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消費電流の計算は、部品ごとにデータシートの typ(ふだん)と max(最大)を拾い、電源ごとに足して、ピークに余裕をかけて電源を選ぶ順で進めます。手順は5ステップの節、Wi-Fi マイコン基板で足した例は5V系の電流の積み上げにあります。
消費電流の見積もりは、回路図を描き終えたら最初にやる計算です。電源が足りないと、マイコンがリセットしたり、レギュレータが熱くなったりします。作ってから気づくと、電源の部品や基板を作り直すことになります。
この記事では、USB の5V で動く小さな基板を例に、部品表から電源の容量を決めるまでを順に計算します。数字は実在の部品のデータシートから拾います。

この記事で見積もる基板:USB 5VのWi-Fiマイコン基板
例にするのは、USB の5V で動き、Wi-Fi マイコン・センサ・表示用 LED・リレーが載った小さな基板です。リレーは5V から直接、そのほかは5V を3.3V に下げて使います。
部品は次の5つです。電子工作でも仕事でもよく見る組み合わせです。
| 部品 | この記事の型番 | つなぐ電源 |
|---|---|---|
| マイコン(Wi-Fi つき) | ESP32-WROOM-32E | 3.3V |
| 温湿度・気圧センサ | BME280 | 3.3V |
| 表示用 LED | 赤色・130Ω | 3.3V(マイコンの端子) |
| リレー | Omron G5V-1(5V) | 5V(トランジスタで ON/OFF) |
| レギュレータ | TI LM1117-3.3 | 5V → 3.3V |
ここで大事なのは、電流の流れる道が2本あることです。リレーは USB の5V から直接、マイコンやセンサはレギュレータを通った3.3V から電流をもらいます。
つまり、この記事のゴールは「5V で何 mA 流れるか」を出し、電源とレギュレータが足りるかを確かめることです。

なぜ消費電流を見積もる?足りないと起きる3つのこと
消費電流が電源の能力を超えると、電圧が下がってマイコンがリセットする・レギュレータが熱くなる・USB の上限を超える、の3つが起きます。
1. 電圧が下がる
電源が電流を出しきれないと、電圧が下がります。マイコンは電圧が下がるとリセットするので、「ときどき再起動する」という見つけにくい不具合になります。Wi-Fi の送信のように、電流が一瞬だけ増える所で起きやすくなります。
2. 部品が熱くなる
この記事のレギュレータ(リニアレギュレータ)は、下げた電圧の分を熱にします。電流が多いほど熱くなり、ひどいと保護の働きで出力が止まります。
3. 電源の上限を超える
パソコンの USB 2.0 のポートから取り出せる電流は、500mA までです。超えると、給電が止まったり、電圧が下がって動きが不安定になったりします。
つまり、見積もりは「作る前に電源の能力と比べる」ための計算。後から直すほど手間が大きくなります。

データシートの電流はtypとmaxで3倍以上違う
データシートの電流は、いつの値かで大きく違います。ESP32 は Wi-Fi の受信中が112mA、送信の瞬間のピークは379mA で、約3.4倍です。
データシートの電流の表には、ふつう typ(ふつうの値)と max(最大の値)、または平均(Average)とピーク(Peak)が並んでいます。
| ESP32-WROOM-32E の動き | 平均 | ピーク |
|---|---|---|
| Wi-Fi で受信している | 112mA | 112mA |
| Wi-Fi で送信(802.11n) | 183mA | 258mA |
| Wi-Fi で送信(802.11b・最大出力) | 239mA | 379mA |
見積もりでは、両方を拾います。ふだんの値(typ)は発熱や電池の持ちに、いちばん大きい瞬間の値(max・ピーク)は電源の能力を決めるのに使います。
データシートの min・typ・max と、表の下の条件の注記の読み方がわかる
つまり、電流は1つの数字ではなく「ふだん」と「最大」の2つ。この記事では、typ=受信の112mA、max=送信のピーク379mA を使います。

