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電池で動かす回路が何時間もつかは、もつ時間=使える容量(mAh)÷平均電流(mA)で計算します。単3アルカリ2本・平均 0.52mA の例では約4000時間(約5か月)で、計算は3ステップ、電池ごとの目安は早見表にあります。
電池で動かす回路は、コンセントにつなぐ回路とちがって「いつか電池が切れる」回路です。だから設計の最初に、何時間もつかを計算しておく必要があります。
この記事では、電池で動かす回路の設計を、例の温度センサーを使って順に説明します。電池の数字は、Energizer・Panasonic のデータシートの値を使います。

この記事の例:単3電池2本で動く温度センサー
1分ごとに1秒だけ起きて温度を測って送り、残りの59秒は寝て待つ回路を例にします。単3アルカリ2本で、約5か月もつ計算になります。
マイコン(小さなコンピュータの IC)と温度センサーを、単3アルカリ電池2本(直列で 3.0V)で動かします。マイコンは 1.8〜3.6V で動く品を選び、電池から直接つなぎます。
電流の数字は、この記事の例として決めた値です。起きている間(温度を測って無線で送る間)は 30mA、寝ている間は 20µA(0.02mA)とします。実際の値は、使う部品のデータシートと測定で確かめます。
つまり、電池の回路では「何 mA 流れるか」だけでなく「どれだけの時間流れるか」を一緒に考えます。

mAh は「電流×時間」の量:もつ時間=容量÷電流
mAh(ミリアンペアアワー)は、電流と時間のかけ算です。2000mAh なら、100mA で約20時間、20mA で約100時間流せます。
電池の容量は、タンクに入った水の量にたとえられます。電流は、蛇口から出る水の勢いです。勢いを半分にすれば、同じタンクで2倍の時間、水を出せます。
2000mAh の電池なら、2000÷100=20 で、100mA を約20時間。2000÷20=100 で、20mA を約100時間です。
mAh と Wh の意味を、電池の中で起きている化学反応から理解できる
つまり、容量を電流で割れば時間が出ます。ただし、その「電流」をどう決めるかが次の問題です。

電流は「寝ている時間」と「起きている時間」でちがう
電池で動かす回路の電流は、ずっと同じではありません。起きている短い時間に大きく流れ、寝ている長い時間は小さく流れます。寿命は、その平均で決まります。
例の回路の電流を時間で描くと、1分ごとに高さ 30mA・幅1秒の細い山が立ち、その間はほとんど0に見えるほど小さな 20µA が続きます(図はイメージ)。
電池から見ると、この山とすそが全部合わさって減っていきます。山の面積をならして、1分間に平らに流したと考えた高さが「平均電流」です。
つまり、電池の寿命は「いちばん大きな電流」ではなく「ならした平均の電流」で決まります。

平均電流の計算:起きている分と寝ている分を足す
平均電流=(起きている電流×時間+寝ている電流×時間)÷1周期 です。例の回路では約0.52mA になります。
1周期(1回の「起きる+寝る」)は60秒です。起きている時間が1秒、寝ている時間が59秒です。
起きている分:30mA×1秒÷60秒=0.50mA
寝ている分:0.02mA×59秒÷60秒=約0.020mA
合計:0.50+0.020=約0.52mA。平均の約96% は、1秒しかない「起きている分」です。
起きている間の電流を、部品表から1つずつ足して見積もる手順がわかる
つまり、平均電流は2つの分の足し算です。大きいほうを先に減らすと、電池が長くもちます。

何時間もつかを出す3ステップ
STEP1 で平均電流を出し、STEP2 で使える容量を決め、STEP3 で割り算をして、電池の電圧が下がっても回路が動くかを確かめます。
係数の 0.7 は、この記事の目安です。寒い所で使う、電池が古い、止まる電圧が高い、といった条件では、もっと小さく見込みます。
つまり、「平均電流」「使える容量」「電圧の範囲」の3つがそろえば、何時間もつかが決まります。

