え、そのあとは損失を小さくできます。
AC100V の電源の入口では、整流したあとのピークが約141V になります。10Ω のサーミスタを入れると、突入電流のピークは141÷10=約14.1A に抑えられます。このとき470µF にたまる電気は4.7J で、SL10 の上限17J に入ります。
一方、12V の小さな基板には向きません。データシートでは1.5A で0.71Ω なので、1A ではそれより大きい抵抗が残り、0.7V 以上下がるからです。電圧の低い回路では、その下がりが大きく効きます。
入口の大きなコンデンサの役目と、容量を増やすと突入電流が増える理由がわかる
つまり、NTC サーミスタは「AC100V の入口の定番」。12V の基板では、次の2つのほうが向きます。

対策2:抵抗+リレー 充電が終わったら抵抗を短絡する
はじめは10Ω の抵抗を通して充電し(ピーク1.2A)、充電が終わったらリレーの接点で抵抗を短絡(ショート)します。5τ=23.5ms たてば、コンデンサは約99%まで充電されます。
抵抗で抑えて充電すると、コンデンサにたまる電気と同じだけの熱が、抵抗に出ます。一瞬の熱なので、パルスに強い抵抗を選びます。
つまり、抵抗+リレーは「抑える」と「損失0」を両立できる。そのかわり、リレーとタイミングの回路の分、部品が増えます。

対策3:ソフトスタート 電圧をゆっくり上げる
ソフトスタートは、基板の電圧をゆっくり上げる方法です。充電の電流は「C×電圧の上がる速さ」なので、12V を10ms かけて上げれば、470µF×12V÷10ms=0.56A に抑えられます。
作り方は2つあります。1つは、電圧の上がる速さを決められる専用の IC(ロードスイッチやホットスワップ IC など)を使う方法です。もう1つは、MOSFET のゲートにコンデンサと抵抗を付けて、ゆっくり ON にする方法です。
PchMOSFET を使えば、逆接続の保護とソフトスタートを1つの MOSFET で兼ねる回路も作れます。
つまり、ソフトスタートは「12V などの直流の基板」に向く方法。ピークを計算どおりに決めやすいのが利点です。

突入電流の対策3つの比べと選び方
AC100V の電源の入口なら NTC サーミスタ、大きな電源やインバータなら抵抗+リレー、12V などの直流の小さな基板ならソフトスタートが向いています。
| 方式 | よいところ | 気をつけること | 向いている所 |
|---|---|---|---|
| NTC サーミスタ | 部品1個・安い | ふだんも損失。入れ直しに弱い | AC100V の電源の入口 |
| 抵抗+リレー | ON のあとは損失ほぼ0 | 部品が多い・タイミングの回路 | 大きな電源・インバータ |
| ソフトスタート | ピークを決めやすい | MOSFET の熱(SOA) | 12V などの直流の基板 |
どれも「充電の電流を小さく、時間を長く」する工夫です。コンデンサにためる電気(½CV²=0.0338J)は変わらないので、抵抗やサーミスタで抑える方法では、その分の熱が部品に出ます。
確かめ:最低限ここだけ
余裕があれば
電源の入り切りをくり返して、サーミスタが温まったときや、リレーが入る前に切ったときの電流も確かめます。
つまり、方式は「電源の種類」で選び、最後は実物で逆挿しと入り切りの試験をします。

電源の入口の保護の並び方:役目の違う部品を組み合わせる
電源の入口には、ヒューズ・逆接続の保護・TVS ダイオード・突入電流の対策・コンデンサを、役目ごとに組み合わせます。1つの部品で全部は守れません。
| 部品 | 守るもの |
|---|---|
| ヒューズ | 部品がこわれてショートしたとき、電源から切り離す |
| 逆接続の保護 | プラスとマイナスを逆に挿したとき、電流を流さない |
| TVS ダイオード | 静電気や雷などの一瞬の高い電圧を逃がす |
| 突入電流の対策 | 入れた瞬間のコンデンサの充電の電流を小さくする |
並べる順番は回路と電源で変わります。たとえば、逆接続の保護をヒューズの後ろに置けば、MOSFET がこわれてショートしたときもヒューズが切れて守れます。
つまり、入口の保護は「何から守るか」を1つずつ書き出し、部品を割り当てていくと整理できます。

逆接続・突入電流の対策のよくある失敗3つ
よくある失敗は、PchMOSFET の向きを逆に付ける・NTC サーミスタが入れ直しで効かない・ブリッジの後ろの GND がずれる、の3つです。
失敗1:PchMOSFET の向きを逆に付ける
D と S を逆に付けると、ボディダイオードが逆接続のときにも電流を流してしまいます。回路図では正しく見えても、部品のピン配置を取り違えていることがあります。D を入力側、S を基板側に付け、逆挿しの試験で確かめます。
失敗2:NTC サーミスタが入れ直しで効かない
電源を切ってすぐ入れ直すと、温まったサーミスタの抵抗が小さいままなので、突入電流を抑えられません。入り切りの多い機器では、冷める時間を考えるか、ほかの方法を使います。
失敗3:ブリッジの後ろの GND がずれる
ブリッジの後ろの GND は、入力のマイナスとダイオード1個ぶんずれます。パソコンや測定器と GND をつなぐ回路では、思わぬ電流が流れて誤動作することがあります。
つまり、どれも「回路図では正しく見える」失敗。実物で逆挿しと入り切りの試験をすると見つかります。