消費電流の見積もりは5ステップ
消費電流の見積もりは、部品を書き出す・typ と max を拾う・電源ごとに足す・余裕をかけて電源を選ぶ・熱を確かめる、の5ステップです。
このあと、例の基板で STEP 1 から順に計算します。
つまり、足し算そのものは簡単。迷うのは「どの値を拾うか」と「どこで分けて足すか」の2つです。

STEP 1・2:部品を書き出し、typとmaxを拾う
例の基板の3.3V 系は typ 123.6mA・max 392.7mA、5V 系の合計は typ 158.6mA・max 437.7mA です。小さな電流も書き出すのが足し忘れを防ぐコツです。
| 部品 | typ | max | 根拠 |
|---|---|---|---|
| マイコン(ESP32) | 112mA | 379mA | 受信112・送信のピーク379 |
| センサ(BME280) | 0.004mA | 0.71mA | 1秒に1回測る平均3.6µA・気圧の測定中714µA |
| プルアップ 4.7kΩ×2 | 0mA | 1.40mA | 通信の線が L のとき 0.70mA×2 |
| 表示用 LED | 10.0mA | 10.0mA | (3.3−2.0)÷130Ω |
| トランジスタのベース電流 | 1.6mA | 1.6mA | (3.3−0.7)÷1.6kΩ |
| 3.3V 系の合計 | 123.6mA | 392.7mA | |
| レギュレータ自身 | 5mA | 10mA | LM1117 の自分の電流 |
| リレーのコイル(5V) | 30mA | 34.9mA | 定格30mA。max は5.25V÷(167Ω×0.9) |
| 5V 系の合計 | 158.6mA | 437.7mA | USB から流れる電流 |
データシートに電流の表がない部品は、自分で計算します。LED・プルアップ・ベース電流は、どれもオームの法則(電流=電圧÷抵抗)で出せます。
リレーの max は、コイルの抵抗の許容差(±10%)と、USB の電圧の上限(5.25V)を使って計算しました。抵抗が10%小さく、電圧が高いときに、電流がいちばん大きくなるからです。
マイコンの端子でリレーを動かすときのベース抵抗(1.6kΩ)の決め方がわかる
表示用 LED の130Ω と、10mA の電流の計算がわかる
つまり、STEP 1・2 の答えは「部品ごとの typ と max の表」。根拠の欄を書いておくと、あとで見直すときに迷いません。

STEP 3:電源ごとに足す
3.3V 系の電流は、レギュレータを通って5V からも流れます。5V 系の合計は、レギュレータの入口の電流 128.6mA に、リレーの30mA を足した 158.6mA(typ)です。
この記事のレギュレータ(リニアレギュレータ)は、電流を「通すだけ」の部品です。出口で124mA 流れていれば、入口にもほぼ同じ124mA が流れ込みます。そこに、レギュレータ自身が使う電流(LM1117 は typ 5mA)が足されます。
ピークも同じように足します。(392.7+10)+34.9=437.7mA。
つまり、足すときは「どの電源から流れるか」で分ける。リニアレギュレータなら、出口の電流をそのまま入口に足します。

5V系の電流の積み上げ:ふだん159mA、ピーク438mA
5V 系の電流を部品ごとに積み上げると、ふだんは約159mA、ピークは約438mA です。どちらも大半はマイコンで、ピークはふだんの約2.8倍になります。
積み上げた棒で見ると、どの部品が効いているかがひと目でわかります。この基板では、マイコンが7〜9割を占めています。
電流を減らしたいときは、大きい部品から手をつけます。センサやプルアップを減らしても、合計はほとんど変わりません。Wi-Fi の送信の回数を減らす・使わないときは眠らせる、のようにマイコンの使い方を変えるほうが効きます。
つまり、積み上げると「どこを減らせば効くか」が見える。見積もりは、電源を選ぶだけでなく、電流を減らす手がかりにもなります。