アルカリ電池の容量は、流す電流が大きいほど減る
アルカリ電池は、流す電流が大きいと使える容量が減ります。単3アルカリ(Energizer E91)は、25mA で約3000mAh、500mA では約1500mAh です。
Energizer の単3アルカリ「E91」のデータシートには、0.8V まで流し続けたときの容量のグラフがあります。読み取ると、25mA で約3000mAh、100mA で約2500mAh、250mA で約2000mAh、500mA で約1500mAh です(グラフの読み取りなので目安)。
電流が大きいと、電池の中の化学反応が追いつかず、電池の中の抵抗(内部抵抗)でも電圧が下がるので、早めに止まる電圧に届いてしまいます。
ニッケル水素電池やリチウムイオン電池は、アルカリ電池より内部抵抗が小さく、大きな電流でも容量が減りにくい電池です。モーターや無線の送信のように大きな電流が流れる回路では、この差が効いてきます。
電流×時間(mAh)と電力×時間(Wh)のちがいを、速さと距離のたとえで整理できる
つまり、電流の小さな回路は容量をほぼ使い切れますが、電流の大きな回路では、データシートの大きな数字をそのまま使えません。

電池の種類で、電圧の下がり方(放電カーブ)がちがう
アルカリ電池はだんだん電圧が下がり、ニッケル水素電池は平らに続いて最後に急に下がります。リチウムイオン電池は 4.2V から少しずつ下がり、最後に急に下がります。
各社のデータシートのグラフを読み取って、横軸を「使った割合」にそろえて並べました(形のイメージ)。
アルカリ(1本 1.5V):だんだん下がる
新品の約1.5V から少しずつ下がり、半分を使ったころには約1.3V、終わりのほうで 1V を下回ります。電圧を見れば、残りがおおよそわかります。
ニッケル水素(1本 1.2V):平らで、最後に急に落ちる
約1.25V でほぼ平らに続き、最後に急に下がります。乾電池用の機器に使うと、最初から 1.2V なので少し低めですが、途中で下がりにくいのが良い点です。
リチウムイオン(1本 3.6V):4.2V から下がって、最後に急に落ちる
満充電の約4.2V から約3.5V まで少しずつ下がり、最後に急に下がります。1本で 3.6V(公称)あるので、3.3V の回路にちょうどよく見えますが、次の節のように注意が要ります。
つまり、電池を選ぶときは「何 V の電池か」だけでなく「どこまで下がるか」を見ます。

電池の組み合わせで、電圧の範囲が決まる
電池を何本つなぐかで、新品のときと終わりのときの電圧の範囲が決まります。3.3V の LDO を使うなら、入力は約3.54V 以上が要ります。
1本の電圧の範囲を、この記事では次の目安で考えます。アルカリ 1.6→0.9V、ニッケル水素 1.4→1.0V、リチウムイオン 4.2→3.0V(止める電圧は回路で決めます)。
| 電池 | 電圧の範囲(目安) | 3.3V の LDO で使えるか |
|---|---|---|
| アルカリ 2本 | 3.2→1.8V | 使えない(いつも足りない) |
| アルカリ 3本 | 4.8→2.7V | 途中まで(約73%) |
| ニッケル水素 3本 | 4.2→3.0V | 途中まで |
| ニッケル水素 4本 | 5.6→4.0V | 最後まで使える |
| リチウムイオン 1本 | 4.2→3.0V | 途中まで(約70%) |
3.3V の LDO に要る入力は、3.3V+ドロップアウト電圧(LDO が出力を保つのに最低限いる差)です。TLV755P は 500mA で最大 0.238V なので、3.3+0.238=約3.54V としました(小さな電流ではもっと小さくて済みます)。
アルカリ3本なら、1本あたり約1.18V を下回ると 3.3V を保てません。E91 の放電カーブで計算すると、使えるのは約73% です。リチウムイオン1本は約3.54V までなので、約70% です(どちらも読み取ったカーブから計算した目安)。
つまり、電池の電圧の範囲が「必要な電圧の線」をまたぐかどうかで、使い切れるかが決まります。