消費電流は時間で変わる:突入電流・ピーク・ふだん
基板の電流は一定ではありません。電源を入れた瞬間の突入電流、Wi-Fi の送信のピーク、リレーの ON で、時間とともに上下します。
電源を入れた瞬間は、基板のコンデンサを充電するために、大きな電流が一瞬だけ流れます。これを突入電流と呼びます。その後は、ふだんの電流に落ち着きます。
Wi-Fi の送信は、短い時間に何度もくり返されます。そのたびに、電流がピークまで跳ね上がります。リレーを ON にすると、コイルの30mA が足され、ふだんの電流が一段上がります。
電源の近くに置く大きめのコンデンサの役目と、容量の決め方がわかる
つまり、電流は「一瞬の大きな値」と「ふだんの値」に分けて考える。図の波形は形をわかりやすくしたイメージです。

ピークと平均の使い分け:何を決めるかで見る値が違う
電源の容量はピーク(max)で、レギュレータの発熱や電池の持ちは平均(typ)で決めます。
| 決めたいもの | 使う値 | この例 |
|---|---|---|
| 電源(アダプタ・USB)の容量 | ピーク | 438mA |
| レギュレータの最大出力電流 | ピーク | 393mA(LM1117 は800mA) |
| レギュレータの発熱・温度 | 平均 | 約0.24W |
| 電池でどれだけ動くか | 平均 | 159mA |
熱は、時間をかけてたまります。一瞬のピークでは温度はほとんど上がらないので、発熱は平均の電流で計算します。反対に、電源の能力は一瞬でも足りないと電圧が下がるので、ピークで決めます。
つまり、「一瞬で困るもの」はピーク、「たまって困るもの」は平均。迷ったらこの言葉で振り分けます。

STEP 4:ピークに余裕をかけて電源を選ぶ
ピーク 438mA に余裕率1.5倍をかけると約657mA。パソコンの USB 2.0 のポート(500mA)では足りず、5V・1A のアダプタを選びます。
見積もりには、データシートにない電流や、部品のばらつきが入りきりません。そのため、電源の容量には余裕を持たせます。この記事では、ピークの1.5倍を目安にします。
| 電源 | 出せる電流 | ピークに対する余裕 | 判定 |
|---|---|---|---|
| パソコンの USB 2.0 のポート | 500mA | 1.14倍 | 余裕が足りない |
| 5V・1A の USB アダプタ | 1000mA | 2.3倍 | OK |
ESP32 のデータシートも、外部の電源から0.5A 以上を出せることを求めています。マイコンだけで0.5A なので、ほかの部品を足すとさらに余裕が要ります。
つまり、電源は「ピーク×余裕率」以上。USB で動かすなら、ポートではなく1A 以上のアダプタを前提にします。

STEP 5:レギュレータの発熱=(入力−出力)×電流
リニアレギュレータの発熱は、下げた電圧×電流です。5V を3.3V に下げて124mA 流すと、自分の電流の分と合わせて約0.24W になります。
ふだん:(5.0−3.3)×0.1236A=0.210W。自分の電流の分は 5.0V×0.005A=0.025W。合計 約0.24W です。
送信を続け、USB の電圧が上限の5.25V のときは、出口の電流が約253mA、自分の電流を最大の10mA として、(5.25−3.3)×0.2527+5.25×0.010=約0.55W です。
つまり、発熱は「電圧の差×電流」。5V→3.3V の差は1.7V なので、電流が少なければ小さな熱で済みます。

発熱を温度に直す:上がる温度=熱抵抗×電力
上がる温度は、熱抵抗×電力で計算します。LM1117(SOT-223)の熱抵抗は61.6℃/W なので、ふだんの0.24W で約14.5℃、送信を続けた0.55W で約33.6℃上がります。
| 場面 | 電力 | 上がる温度 | チップの温度 |
|---|---|---|---|
| ふだん(部屋25℃) | 0.235W | +14.5℃ | 約39℃ |
| 送信を続ける(箱の中40℃) | 0.545W | +33.6℃ | 約74℃ |
LM1117 のチップの温度の上限は125℃ なので、どちらも余裕があります。
熱抵抗を「熱のオームの法則」として、温度の計算をもう一歩深く理解できる
つまり、発熱は温度に直して上限と比べる。0.5W を超えるあたりから、基板の作りまで気にします。