電池の電圧の範囲で、レギュレータを選ぶ
電池の電圧がいつも必要な電圧より上なら LDO、いつも下なら昇圧、線をまたぐなら昇降圧か、出力の電圧を下げる、が基本です。
いつも上:LDO(静止電流の小さい品)
ニッケル水素4本(5.6→4.0V)から 3.3V を作るなら、最後まで入力が 3.54V より上なので LDO で使えます。電流が小さい回路なら、熱の問題もほとんど出ません。
いつも下:昇圧(ブースト)か、直接つなぐ
アルカリ2本(3.2→1.8V)では、3.3V は作れません。3.3V がどうしても要るなら、電圧を上げる昇圧の回路(ブーストコンバータ)を使います。例のように、1.8〜3.6V で動くマイコンを選んで電池から直接つなげば、レギュレータが要らず、むだも出ません。
線をまたぐ:昇降圧か、出力を下げる
リチウムイオン1本(4.2→3.0V)は、はじめは 3.3V より上、終わりは下です。最後まで使い切るなら、上げも下げもできる昇降圧の回路を使います。または、部品が許すなら出力を 3.0V にするなど、必要な電圧を下げる方法もあります。
LDO と DC-DC のどちらを選ぶかを、損失と温度の計算で決める手順がわかる
電池の電圧より高い電圧を作る昇圧の回路が、なぜ電圧を上げられるのかがわかる
つまり、先に電池の電圧の範囲を書き出し、必要な電圧と比べてから、レギュレータの方式を決めます。

電池の回路は、レギュレータの「静止電流」で寿命が変わる
レギュレータは、自分自身もいつも電流を使います(静止電流)。電池の回路では、この電流が寿命を大きく左右します。
例の回路(平均 0.52mA)をニッケル水素4本(2000mAh×0.7=1400mAh)で動かし、3.3V の LDO を足す場面で比べます。
TLV755P(静止電流 25µA=0.025mA):平均=0.52+0.025≒0.545mA、1400÷0.545≒2570時間=約107日。
LM1117(静止電流 5mA):平均=0.52+5=5.52mA、1400÷5.52≒254時間=約11日。
LM1117 は、USB や AC アダプタで動かす回路では定番の LDO です。ところが、静止電流 5mA は、例の回路が平均で使う電流の約10倍です。回路が寝ていても、レギュレータが電池を食べてしまいます。
つまり、電池の回路では「出せる電流」より先に「自分が使う電流」でレギュレータを選びます。

リチウムイオン電池には、保護回路と充電 IC が要る
リチウムイオン電池は、充電しすぎ・使いすぎ・流れすぎで傷んだり、発熱したりします。充電は専用の充電 IC で行い、電池には保護回路をつけます。
充電:定電流→定電圧で 4.20V まで
NCR18650B のデータシートでは、充電は「定電流・定電圧(CC-CV)で 4.20V」と決められています。はじめは一定の電流で充電し、4.20V に届いたら電圧を一定に保って、電流が小さくなったら止めます。
この手順を自動でやるのが充電 IC です。Microchip の MCP73831 は 4.20V で充電し、充電の電流を抵抗1本(PROG の抵抗)で決めます。電流〔mA〕=1000÷抵抗〔kΩ〕で、10kΩ なら 100mA、2kΩ なら約500mA です。
保護:過充電・過放電・過電流で切る
TI の BQ2970 のような保護 IC は、電池の電圧と電流を見張り、外付けの MOSFET(電気で ON/OFF するスイッチ)2個で電流を止めます。BQ29700 なら、4.275V を超えると充電を、2.8V を下回ると放電を止めます。流れすぎやショートでも切ります。
つまり、リチウムイオン電池は「充電 IC+保護回路」がセットです。自分で一から作らず、決まった部品を組み合わせます。