もう1つの確かめ:レギュレータの入力電圧の下限
LM1117 で3.3V を出すには、入力が約4.55V 以上要ります。USB の電圧の下限4.75V との差は0.2V しかありません。
リニアレギュレータは、出力より少し高い入力がないと、出力の電圧を保てません。この差の最小値をドロップアウト電圧と呼びます。LM1117 は500mA のとき最大1.25V です。
USB 2.0 の電圧は、5V の±5%(4.75〜5.25V)と決められています。下限の4.75V でも4.55V を上回るので動きますが、差は0.2V だけです。
細く長い USB ケーブルや、抜き差しの多いコネクタでは、電流が流れると電圧が下がります。ピークの電流が流れた瞬間に4.55V を切ると、3.3V が保てなくなります。
つまり、電流だけでなく「電圧が足りるか」も確かめる。差が小さいときは、ドロップアウトの小さいレギュレータを選ぶ手があります。

足し忘れやすい電流4つ:プルアップ・レギュレータ自身・ベース・LED
見積もりで足し忘れやすいのは、プルアップ抵抗・レギュレータ自身の電流・トランジスタのベース電流・点けっぱなしの LED の4つです。
| 電流 | 流れるとき | この例 |
|---|---|---|
| プルアップ抵抗 | 線が L の間だけ | 3.3V÷4.7kΩ=0.70mA×2本 |
| レギュレータ自身 | いつも | typ 5mA・max 10mA |
| ベース電流 | リレーを ON にしている間 | (3.3−0.7)÷1.6kΩ=1.6mA |
| 表示用 LED | 点いている間 | (3.3−2.0)÷130Ω=10mA |
1つずつは小さくても、数が集まると効きます。電池で動かす基板では、ふだんの電流の数 mA が、電池の持ちを大きく左右します。
プルアップ抵抗の役目と、値を大きくすると電流が減るしくみがわかる
つまり、部品表を上から順に見て「この部品に電流は流れるか」を1行ずつ確かめる。これだけで足し忘れはほぼ防げます。

作ったら測って確かめる:USBの電流チェッカーとテスター
基板ができたら、電流を測って見積もりと比べます。USB の電流チェッカーなら挿すだけ、テスターなら線を切って直列に入れて測ります。
テスターやチェッカーは、表示が落ち着くまでの平均に近い値を示します。Wi-Fi の送信のような一瞬のピークは追えません。ピークを見たいときは、電流を測る専用の抵抗(シャント抵抗)の電圧をオシロスコープで見ます。
見積もりより大きく多いときは、足し忘れか、部品の不具合(はんだのショート・向きの逆)を疑います。
電流や電圧がおかしいとき、電源→GND→リセット→信号の順に確かめる手順がわかる
つまり、見積もりと実測をそろえて初めて安心できる。ずれは、回路を見直す大事な手がかりです。

よくある失敗3つ:平均で選ぶ・熱を忘れる・系統を混ぜる
消費電流の見積もりの失敗は、平均で電源を選ぶ・レギュレータの熱を忘れる・5V 系と3.3V 系を混ぜて足す、の3つが代表です。
失敗1:平均で電源を選ぶ
ふだん159mA だから500mA で十分、と考えると、送信の瞬間に電圧が下がってリセットします。電源はピーク(438mA)で選びます。
失敗2:レギュレータの熱を忘れる
同じ回路を12V から3.3V に下げると、電圧の差は8.7V。124mA でも(12−3.3)×0.124+12×0.005=約1.1W になり、SOT-223 の LM1117 では約70℃も温度が上がります。電圧の差が大きいときは、スイッチング方式の電源(DC-DC コンバータ)を考えます。
失敗3:5V 系と3.3V 系を混ぜて足す
電源の違う部品を1つの表で足すと、どの電源が足りないのかがわからなくなります。表は電源ごとに分け、レギュレータの入口でつなぎます。
つまり、「電源はピーク・熱は平均・足すのは電源ごと」。この3つを守れば、見積もりで大きく外すことはありません。