リチウムイオン電池の電圧:使ってよい範囲は決まっている
リチウムイオン電池は、4.2V を超えて充電せず、空っぽ(2.5V)まで使い切らないのが基本です。回路で止める電圧を決めておきます。
NCR18650B のデータシートでは、充電は 4.20V まで、放電の試験は 2.50V までです。公称の電圧は 3.6V で、ふだんはこの近くで使います。
保護回路は、その外側で働く最後の砦です。BQ29700 の例では、4.275V で充電を、2.8V で放電を止めます。保護回路が働く前に、回路の側でも止める電圧(例:3.0V でマイコンを止める)を決めておくと、電池が傷みにくくなります。
つまり、充電の上限と使う下限は、データシートと保護回路の値で決まっています。回路でもその内側で止めます。

早見表:平均電流と電池から、もつ時間の目安
平均電流がわかれば、電池1本あたりのもつ時間の目安がわかります。使える容量はデータシートの容量×0.7 で計算しました。
| 平均電流 | 単3アルカリ(3000mAh) | 単3ニッケル水素(2000mAh) | 18650 リチウムイオン(3200mAh) |
|---|---|---|---|
| 0.1mA | 約2.4年 | 約1.6年 | 約2.6年 |
| 0.5mA | 約6か月 | 約4か月 | 約6か月 |
| 1mA | 約3か月 | 約58日 | 約3か月 |
| 5mA | 約18日 | 約12日 | 約19日 |
| 10mA | 約9日 | 約6日 | 約9日 |
| 50mA | 約42時間 | 約28時間 | 約45時間 |
容量は、E91(25mA・0.8V まで)、NH15-2000(定格)、NCR18650B(定格)の値です。いずれも電池1本で計算しました。直列に2本つないでも、mAh は1本分のままです(電圧が2倍になります)。
1年を超える値は、電池が使わなくても少しずつ減る分(自己放電)で短くなります。ニッケル水素は自己放電が大きい種類があるので、何か月も使う回路では、自己放電の少ない品を選ぶか、アルカリやリチウム一次電池を考えます。
つまり、平均電流が 1mA なら単3で約3か月、0.1mA なら1年を超えるのが目安です。

確かめ:電池と回路の間にテスターを入れて電流を測る
計算に使った「寝ている電流」と「起きている時間」が設計どおりかを、実物で測って確かめます。
最低限ここだけ(2つ)
1つ目は寝ている電流です。テスター(電圧や電流を測る道具)を電流のレンジにして、電池の+と回路の+の間に割り込ませます(直列)。µA のレンジで、20µA 前後になっているかを見ます。思ったより大きければ、どこかの部品が寝ていません。
2つ目は、電池の電圧が下がったときに動くかです。電源装置で電圧を少しずつ下げ、止まる電圧(例では 1.8V)近くでも、温度を測って送れるかを確かめます。
余裕があれば
起きている 1秒の電流の形は、テスターでは速すぎて読めません。小さな抵抗(例:1Ω)を電池と回路の間に入れ、その両端の電圧をオシロスコープで見ると、山の高さと幅がわかります。
つまり、計算は「見当」、測定が「答え合わせ」です。特に寝ている電流は、必ず一度測ります。

電池で動かす回路のよくある失敗4つ
多い失敗は、レギュレータの静止電流・止まる電圧の見落とし・大きな電流による容量の減り・リチウムイオンの扱いの4つです。
失敗1:レギュレータが電池を食う
静止電流 5mA の LDO を使うと、回路が寝ていても電池が減り続けます。例では寿命が約107日から約11日になります。µA 台の品を選びます。
失敗2:止まる電圧を見ていない
容量を使い切る前に、電池の電圧が回路の動く下限を下回ります。3.3V の LDO にアルカリ3本では、約73% のところで 3.3V を保てなくなります。
失敗3:大きな電流で容量が減る
アルカリ電池は 500mA だと容量が約半分です。モーターや無線の送信のように山が大きい回路では、容量を小さめに見込むか、ニッケル水素やリチウムイオンを選びます。
失敗4:リチウムイオンを直に充電する
保護回路のないセルを、ふつうの電源で充電してはいけません。充電 IC と保護回路をセットで使います。
つまり、平均電流の計算に加えて、「レギュレータの電流」「電圧の範囲」「大きな電流」「リチウムイオンの扱い」の4つを確かめれば、電池の回路は大きく外しません。


